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上手くいきませんね

 その日、私はいつの間にか知らない部屋に運ばれていました。


 何故いつの間にか。と言っているのか理由を説明しますと、あの後──勇者を適当に撃退した後、久しぶりに動いて疲れた私は、ちゃんとベッドで寝たはずでした。それなのに起きたらここに居たのです。流石の私もここまで寝相が酷いとは思いませんから、誰かによって運ばれたのだと推測しました。


 そこに居たのは少し見知った顔でした。

 魔王ミリアさんの配下である三人、ヴィエラさん、ディアスさん、アカネさん。そして私をここに運んだであろうミリアさん。

 ……どうしてミリアさんが犯人だと思ったかですか? あんな自信満々そうな顔をしていたら、誰だってあの魔王を疑うでしょう。


「リーフィア、どうしてお前がここに呼ばれたかわかるか?」


「それは私が聞きたいくらいですし、呼ばれたのではなくて運ばれたんですけど」


「こ、細かいことはいい! それで、お前はどうしてここにいるのだと思う?」


「知りませんよ。何ですか。今更私が怪しいとか思って拷問ですか? 喧嘩しますか? いいでしょう、受けて立ちます。ちなみにミリアさんだけにはお尻ペンペンの刑を追加ですよ」


「待て待て待て、ちょっと待ってくれ? まずはその手を下げよう? な?」


「……なんだ、喧嘩じゃないんですか」


「むしろ、どうしてそんなに好戦的なのか疑問なんだが──コホンッ! して、リーフィアよ。その様子だと、どうやらお前がやったことの重大さを理解していないようだな」


 私がやったことの重大さですか? ……うーん、そんなに重大なことを何かやりましたかね。ここまでミリアさんがしつこいということは、十中八九ミリアさんに関することですよね。ええ、どんなに思考を巡らせても思い至ることが出てきま────あ。


「もしかしてミリアさんのプリンを勝手に食べたことを怒っています? いやぁ、あれはミリアさんも悪いと思いますよ? ちゃんと名前はわかりやすいところに書かなきゃ。ちなみにとても美味しかったです。またあれ買っておいてください」


「お前っ! あれ食べたのお前だったのか!? 仕事終わったら食べるんだと、めっっっちゃくちゃ楽しみにしていた余の気持ちがわかるか!? 本当にあの時は泣いたんだからな!」


 魔王がプリン食べられたくらいで怒らないでくださいよ。

 だって、何か小腹が空いたなと思って、食堂の冷蔵庫を開いたら美味しそうなプリンがあったんですもの。食べ終わって初めて、カップの底に名前が書かれていたのを見つけた時はどうしようかと思いましたが、その時はとりあえず食べ終わったカップを戻しておきました。

 それから一週間。全然話に出てこなかったのでバレていないと思っていたのですが……まさか今になってそんなことで呼び出されるとは思っていませんでした。


「って、ちがーう! 今回呼び出したのはそれじゃない! いや、プリンのことは後で詳しく問い詰めるが、今はそうじゃない!」


「あれ、違いました? じゃあ、あのことでしょうか。……いや、あれは完璧に証拠隠滅したので問題ないはず。だとしたらあの件……?」


「うぉいちょっと待て! まだ何かやっていたのか!? ……まさかっ、最近になって余のご褒美がことごとくなくなっているのは全てお前のせいなのか!?」


「…………はて? ミリアさんが何を言っているのか理解できませんね」


「お前そこまで言っておいてとぼけるな!? くそっ! お前の悪事が全て明らかになるまで帰さな──」


「……すぅ、すぅ…………zzz」


「ね・る・なぁあああああ!」


「うおっ、びっくりしました……」


 ミリアさんから特大の魔力弾が放たれます。

 寝起きドッキリを喰らったような破裂音です。鼓膜が破れたらどうするんですか。……まぁ、私は回復魔法があるので問題はないのですが、それでも人に攻撃するのはよくありません。


