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再会の時は……




 和の国を象徴する最大規模の建物には、これまた多くの魔物が集っていました。

 そこを守る兵士達は入口を守るように陣形を組み、その前には強固なバリケードを張って籠城戦を仕掛けています。


 兵士の数は多いですが、魔物に比べたら少数。

 安全に、尚且つ確実に倒していくには最善の戦略でしょう。



 でも、それでは決定的な解決策にならない。



 絶対に負けることはありませんが、絶対に勝つこともできない。

 それを証明するように、兵士と魔物の睨み合いが継続しています。襲撃があってからずっと続けているのでしょう。一瞬でも気を抜けない状況に、彼らの顔には疲労が浮かび上がっていました。



『ウンディーネ、私は今からアカネさんと合流します。そちらも火消しが終わったら、すぐに合流してください』


『わかった! うちも後処理だけだから、すぐそっちに向かうね!』


『了解です。では、後ほど会いましょう』



 念話で情報を共有し、私は「さて、と……」と魔物を眺めます。

 奴らは目の前の獲物に集中しているのか、背後から近づく私の気配には気付いていないようです。


 ──まずは、一気に数を減らしてしまいましょう。


「【風よ、縛り上げなさい】」


 魔物達の周りに風が渦を巻き、バラバラだったそれらを一箇所に纏めます。

 気持ち強めに練り上げた風の束縛からは、簡単には逃れられません。魔物達は必死に抵抗を試みますが、それらは全て無駄な労力。


「【マジックウェポン・大剣】」


 手元に出現した無骨な刃を握り、横薙ぎに振るいました。


「……はい。掃討完了」


 バリケードの前に張り付いていた魔物達は、一振りで全滅。

 視界にあった魔物を一気に纏めたので、取り逃しはないと思われます。もしあったとしても、数は少ないと思います。後は兵士だけで事足りるでしょう。



「リフィくん!」


 お義父さまが兵士達の中から出てきました。

 どうやら、彼らと共に戦い、その中で指揮を執っていたようです。


「お義父さま、ご無事でしたか」


「君こそ、姿が見えないから心配していたぞ。今までどこにいたんだ?」


「緊急の野暮用がありまして、この国を離れていました……まさかその隙に魔物の襲撃があるとは思わず、駆けつけるのが遅くなってしまい、申し訳ありません」


「いや、いいとも。襲撃は我々も予測できなかった。今は、君が無事だったことが何よりだ。……先程も助かった。ありがとう」


「見過ごすこともできませんから。それよりも現状ですが……」


 少しでも現状を知りたくて話を切り出すと、お義父さまは途端に顔を曇らせました。


「明日には式が控えているというのに、このような事態になり……本当に申し訳ない」


「お義父さまも、この件は予測できなかったと言いました。貴方が謝ることではありません」


 今は謝るより先に、この事態をどうにかするべきです。

 怪我をした兵士達を癒しつつ、私は今までの経緯を聞きます。


「観測も無しに魔物が襲撃を仕掛けてきた。まずは住民の安全を最優先に兵を動かしたが、和の国は広い。救助に駆けつけた時には、すでに火の粉は各地で巻き起こり、我らでも手に負えないほどに魔物も溢れ返っている」


「火の粉はもう心配いりません。私の信頼する契約精霊に助力を頼みましたので、もうほとんどの火は収まっているでしょう」


「なんと、それはありがたい。リフィくんが来てくれて、本当に良かった……」


「礼もいりません。私も、ここを守りたい気持ちは同じですから」


 火の粉が広がれば広がるほど、復興は難しくなります。

 最悪なことになる前に駆けつけられて、本当に良かった。


「しかし、魔物の目的は一体なんなのだ?」


 お義父さまは神妙な顔つきになり、顎に手を当てながらそう呟きました。


「今まで、こんな事態に陥ることはなかった。至る所から魔物が湧き出てくるなど、あり得ない事態だ。観測も当てにならない現状では、こちらも強く出られないだろう」


 魔物は普通、知性を持ち合わせていません。

 長い月日を生きた上位の魔物──洞窟で出会ったゾウさんほどの力を得られれば、最低限の知性は得られるでしょう。


 ですが、この国を襲撃している魔物に知性は備わっていないと考えられます。


 なのに魔物らは、それぞれが何かをしようと動いている。

 ──まるで、誰かに操られているように。



「心当たりがあります」


「……なんだと?」


「今回の裏にいる人物に心当たりがあります。そのことでアカネとミリアに話があります。……二人は今、どこに?」


「娘にはリフィくんの部屋から出ないようにと言ってある。ミリア殿も同じだ」


 二人一緒にいるなら、好都合です。

 しばらくすればウンディーネも合流するでしょう。


 四人で洞窟でのことを共有し、今回の襲撃者について話し合う。


 私は考えることがあまり得意ではありません。それはミリアさんも同じです。

 ですが、アカネさんならば頼りになる。


 彼女は私の信頼に値する──魔王軍の頭脳なのですから。


「お義父さまは引き続き、ここの防衛をお願いします。私の精霊に頼んで国の周辺に結界も張っておきます。新たな魔物が集まるようなことはないでしょう」


「了解した。ここの魔物もリフィくんが片してくれたので、兵力も他に回せるだろう。重ねて感謝する」


「どうか最後まで気を抜かぬよう。……では、また後ほど」


 互いに頷き、別行動となります。

 お義父さまは変わり始めた戦況で指示を執り、私は黒幕への対策を。


 そのためにはアカネさんとミリアさんの協力が必要です。

 借りている部屋の前まで辿り着き、中にいる二人を驚かさないよう、ゆっくりと扉を叩きます。


「アカネ、ミリアさん。私です。ただいま戻りました。……アカネ?」


 異常は、すぐに気づきました。

 いつまで経っても、中から返事は返ってきません。


 心がざわつきます。

 嫌な予感に呼吸が荒くなり、指先が徐々に冷える感覚がありました。


 どうか間違いであってほしい。

 そう願い、私はドアノブに手を────






 扉は抵抗なく、開かれました。






「アカネ! ミリアさん!」


 呼びかけに応えはありません。


 二人がいるはずの室内はもぬけの殻。

 そこにあった家具も、壁の飾りも、人も、何もかも。

 最初から何もなかったと言うように、そこには『無』だけが広がっていました。



「あか、ね……?」


 脳裏に思い描いていた婚約者。

 その姿は──どこにも無かったのです。




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