囁くのは、あなたに
注意)描写が過激かもしれません。
「はぁ……結婚ですかぁ……」
自室に戻り、私は天井を見上げていました。
「結婚式は人生の大舞台。そのために遠出して来たとは言え、改めてその日が近づいていると知ると、緊張しますねぇ」
アカネさんの花嫁姿。
きっと、それはそれは美しいことでしょう。
そんな人が、私のお嫁さんになる。
素直に喜んでいいことです。
当日までにウンディーネが戻ってきてくれると嬉しいのですが、あの子は大丈夫でしょうか?
私達は深い部分で繋がっているので、危険な目にあっていないことは理解しています。でも、やはり元気な姿を見ていないと心から安堵するのは難しいですね。
──っと、今は花嫁のことに集中しましょう。
ウンディーネも、折角の式を台無しにしないようにと気を遣ってくれました。その気持ちに甘えることにして、私は気楽に彼女のことを待ちます。
「その、リフィ……?」
戸惑うような声は、私の腕の中から聞こえました。
「どうしました? アカネ」
「どうした、じゃない。妾達はどうしてこのような格好になっているのじゃ?」
首をかしげます。
アカネさんは今、私の腕の中にいます。
彼女のことを後ろから抱きしめている形ですね。
それのどこが変なのでしょうか?
「変じゃろう!」
私の内心を悟ったのか、アカネさんは声を荒げます。
その拍子に、洗剤の良い匂いが鼻腔を通ります。
とても安心する花の甘い香りです。私の好みに合わせて洗剤を使ってくれているのでしょう。
ぎゅっと締め付けを少し強めると、悶えるような可愛らしい声が聞こえました。
「私、今とっても暇じゃないですか」
「なにを、急に──ひゃうっ」
「それに、先日のデートの疲れがまだ取れていないのですよ」
「あ、あんなに、眠っておいて……まだ疲れている、と?」
絞り出したような、か細い声。
トクンットクンッ……と、心臓の音がしました。
密着しているからか、余計にそれは大きく聞こえます。
「ええ、私って瞬発力はあっても持久力がないんですよね。だから動く気力もなくて困っています」
「それと、妾の体に触れることと、何の関係が、っ、ん……!」
「わかりませんか?」
「わかるわけがないだろう!」
怒られちゃいました。
私の嫁になるのだから、この程度は理解してほしいです。
……まぁアカネさんは純情ですからね、仕方ありませんね。
「ウンディーネだったら、この程度のことは何も言わずに受け入れてくれますよ」
「だからって、妾にも同じことをする必要は──」
「嫌ですか?」
「っ!」
着物がはだけて露出した背中を、ツゥとなぞります。
ビクンッ、と体が震えました。
「答えが聞こえませんね。どうなのですか?」
拘束を解きます。
でも、アカネさんは動きませんでした。
私から逃れる唯一のチャンスです。
聡明な彼女が、それを無駄にするなんてあり得ませんよね。
「…………や……で、ない」
「もっと強く言ってください」
──じゃないと聞こえないでしょう?
顔を近づけ、吐息交じりに囁きます。
「リフィ、は……いじわるだ」
「あなたにだけ、ですよ」
性格は悪いと自負していますが、別に誰かをいじめるのが好きなわけではありません。
でも、どうしてでしょうね。
アカネさんをいじめるのは、楽しいと思えてしまいます。
恥ずかしがる姿を見ると、体がゾクゾクします。
赤くなる頬を眺めると、その顔がどこまで羞恥に染まるのか気になってしまいます。
普段は凛とした態度の彼女が、小動物のような震えた声を出す様は、言い知れぬ快感を覚えます。まるで私が肉食になったような感覚です。
「さぁ、アカネ? 言って?」
顔を覗き込みます。
アカネの瞳はうるうると揺れ動き、唇は艶があります。
今までで一番の色気を感じられる姿に──私はとっくに我慢の限界を迎えていました。
「いや、じゃない」
先程よりははっきりと聞こえました。
──でも、まだ小さいですね。
私はニコニコと、微笑むだけです。
それでは足りないと言いたいのだと、アカネさんは悟ったのでしょう。絶望したような表情は、すぐに見えなくなりました。
「逃げられると思いましたか?」
そっと顎を掴み、強制的にこちらへ顔を合わせます。
「い、いやじゃない! もっと、してほしい! ……でも、」
「でも。なんです?」
「優しく、してくれ……」
私のお嫁さんはわがままです。
ほくそ笑み、頷きます。
「仰せのままに、私のお姫様」
「…………あ、……」
向きを変え、ベッドに押し倒します。
いくら純情なアカネさんとは言え、この後の展開を想像できないわけがありません。
抵抗はされませんでした。
了承の意だと捉え、私は────
「大好きです」
何度も、愛を囁いたのでした。
酒に酔った勢いでの出来事でした。
後悔も反省もしていません。むしろ清々しい気持ちです。