「何で余の魔法に直撃してピンピンしているのだ! 本当に何なのだお前は!」


「え? 出会った時に言っていませんでしたっけ? 私はリーフィア・ウィンドです」


「名前を聞いているのではないわアホ!」


「人をアホと言ってはいけませんよ? これでもあなたは魔王なのですから、口調には気をつけないと」


「ごめんなさい──ってこれもちがーう! うわぁあああん! アカネ助けてくれぇ!」


「おー、よしよし。ミリアも大変じゃのぉ」


 魔王が配下に泣きついている光景。これはレアですよ。

 皆さんカメラは持ちましたか? ……ってこの世界にもカメラはあるんですかね? それも勇者と会った時に聞いてみましょう。


「リーフィアよ。あまりミリアをいじめるものではないぞ?」


「……すいません。この人の反応が面白くて、ついついやってしまうんです」


「まぁ、気持ちはわかる」


 泣きじゃくっていたミリアさんの顔が、絶望に変わるのを私は見逃しませんでした。

 一番信頼していた部下に裏切られたと思ったのでしょう。本当に反応が面白い魔王です。


「それで、本当に何で私はここに強制連行されているのでしょうか? 説明を求めても?」


「うむ……ことは昨日の勇者の件じゃ。お主、勇者を追い払ったのじゃな?」


「まさか疑っているのですか? でしたら、残っている斥候を向かわせればわかることだと思いますよ」


「……いや、それは昨日の時点でもう向かわせた」


「なら、結果はわかっているはずだと思うのですが? ……あ、勇者戻ってきました? おかしいですね。両腕両足、腹と背中、合計六本は当てたのですが……私が思ったよりもしぶとかったようですね」


「おおぅ……むしろよくもそんな正確に当てたものだと感心したぞ。安心しろ。勇者は確かに撤退したようじゃ」


「そうでしたか。それならよかったです」


 では、いよいよ私がここに呼ばれた理由がわからなくなってきました。

 ミリアさんのプリン盗み食い事件でもない。勇者を追い払えなかったことでもない。だとすれば、他に私が思いつくことはありません。……さっさと用件だけを言ってくだされば話は早く進むというのに、どうしてこの人達は言葉に悩んでいるのでしょう?


「なぁ、リーフィア」


「はい、何ですか? ディアスさん」


「お前、異世界人なんだって?」


「どこからそれを、ってミリアさんでしょうね。はい、そうですよ? それがどうかしましたか? あ、まさか異世界人だからって勇者の仲間だと思われちゃっていたりします?」


「……いや、そこは疑っていない。お前は嘘を付くような奴じゃないって俺の勘が言っているからな」


 それは何とも便利な勘ですね。ですが、この三人は私が異世界人とわかっていたのですね。一体いつ話したのでしょう……考えられるとしたら、ヴィエラさんと決闘をしていた時でしょうか。もしそうでしたら、あの時特等席で騒いで私を見ていたのに納得がいきます。そして、ヴィエラさんはその後に聞かされたのでしょう。


 私のいないところで勝手に私のことを話されるのは恥ずかしく思いますが、まぁ別に隠す気もなかったのでどうでもいいです。


「俺は人間側だった人間だ。異世界人には会ったことは何度もある」


 やはり人間側に異世界人が居るようですね。勇者は異世界人確定として、一体何人くらい存在して居るのでしょう? あまり数は多くないとしても、十人くらいは居ると考えておきましょうか。


 ディアスさんの話はまだ続きます。


「だが、俺が出会った異世界人と比べて、お前は異常だ。まだあいつらは戦うことも知らないガキだった。当然、剣なんて振ったことがない奴ばかりだ。なのに、お前はどうしてそんなに力を発揮出来ている?」


 珍しく真剣な表情で、ディアスさんが私を見つめます。まるで私という全てを覗こうとしているようで、変な緊張感が私を襲いました。

 部屋の空気もそれに感化されたのか、ピリピリとした緊張感が漂っています。


 ──ゴクリ。と誰かが生唾を飲み込んだ音が、静まり返った部屋の中で妙にはっきりと聞こえました。


「単刀直入に聞く。お前は、何者だ?」

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