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変わり果てた和の国




 急いで戻った私達を迎えたのは、変わり果てた和の国でした。

 出発する時に見られた活気さはそこになく、至る所から火の粉が吹き荒れています。あの少年が操っているのか、そこには魔物らしき生物も見え、好き放題に暴れ、更に被害を拡大させています。


 あるところでは火消し隊の方々が忙しなく動き回っており、またあるところでは衛兵らが魔物と戦闘を繰り広げていました。



 この中で、私が、私達がやるべきことは────



「ウンディーネ。火消しの手伝いをお願いします」


『わかった……!』


 自分のやるべきことをすぐに理解してくれたウンディーネは、火消し隊が多く集まっている場所へ飛んでいきました。何体かの微精霊もそちらに付いて行ったので、火災はもう心配ないでしょう。


 あとは、魔物です。

 まだ城下街には相当な数が残っています。


 この国はとても広いので、全ての魔物を掃討するには時間が掛かるでしょう。それを終わらせる間に、どれほどの被害が増えてしまうか……。


 そう考えている間にも、魔物に不意を突かれて組み敷かれる衛兵が一人。


「【マジックウェポン・弓】」


 近距離武器や風の魔法では届かない。

 即座に判断し、弓矢を番えて放ちます。


 私の弓術は絶対必中。


 動き回る魔物であろうと、どこまでも追従して致命傷を与えます。

 今にも衛兵へ噛み付こうとしている魔物の頭部は見事に撃ち抜かれ、弓矢に付与していた小規模の暴風が魔物の体内から荒れ狂い、跡形もなく木っ端微塵になりました。



「え、なにが……?」


 何が起きたのか理解していない衛兵に歩み寄り、大丈夫ですかと手を差し伸べます。


「あなたは……いえ、あなた様は、もしかして」


「リフィ・ウィンドです。危ないところでしたね。……立てますか?」


「あ、ああ、ありがとうございます。アカネ様の婚約者様に助けていただけるとは、光栄です」


「それはどうも。次はそうならないよう気をつけて下さい」


 衛兵の手を握り、引っ張るように立ち上がらせます。

 見たところ、傷はないようですね。間に合って良かったです。


「アカネを探しています。彼女か、彼女のことを知る者は何処にいるかわかりますか?」


「……ミコト様ならば、この先の本部にいらっしゃるかと。彼が衛兵を指揮しているので」


 ほう、お義兄さんが衛兵を。

 それなりの実力者だと、最初に見た時はそう思いましたが、まさかそちらの方にも手を出せるとは。彼ならばアカネさんの居場所もわかるでしょうし、折角なので案内してもらいましょう。


「ミコト様のところへ案内していただけますか?」


「もちろんです! こちらへ!」


 案内されたのは街の広場。そこには緊急用で立てられたテントらしきものがあり、鎧を着た衛兵たちが忙しなく出入りしていました。


 お義兄さんはそこで指揮を執られているのでしょう。

 案内してくれた衛兵の方に礼を言い、見張り番に名を名乗ればすぐに中へ入れてくれました。


 中は案外広く、大きな卓上の上には和の国全体の地図が開かれています。

 それを真剣な眼差しで見つめているのは、久しぶりに見たお義兄さんです。


「お義兄さん、リフィです」


 よほど集中していたのでしょう。

 私が入ってきても気づいた様子はなく、声をあげることでようやく彼の目はこちらへ向けられました。


「おおっ、リフィくん! 無事だったか! 良かった。姿が見えないから心配していたんだよ!」


 それまで貼り付けていた将軍の顔はどこへやら、すぐに人懐っこい笑みを浮かべ、良かった良かったと手を握ってきました。


「個人的な用事で出ていました。駆けつけるのが遅くなり、申し訳ありません」


「俺達もこうなるのは予想外だったんだ。仕方ないよ。それよりも大事な義弟が無事だったことが何よりも嬉しいよ!」


 両手放しに喜ばれるとむず痒い気持ちになりますが、今は再会を喜び合っている場合ではありません。

 私は微笑みを伏せ、卓上に広げられた地図に目をやります。


「状況は?」


「……良いとは言えないね。予兆の無い魔物の襲撃だったから、対処に時間が掛かってしまった。リフィくんも見ただろう? 街はほぼ半壊。火の粉はそこら中に舞い上がっている。避難を最優先にしたから住民は無事だったけれど、正直、厳しいよ」


 住民は無事だったということがわかり、一先ず安心しました。


 やはりアカネさんの家族というだけあって、皆優秀です。

 避難を最優先に動いた彼らの判断は、間違いではありません。


「火消しの方はもう少しで終わるでしょう。私が最も信頼する相棒に火消しを頼みましたので」


「相棒? それは、一体……」


「ウンディーネ。お名前くらいは聞いたことがあるでしょう?」


「っ、その名前は! ……信じられないけれど、もし本当にその方が手助けをしてくれるなら、凄い頼もしい助っ人だね」


「ええ、本当のことなのでそちらはお任せ下さい」


 あちらの状況は逐一、ウンディーネより報告を受けています。

 私の名前を出せばすぐに協力者として受け入れてくれたらしく、今は広範囲に水を降らせて火消しを行なっているようです。



「とりあえず最悪の状況に陥っていなくて安心しました。それで、アカネは何処にいますか? 彼女と合流して魔物をどうするか話し合いたいのですが……」


「……ごめん。妹とはまだ会えていないんだ。用事があって外に出ていたところで、魔物の襲撃だからね。でも、父上のことだ。絶対に外へは出していないと思う」


「そうですか。わかりました。私は妻を最優先に動きます。しばらくは魔物をお願いできますか?」


「もちろんだとも。あの子の隣に君が居てくれるなら安心だ。……俺には、あの子を助ける資格がないからさ……」



 二人の間に何があったかは、アカネさん本人から話を聞いています。

 お義兄さんが思うほど彼女は貴方を恨んでいませんと、そう言いたいところですが……今はそれをする時間がありません。全てが無事に終わってから、心行くまで二人きりで話し合ってもらいましょう。



「妹を頼む」


「言われずとも。では……」


 テントを後にして塔へ急ぎます。

 あそこにはお義父さまもお義母さまもいて、魔王であるミリアさんもいます。


 最悪の事態になっていないと信じたい。

 ……なのに、私の胸にはもやもやとした不安が燻っていました。




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