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相手になってあげましょう




 ゾウとの最後の対峙を済ませた後、私たちは洞窟を出て真っ直ぐに帰路へついていました。


 行きは何とも思わなかった道のりですが、帰りは煩わしいこと限りなし、です。


 あえて遠い洞窟を選んだのも、私の邪魔をするためなのでしょう。

 思惑を察した私がすぐに戻れないように、こうして苛々を募らせるために。私を弄ぼうとしているその魂胆が、うざいほどに見え隠れしています。


 ……ええ、その通りですよ。

 あなたが望む結果になって、私はこれ以上ないほどに苛々しています。


 ウンディーネやアカネさん、皆をおもちゃや道具のように利用されて、怒りを覚えないとでも?




『……リーフィア、大丈夫……?』


 背中に投げかけられた、弱々しい声。

 私は立ち止まり、振り向きます。


「これが、大丈夫に見えますか?」


『……っ、ごめん、なさい……』


 ハッとして顔を俯かせた彼女の口から出てきたのは、絞り出したような弱々しい謝罪の言葉。


『うちが、油断したせいで……こんなこと、に』


 ウンディーネの声が上ずり始めたことで、言い方がきつくなってしまったことを今更後悔します。


 この子は何も悪くありません。

 むしろ、驚異が迫っていることに一早く気づき、自ら動いてくれました。全ては私とアカネの結婚式が上手くいくようにと、そう思って……。



 ──そんなことすら、わからなくなっていました。

 私のために頑張ってくれた彼女に当たるなんて、私は最低です。



「申し訳ありません。ウンディーネは何も悪くないのに、貴女に当たってしまいました」


 深く頭を下げ、謝罪を口にします。

 許してくれるでしょうか。これで許されずとも、仕方がないと諦めるしかありません。


『リーフィアの気持ちは、うちも凄くわかる……だから、うちは怒ってないよ? リーフィアが、うちを大切にしてくれているのはわかっているし……同じくらい、アカネも好きなんだって、ちゃんと知っているから』


 そんなに確信を持って言われると、流石に照れてしまいますね。


 まぁ、間違いではないので否定はしません。

 むしろ肯定するべきでしょう。


 私はウンディーネが大好きです。

 そして、同じくらいアカネさんのことも。



 だから、我慢ならない。



 私の大切なものを、一度ならず二度までも。

 その報いは必ず、どこかで晴らしてやります。


「……今回のことは、腹が煮え繰り返る思いです。選択を間違えた。片方だけではなく、両方を守るように考えておけばと。それを視野に入れていれば、こんなことにはならなかった。ウンディーネは好きなだけ、私に文句を言ってください。そうされるだけの愚かさを見せてしまったのですから」


『うぅん……うちも、一人で頑張ろうとしないで、最初からリーフィアにお願いをしておけばよかった……そしたら、こんなことにはならなかったのに…………本当に、ごめんなさい』


「では、お互い様です。これからは遠慮せずに、お互いを頼ることにしましょう。私も、あの時無理を言ってでもウンディーネに同行していればと、心から後悔と反省をしているので」


『リーフィア……うんっ。うちも、もう無理をしないって誓う。だから、頑張ってアカネ達を守ろう?』


「ええ、そうですね。それに、アカネは強いです。魔王軍幹部ですからね。ついでにミリアさんもいます。最悪のことはないと信じて、私達も急いで帰りましょう」


 額を合わせ、お互いに許し合った私達。

 至近距離にある愛らしい契約精霊を抱きしめてやりたい気持ちになりますが、それは全てが終わってからです。


 今は、あの少年の思惑を消し潰すことだけを考えましょう。


「ウンディーネ。他の精霊達にも協力をお願いしたいです。直接手を加えることは出来ないと思いますが、現在の状況を把握するだけでも充分にありがたいので」


『もうやっているよ……でも、変なの』


「変? それはどういうことです?」


『あの国にも、うちの子達はいっぱいいるのに、何度呼びかけても返事が返ってこないの。……まるで、精霊そのものを邪魔しているみたいに、うちと微精霊との間に変なのが纏わり付いているみたいで…………ごめんなさい』


「いえ、ウンディーネが謝ることではありません。でも、そうですか。これは面倒なことになりましたね」



 腕を組み、考えます。


 これもあの少年がやったと見て間違いはないでしょう。

 洞窟でウンディーネを無力化していたことから、精霊への対処は誰よりも理解していると考えれば、他の微精霊達が無力化されていてもおかしくはありません。


「ウンディーネは大丈夫ですか?」


『うち……? うーん、少し縛られている気もするけど……多分、リーフィアが近くにいてくれるから、まだ大丈夫だよ!』


「なら、良かった。無理だけはしないでくださいね」


 頷いたのを確認してから、私は走り出します。

 長い道のりが鬱陶しいことに変わりはありません。


 ですが、先程までの怒りは収まっていました。


 今の私にあるのは、婚約者の安否を心配する心のみ。

 色々と考えてはいますが、結局……彼女達さえ無事でいてくれたら、私はそれで充分なのでしょう。



「きっと、あなたはこの騒ぎをどこかで見ているのでしょう」


 全てを巻き込んでまで、私に執着するような男です。

 誰にも見られないような場所で、ひっそりと私の決断を観戦しているのでしょう。


「あなたが何を企み、何を成し遂げようとしているのかはわかりません」


 ですが、もうあなたの思い通りにはなりません。


「掛かってきなさい、少年。

 ──お姉さんが相手になってあげます」


 不敵に笑い、挑発した態度を取ってみせます。

 それに呼応するように、周囲の木々はざわめき揺れ動きました。





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