女ったらし、とは
少しして運ばれてきた料理は、当たり前ですがどれも美味しいものでした。
唯一残念だったのは、緊張して料理の味をあまり覚えていないことでしょうか。
美味しかったという感想だけはあるのですが、それがどのような味だったかが記憶に残っていません。
──やっぱり私には、サ○ゼリアがお似合いなのでしょう。
「…………(ジー)」
「ん? なんじゃ、妾のことをじっと見つめて」
「…………いえ、何でもありません」
アカネさんって、本当のお嬢様なのですね。
すでにわかっていたことですが、改めてそれを理解しました。
なんか、口元を拭く動作すらも、お嬢様のように見えてしまいます。
「ふははっ、見ろアカネ。あのリフィが緊張しておる」
──この魔王、うっさい。
「む……折角だから美味しい料理をと思って国一番の場所を用意したのじゃが、リフィには余計な気遣いだったかもしれぬな。すまぬ」
「謝るのはよしてください。私を喜ばせようと頑張ってくれたアカネには感謝しています。ちょっと予想外の場所だったので、驚いただけですから」
余計なお世話だなんて、一つも思っていません。
申し訳なさそうにされたら、逆にこっちが申し訳なくなります。
「アカネ。私をこのような素敵な場所に連れてきてくれて、ありがとう」
「っ、き、きき気にするでない! 妾はしたいことをしただけじゃからな!」
「ええ、私が言いたかっただけです。なので、この言葉を素直に受け取ってくれると助かります」
ニコリと、笑みを浮かべます。
何度も言っていますが、アカネさんはこの時のために準備を整えてくれました。
そのことを私はありがたいと思っていますし、今日は彼女のおかげで十分に楽しめました。
だからお礼を言いたかったのです。
「それにしても、こんな豪華な店は生まれて初めて来ました。私としたことがみっともなく緊張してしまい、お恥ずかしい限りです」
「そんなことはないぞ。リフィが動揺する姿もかわい──んんっ。新鮮だった」
今、『可愛い』って言いかけましたね?
私は比較的温厚な性格ですが、見逃しませんよ、それ。
「まぁ? 私を楽しませようとデートの……デートの計画を一生懸命練ってくれたアカネには、本当に感謝していますよ? ええ、本当です。こんな可愛くてしっかり者のお嫁さんを持てて、私は幸せ者ですね。これからも一生側に居てほしいですね」
「〜〜〜〜っ!!! リフィ……!」
「ふっ、お返しです」
──私の勝ちです。
口論で私に勝とうなんざ、百年早いんですよ。
『ねぇリフィ……うちは? うちは、どう……?』
と、ここでウンディーネ参戦です。
「もちろん」
私は微笑み、ウンディーネを抱き寄せます。
「大好きですよ。何があっても手放しません。絶対に……。
一生私の正妻として側に居ていただくので、覚悟してください」
『ふにゅぅぅぅ……』
ボンッと盛大な音を立て、全身が真っ赤に染まったウンディーネは、私の体に力無くもたれ掛かってきました。蒸発しかけているのか、頭からはちょっとだけ湯気が出ています。
「あらら、ウンディーネには少し刺激が強かったみたいですね」
「…………いや、少しの問題じゃないだろう。というか上司の前で何しているのだお前は。二人も骨抜きにして見せつけているのか?」
「おかしいですね。そのような自覚は無く、本音を言っただけなのですが」
「確信犯だ、こいつ」
戯けるように首を傾げたら、ミリアさんに溜め息を吐かれてしまいました。
「まぁまぁ、そんなに羨ましそうに見ていないで、どうです? ミリアさんも混ざります?」
「え、遠慮する! 余にはまだちょっとだけ刺激が強い!」
「……いや、なんですかそれ」
言葉を囁くだけなのに刺激って、大袈裟ですね。
……まぁ、拒絶されてしまったのであれば、仕方ありません。
「はぁ……命拾いした」
私が諦めたのを察したのか、ミリアさんは椅子に凭れ掛かりました。
額にはちょっとした汗が見られます。
「そろそろ酷いですよ?」
「お前が悪いのだ! この、女ったらし!」
「いや、女ったらしって、私も女……」
「両手に華を抱えている奴は、総じて女ったらしだ!」
「めちゃくちゃな暴論言っている自覚はおありで?」
「では、ハーレム野郎だ!」
「どこでそんな言葉を覚えたんですか」
「ディアスだ! リフィのような奴のことを、そう呼ぶと言っていた」
「でしょうねぇ」
『ハーレム』なんて言葉は、この世界にはありません。
その言葉を知っているのは、魔王軍の中では私以外に一人しか居ません。
おそらく『女ったらし』という言葉も彼が教えたのでしょう。
あの人、本当にロクなことを教えませんね。
……後でよぉく言っておく必要がありそうです。




