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手遅れ……とは?




「…………なぁリフィ。一つ、質問してもいいだろうか?」



 アカネさんと話した翌日、皆で朝食を囲んでいた時、不意にミリアさんが口を開きました。



「はい? 何でしょう?」


「それ、何があったのだ?」


 ミリアさんが指差したのは、私の隣に座るアカネさんです。

 私は首を傾げ、横を見つめ、そしてまた首を傾げました。



「何かおかしいでしょうか?」


「リフィ。ほれ、あーんじゃ」


「んむっ……ん、美味しいです」


「そうじゃろうそうじゃろう! リフィに喜んでもらえて嬉しいのじゃ! これも美味しいぞ!」


「いや、自分でも食べられま──んぐっ、美味しいですね」



 私の口に、次々と食事が運ばれます。そういえば今日の朝食は一切手を動かしていませんね……。ちょっと恥ずかしいですが、別に拒む必要もないので、私は成されるがままです。


 でも、ちゃんと咀嚼して飲み込んだのを確認してから運ばれるので、煩わしいという気持ちはありません。




「……それで、何かおかしいでしょうか?」


「おかしいだろう!?」


 ダンッと、ミリアさんはテーブルを叩きます。

 いつもならテーブルが割れて、私達幹部が見事なコンビネーションを見せるのですが、流石にそこは手加減しているのでしょう。コップの水が揺れる程度でした。



「おいアカネ! 昨日の間に何があったというのだ!」


 それまで笑顔で料理を運んでいたアカネさんは、急に笑顔から真顔に切り替わり、魔王に振り返りました。



「夫となる者に尽くすのは、嫁として当然のことじゃろう。何を騒がしくしているのじゃ?」


 その口調からは、僅かな怒気を感じました。

 アカネさんが何に怒っているのかはわかりませんが、主人に向けるものではありませんよね。



「アカネ。ミリアさんにそう言ってはいけません。もう少し優しく注意してあげないと、子供は逆に反抗してくるものなのです」


「そうなのか……うむ! 流石はリフィじゃな!」



 以前、従兄弟の相手をしてあげていた時、ちょうど小学生という年齢だったのもあり、何でもかんでも反抗してきて、とても面倒だったのを思い出しました。


 子供は注意されるのが大嫌いで、その子に寄り添うように優しく言ってあげないと、こちらの話すら聞きません。


 ミリアさんも精神年齢は同じだと思うので、アカネさんの言い方だと逆効果です。



「…………リフィ、貴様……余に向かって失礼過ぎやしないか?」


「はて? 何か間違っていましたか?」


「間違って……無いかもしれないが! 百歩譲ってな!」



 認めちゃってるじゃないですか。



「だが、そのアカネの態度はなんだ! リフィに甘々ではないか!」


「ミリア。食事中は静かにしないとダメだろう? 妾達だけならまだ良いが、ここには他の者も居るのじゃ。他人の迷惑になることをしてはいかん」



「おおっ、今のは母親っぽかったですよ」


「──本当か!?」


「ええ。その調子です。……アカネは、良いお嫁さんになりますね」


「そ、そんな……妾はリフィのために頑張っているだけ、じゃよ……?」


 照れ照れと、身をよじるアカネさん。


 ちゃんと私の言葉を聞いてくれて、理解してくれる。

 彼女は唯一の常識人なので、一緒に居ると安心します。本当に、側に居てくれてありがたいです。



「…………もうやだ、何これ。空間が甘過ぎて吐き気が……」



 あら、大食いなミリアさんが吐きそうになるとは珍しい。


 …………ん? 今日の料理に甘いものってありましたっけ?

 特別にデザートを作ってもらったのでしょうか。一体どれだけ食べたのでしょうね。



「体調を悪くさせるのは危険なので、早めに部屋に戻ったらどうでしょう?」


「そう言って余を遠ざけ、アカネとイチャイチャするつもりなのだろう!?」





 ……………………はぁ?





「はぁ? 何を言っているのですか?」


「ウンディ……あいつに言いつけてやるからな! きっと泣くぞ!」


「別にあの子に悪いことはしていないので、お好きにどうぞ?」



 どうしてそこでウンディーネの名前が出てくるのでしょう?

 しかも泣くって……あの子はちょっと泣き虫なところがありますが、今のこの状況、彼女が泣く要素ありますかね?



「こ、こいつ……! もしかして無自覚か!?」


「いや、だから何のことです?」


 焦った表情を浮かべたミリアさんは、「アカネ!」と荒々しく彼女の名を呼びました。



「こいつのヤバさはお前も十分理解しているだろう! ちゃんと手綱を握っておけと出発する前にあれほど……!」


「せめて話を聞いてくれます?」


 しかも手綱を握っておけとか、流石に酷いのでは?



「うむ。そんな鈍感なところがリフィらしい」


「あまり褒められている気がしないのですが?」


 アカネさんはアカネさんで、なんか論点がズレている気がするのですが、私の気のせいなのでしょうか?



「くそっ、もう手遅れだったか!」


「手遅れって、何が──」


「余はどうすれば良いのだぁあああああああああ!!!」


「だから聞いてって……ああ、行っちゃった」


 意味不明なことを叫びながら、食堂を出て行ってしまったミリアさん。



「本当に、何だったのでしょうか?」


 気を取り直そうとしてテーブルに視線を戻せば、向かい側の席に座っているお義父さまやお義母さま、お義兄さんが下を向き、微かに体を震わせていました。時々「ぐふっ」とか「ぶふぉっ」とか聞こえるのですが……あれ、笑われてません?


 私は訳が分からず、脳内には大量の『?』が出現しました。


「気にせずとも良い。皆、そのうち直るじゃろう」


 と、アカネさんは言い、私の口に料理を運んでくれました。

 ……三人のことは気になりますが、彼女がそう言うのであれば気にしないことにしましょう。




「──それよりもリフィ、この後の予定は空いているか?」


「ええ……予定も何も入っていませんが」





「ならば、今日は下町の観光に行かないか?」





 ──え?


「──え?」





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