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反撃を食らいました




『……リーフィア……少し、いい?』


 お花を摘みに席を外し、用を済ませた私に、ウンディーネが声を掛けてきました。

 何かを思い悩んだような表情を見て、何かあったのだとすぐに察した私は、頷いて人気の無い場所へ移動します。


 念のために遮音の魔法も掛けておきます。

 ウンディーネが私のことを『リフィ』ではなく『リーフィア』と呼んだということは、非常事態発生ということでもあります。



「どうしました?」


 そう問いかけると、彼女は少し言い澱みました。


『うちの子達が、変なのを見たって……』


「変なの? ……それは、なんです?」


『わからない。でも、その子達が指差した方……嫌な感じがする』


 ウンディーネは渋面を作りました。


 精霊は魔力に敏感です。

 九割がそれで構成されていることもあり、少しの乱れでも気分を悪くさせます。


 そんな彼女が、水の最高位精霊がここまでの反応を見せるということは、相当なものなのでしょう。


「危険なものですか?」


 もしかしたら今を脅かすものかもしれない。

 そう思い、警戒心を引き伸ばします。


『それも、わからない……でも、気になるの』


 つまりは、それを調べに行きたいということですか。


「私も行きますか?」


『様子を見るだけだから、大丈夫。リーフィアは待っていて』


「ですが……っ、わかりました」



 今ここで私が外に出れば、アカネさんやミリアさんに勘付かれます。

 彼女達を、わざわざ危険なことに巻き込むわけには行きません。


 ウンディーネもそう考え、私が一人になったタイミングで話を切り出したのでしょう。



「危険だと思ったらすぐに引き返してください。その時は私も一緒に行きます。絶対に無理だけはしないように。決して油断はせず、常に自分の安全を考えてください。約束です」


 ──貴女はもう貴女だけのものではないのですから。


「わかりましたね?」


『リーフィア……うんっ……約束する。うちは絶対に、リーフィアのところに帰ってくるから』


 小指を絡め、約束を交わします。

 本音を言えば心配でたまりませんが、彼女を信じることも契約者の仕事です。



『それじゃ、行ってくるね』


「ええ、行ってらっしゃい」


 最後にウンディーネの体を抱きしめ、頬にキスを落とします。

 彼女はニコリと笑うと、その体は霞のように薄くなり、空気の中に溶け込んでしまいました。


「…………お気を付けて」


 それを見送り、私は席に戻ります。









「ん? リフィ、おかえりなのだ」


「ええ、ただいま帰りました」


「先程、ウンディーネもそちらに行ったが、どうしたのじゃ?」


「……なんか、興味のあるものがあったとかで、それを見に行ってくると下に降りて行きました」


 嘘は言っていません。

 なので、聡いアカネさんも怪しいとは思わないでしょう。



「そうか……まぁ、ウンディーネなら悪漢に出くわしたとしても大丈夫じゃろう」


「余も行きたかったが、仕方ない。後で土産話でも聞くとしよう!」


 案の定、お二人は信じてくれました。

 少しの罪悪感を覚えつつ、私は席に座ります。



「それでリフィ。次の予定なのじゃが」


「ヴィエラとディアスへのお土産を買おうと思っているのだ! それと自分達へのお土産もな!」


「…………と、いうことになっている。問題ないか?」


「ええ、私もお二人へのお土産を購入しなければと考えていたので、ちょうどいいです」


 お土産は一人で考えるより、誰かと一緒に購入した方がいいでしょう。


 なので、このお誘いは好都合です。

 食べ物でも私の収納があれば永久保存が可能なので、選択肢は多いです。



 ……今日は、それを選んで終わりですかね。



「ヴィエラは何が喜ぶだろうか! ディアスは適当な木刀を渡しておけば大丈夫だろ!」


「もうちょっと捻ってあげてください。でも木刀は賛成です」


 旅行先で木刀を購入するのは男子生徒の憧れですからね。知りませんけど。


 ……にしても、皆してディアスさんの扱いが雑ですね。

 ただの自業自得なので同情はしませんが、一応仲間なのだからもう少し優しくしてあげてもいいとは思います。面倒だから私はやりませんけど。



「土産屋は沢山ある。色々見ていれば良い物は見つかるじゃろう。少々高くなっても妾の奢りで、」


「お土産まで奢られるのは申し訳ないので、それは私が払いますよ」


「いや、しかし……」


「お土産は渡す側の気持ちも大切なのです。自分の金で買っていない物を、私はお土産として渡したくありません」


「…………わかった。そこまで言うなら、仕方ない」


 ぶっちゃけ奢られるのはあまり好きではありません。

 人の金で食う肉はうめぇと聞きますが、そう何度も奢っていただくと逆に申し訳なくなります。


 私も給料はちゃんと貰えているのですが、自堕落な生活を送っているために使い道が無いです。

 なので、このような機会に消費しておかなければ腐ってしまいます。


 ……まぁ、全て収納空間にあるので実際に腐りはしないんですけれど、言葉の綾というものですよ。



「う、うむっ……余も、じ、自分の金でお土産を買う、ぞ……!」


 とても小さな小銭袋を取り出し、所持金と睨めっこをする魔王。


 これはこれで「魔王軍大丈夫か」と思われそうな光景ですが、ミリアさんは一気にお金を使ってしまう傾向にあるので、ヴィエラさんが管理することになっています。あの様子を見るに、今回はお小遣い程度のお金しか渡されなかったようですね。



「ミリアさんの分も私が払いますよ」


「え……だが……」


「いつもお世話になっているお礼です。上司はああだこうだ考えず、部下の言葉に甘えておけば良いんですよ」


 小銭袋を見つめてオロオロしている姿は、流石に見ていて可哀想になってしまいました。

 それに彼女に奢るのも一度や二度のことではないので、今更です。



「うむっ! ありがとな、リーフィア!」


「どういたしまして。リフィです」


 こうして感謝されるだけで満足するのですから、私も丸くなりましたね。



「ふっ、リフィは優しいな」


「惚れ直してくれても良いんですよ?」


「馬鹿言え。すでにベタ惚れじゃよ」


「おぉぅ……」


 そう恥ずかしげもなく言われると、こっちが照れてしまいます。


「やられっぱなしでは無いということじゃよ。妾だって時に反撃する」


「…………さよですか」


 アカネさん、戦いの中で成長していました。


 流石は私の自慢の妻です。

 ──やりおる。



「では、そろそろ出ましょう」


「ああ、そうじゃな」


「うむっ! 美味しかったぞ!」


「それはシェフに伝えてあげてくださいね」


 予想よりも長居してしまいました。

 私達はシェフに感謝の言葉を伝え、高級レストランを後にしました。


 外に出た時、ちょっとした開放感に感動を覚えたのは内緒です。




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