ナンデモアリマセンヨ
移動は『人力車』を使うことになりました。
どうせ私は途中で歩くなるのが面倒になるだろうと、アカネさんが急遽予約を入れてくれたようです。
これは素直にありがたいと思いました。
京都のような町並みとはいえ、ここは一つの国。
自分の足だけで観光するのは大変ですし、一日では回りきれないでしょう。
──こういう気遣いができるお嫁さんは、心から大切にしたいと思います。
もう一つ驚きだったことは、この世界に『人力車』があったことです。
人力車とは、人の力で動かす馬車のようなものです。
大体、一人が引っ張るようなものなのですが、今乗っている人力車は二人で動かしていますね。
これは二人まで乗れるコンパクトサイズの車のようなもので、もちろん京都にもありました。お金が掛かるのであっちでは体験しませんでしたが、まさかこの異世界で乗ることになるとは夢にも思いませんでしたね。
そして、アカネさんが予約した人力車は最高級のもの。
座椅子はふかふかで、動く時の振動が一切感じられません。
装飾は景観を壊さぬようにと控えめなものになっていますが、それでも普通の人力車と比べると、やはり豪華に見えます。
そこで問題が発生しました。
「アカネ様〜! リフィ様〜!」
「キャ〜! 今日もお美しいです!」
「お二人とも、どうかお幸せに!」
──めっちゃ目立つ。
「………………なんすか、これ」
私は面倒臭さを全面に出しながら、そう呟きました。
「はは、妾もわからぬ……」
アカネさんも苦笑しながら、手を振る民達に応じています。
「……ったく、みんな気が早すぎませんかね? お幸せにって……そりゃ幸せにしますけど、まだ式も挙げていないのですから」
「──ンンッ!? こ、こほんっ……すまぬな。リフィが楽になれるようにと一番良いものを予約したのじゃが、目立ってしまうことを視野に入れていなかった」
「別に、アカネが謝ることではありませんよ。むしろ私のためにと準備をしてくれた貴女には感謝しかありません。このような気遣いができる女性は、私大好きです」
「っ、ま、全く……こういうところでそう言うのは恥ずかしいと何度言ったら……ああ、でもっ! うむ。リフィが喜んでくれたなら、妾も頑張った甲斐があったというものじゃな」
彼女の中で何の葛藤があったのかはわかり兼ねますが、私の感謝の気持ちは伝わったようで何よりです。
「アカネ様! リフィ様! 乗り心地は如何ですかい!」
と、人力車を走らせてくれている走者の方が、こちらに振り向かずに感想を聞いてきました。
「とても快適ですよ。街中なので速さは出せませんが、こういうゆったりとした動きもたまには良いものですね」
最近は本気を出して走ることが多くなってきました。
その際の風を切って走る感覚が染み付いているせいで、人力車はとても遅く思えました。でも普通の人間がやっているのですし、街中で爆走されても困ります。
なので、これくらいがちょうど良いのでしょう。
「リフィの速さは世界一じゃからな。お主にとって全てが遅く感じるのも無理はない」
「ははっ! リフィ様の速さに比べたら遅すぎるのかもしれませんが、これで我慢してくだせぇ!」
走者は豪快に笑い、街の中を走ります。
かれこれ10分くらい走っていますが、彼らに疲労は伺えませんね。流石にこの仕事をしているだけあってスタミナはあるようです。
…………でも、アカネさんなら一人で、というか片手で引っ張れる上に、この程度のことで疲れたりはしないのでしょうね。流石は私のお嫁さん。色々と凄い人です。
「……今、とても馬鹿にされた気がするな?」
「ソンナコトアリマセンヨ」
「だったら妾の方を見てくれるか?」
「…………今日のアカネが可愛すぎて、直視したらこの場で沢山愛してしまいそうになります」
「そ、そうか……ぅん、それなら、仕方ない、な……」
圧力が霧散しました。
どうやら、良い感じに気を反らせたようです。
「すげぇ。あのアカネ様を言いくるめたぞ」
「流石、アカネ様の夫になる方だ。格がちげぇ」
何か変な勘ぐりをされている気がしますね。
私は言いたいのです。
ただうちの嫁はチョロいだけなのだと。
でも、それを言ったらリアルに拳が飛んできそうなので、黙っておきます。
うちの嫁はガチの鬼嫁ですから、怒らせたらやばいのは痛いほどに理解していますからね。わざわざ地雷を踏みに行くようなことはしません。
「──リフィ?」
「ナンデモアリマセンヨ」




