私には知り得ないことです
「やがてお前は全てを失うことになる」
その言葉は、そのままの意味なのでしょう。
私はやがて全てを失うことになる。
それがどのような経緯でなり得るのかはわかりません。
誰も守れないのか、皆が死んで行くのか。
「その時になって後悔したくないだろう? ならば、今のうちから己を見つめ直すことだな」
「……あなたは、どこまで知っているのです?」
私の質問に、ロリ神は腕を組みます。
「わしはこれでも、それなりの地位にある」
質問の答えにはなっていませんが、私が聞きたいことはある程度知っているのでしょう。
でも、あえて言わずに言葉を濁した。
神の方にも言えない事情があるのかもしれませんね。
「私はどうすればいいでしょうか」
「自分で考えるが良い。そのための力だ」
これも教えてもらえませんか。
……ちょろい癖にガードは堅いんですよねぇ。
「リフィの妻となる者よ」
ロリ神の視線が横に移ります。
「形だけの婚約だとしても、こいつと一生付き合う覚悟を持て。生半可の覚悟は何も救えず、結果身を滅ぼすぞ」
「わ、妾は、っ」
アカネさんに手を伸ばし、ロリ神から庇うような姿勢になります。
自分のことは自分でなんとかします。
ですが、他人を巻き込むような真似は許しません。
私は、私のせいで誰かが荒事に巻き込まれるのを好みません。
たとえそのせいで私に全ての責任が来ることになっても、これだけは絶対です。
それが私の身近にいる存在なら尚更です。
「これは私の問題です。妻を巻き込まないでいただきたい」
二人して魔王軍に所属している以上、完全な無関係とは言えません。
でも、巻き込まれる必要が無い人を巻き込むのは許しません。
──それが神であろうとも。
「リフィ。いいのじゃよ」
アカネさんは手を握り、静かにそれを押し退けました。
「貴殿が何者かはまだわからぬ。だが、それはお節介な言葉というものじゃ」
「──ほう?」
ロリ神が目を細めました。
その口元の端は、小さく釣り上がっています。
「妾はこの者を心から愛している。形だけの婚約に見られようと、妾の気持ちは本物じゃ」
──ん?
「リフィと一生付き合う覚悟じゃと? その程度の覚悟はすでに決めている。あまり妾を舐めるでない!」
小さい子供の形だとしても、中身は神。
正面から対峙する迫力は凄まじいものです。
なのに、アカネさんは怯むことなく言い切りました。
「く、くはっ! あっはははっ! よい、よいよい!」
ロリ神は腹を抱えて笑いだしました。
「まさか、こんなところで愛の告白が飛び出すとは……くくっ、おいリフィ。貴様愛されているなぁ……!」
「ええ、自慢の妻です」
「なるほど確かに、お前達ならばやってしまうかもしれぬな。やはりお前を選んで正解だった。このわしの期待を無駄にするでないぞ?」
挑発するような視線に、私はうんざりしました。
あまり期待されるのは好きじゃないんですよねぇ……。
「善処しますよ」
やる気のない返事。
ロリ神にとっては満足のいくものだったらしく、その笑みをより一層強くさせました。
「だが、決して油断はするなよ。災厄はもう、すぐ側まで迫っているのだからな」
「それはどういう、」
「後悔のない選択をするがいい。
──貴様らに転生神の加護あれ」
ロリ神は霞のように消えてしまいました。
慌てて手を伸ばすも、もう彼女の気配はどこにもありません。
「今度は、上手く逃げられてしまいましたか……」
やられる方は釈然としませんね。
──チッ。次こそはその面を泣き顔に変えてやります。
『やがて全てを失うことになる』
『災厄はすぐ側まで迫っているのだからな』
何が起ころうとしているのかは、私には知り得ないことです。
でも、それはきっと私に関わっている。
──ハッ、と笑い飛ばします。
そっちこそ舐めないでいただきたいですね。
後悔はしませんし、させません。
危険が迫っている。
全てを失うかもしれない。
いいでしょう。
あなたの期待に応えてやります。
「さ、行きましょう。今日は折角のデートなのですから」
アカネさんの手を取り、立ち上がります。
何か言いたげな顔をしていた彼女ですが、これ以上の詮索は控えてくれました。
この状況で色々と話そうとしても、今は上手く説明できる気がしません。
なので、今回ばかりは彼女の優しさに甘えるとします。




