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山との対峙です




 ウンディーネの気配があるのは、和の国からかなり離れた森の中。


 馬車で行くには丸一日を必要としますが、私ならば数分で到達可能です。

 少々無理をしているので体力の消耗は激しいですが、これもウンディーネのため。この程度であれこれ文句は言いません。



「あの子は、まだ無事なようですね……」


 前に説明しましたが、私とウンディーネは見えない線で繋がっています。

 契約者によってはどこまで情報を共有するかの制限を設けているようですが、私達の仲です。そんなものは必要ありません。


 彼女が今どこにいるか、彼女は無事なのかは手に取るようにわかります。


 ウンディーネは森の奥深くにある場所から動いていません。

 反応は地面の下にあるので……地下に通じる洞窟でもあるのでしょうか。


 危険な状態ではありません。

 それはずっと続いています。



 ──だからこそ怪しい。



 何もないのであれば、ウンディーネは私に報告をくれるはず。

 なのに彼女はそれをしない。それどころか一歩も動くことなくその場に留まっている。呼びかけても反応はありません。なのに、彼女の身には何も起きていない。


 強制的に、そうさせられているようにも思えます。


 どうしてそんなことをするのかはわかりません。


 私を心配させないように?

 なら、定期報告を寄越してくれるはずです。



「嫌な予感がしますね」


 森に入った時から、それは感じていました。

 この予感が当たって欲しくないと願いつつ、私は彼女の元へと走ります。


 不思議な感覚です。


 森は樹海のように生い茂っているのに、私が走る場所は不自然なほどに整備されている。

 まるで誰かに導かれているように────。


 考えすぎでしょうか?


「……ダメですね」


 一回、冷静になって落ち着きましょう。

 嫌なことが重なると、どうしてもマイナス意識が働いてしまいます。


 ウンディーネがどのような状況になっていたとしても、安全だという共有情報だけは覆せません。最悪の事態に陥っていないことだけが、不幸中の幸いなのでしょう。



 ──大丈夫。

 ──あの子は、無事です。



「契約者である私が、あの子を信じなくてどうするのですか」


 と、自分に言い聞かせました。

 何度も何度も、心の中で『大丈夫』と復唱します。


「…………すぅ、はぁ……」


 胸に手を置き、深呼吸。


 これは単なる気休めでしかありません。

 でも、少しは落ち着きを取り戻せたでしょうか。




「……先を急ぎましょう」


 再び駆け出します。


 私は今、二つのことを成し遂げなければなりません。


 一つ、ウンディーネの救出。

 このために私は動き出しました。


 一つ、アカネさんとの結婚式までに帰る。

 彼女は、私との結婚式を楽しみに待ってくれています。絶対に無駄にするわけにはいきません。



 焦りは禁物です。

 それは大きな隙を生み出します。


 ですが、焦らなければ間に合いません。


 ウンディーネですら手こずるような未知の相手。それを相手にするのですから、私も下手したら何日も掛かってしまうかもしれません。だから全力を出します。


 速さは私の得意分野です。

 素早く駆けつけて、ウンディーネを救出する。


 簡単なことに思えますが、少しでも失敗すれば何もかもが狂ってしまう。




 嫌な予感は続いています。

 辿り着いた洞窟の入り口は、侵入者を丸呑みしようと口を開ける竜の顎門のよう。


 そう思えるほどの威圧感を、ひしひしと感じます。


 いつもならば面倒事は御免だと回れ右をするところ。


「……それでも、行きましょう」


 この先にウンディーネがいる。

 ならば、私の選択は一つです。



 洞窟の中は迷路のように入り組んでいました。

 暗視や魔力反応で周囲の反応を追えなければ、絶対に最奥地までは辿り着けないでしょう。


 魔物も、うじゃうじゃといます。

 私はそれらを一切無視して駆け進み、正面に立ちはだかるものは即座に斬り捨てました。


「にしても、馬鹿みたいにいますね」


 思わず悪態をついてしまいました。


 それだけ魔物の数が多いです。

 森に生息している魔物の全てが、この洞窟に集結していると言われても疑いませんよ、これ。



「あー、もうっ、うざいです……!」


 風を身に纏います。

 ただの風ではありません。


 触れたものを瞬時に切り裂く、刃物のような風です。


 強力なだけに魔力消費が激しいですが、関係ありません。

 私はそれを維持し続けながら、臆することなく魔物の中を突っ切ります。






 ウンディーネを目指して進むこと、数分。






 ようやく、最奥地まであと一歩のところに辿り着きました。


 そこは洞窟の中とは思えないほどの、とても広い空間。

 私が出てきた場所の反対側には、何やら怪しい巨大な扉が────あの奥に、ウンディーネを感じます。



「でも、その前に」


 広間の中央まで歩いた私は、溜め息を一つ。

 即座にそこから飛び退きます。


 その直後、真上から巨大な拳が降ってきました。

 衝撃が空気を揺らし、洞窟全体を振動させ、パラパラと天井から塵が降り注ぎます。




 ──それは『山』でした。

 そう呼ぶほどの大きな体です。


 生前の世界の生き物で例えるならば、ゾウですかね?

 それが何倍にも大きくなっていて、しかも二本足で立っています。




 ブモォオオオォオオオオオオオオオオ!!!!




 どうやら、相手もやる気のようです。


 ……いいでしょう。

 どのみち、こいつをやらなければ先へは進めないようです。



「来なさい、デカブツ」


 不敵に笑い、そいつに向けて指先を折り曲げます。



「動きづらそうなその身体──私が斬り刻んで差し上げましょう」





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