兄上の登場です
「君がリフィくんか!」
アカネさんとそのご両親、ついでにミリアさん。
いつも通りのメンバーで食事を取っている時、食堂に元気な声が響き渡りました。
「んぐっ……ん?」
名前を呼ばれた私は、口の物を飲み込んで首を傾げます。
また誰かがイチャモンを付けに来たのかと思いましたが、それにしては皆の驚きがありません。先ほど聞こえた大声も、いつぞやの獣人とは違い、どこか親しげな響きです。
不思議に思って入り口を振り返ると、見覚えのない男性が立っていました。
──あ、角です。
お義父さまと同じ、立派な一本角が額から伸びています。
ということは、彼はもしや……?
「やぁやぁ、父上と母上から話は聞いていたけど、なるほど確かに……尋常じゃない魔力の持ち主だ」
「……えぇと、あなたは?」
「おっと、申し遅れた。俺はミコトという。妹の婚約者と会えて嬉しいよ!」
やはり、彼はアカネさんの兄でしたか。
「私はリフィと申します。お義兄さんとお呼びしても?」
「構わないよ。呼び捨てしてくれても構わない」
いや、流石にそれは遠慮しますけど。
「うんうん。話に聞いていた通り、中性的な顔たちだね。まるで女性みたいだ」
──ぐふっ。
アカネさん、バレそうです助けてください。
「…………兄上、あまり妾の婚約者に詰め寄らないでくれ」
ずいっと、アカネさんの手が二人の間に割り込んで来ます。
「ははっ、もしかして嫉妬しているのか? これは珍しいものが見れたな」
「そ、そうではない!」
お義兄さんがやってきて、食堂は少しだけ賑やかになりました。
…………でも、どうして急にお義兄さんがやってきたのでしょう? どこかに遠出しているとは聞いていましたが、会えるのはもっと先かと思っていました。
「父上、母上。ただいま帰りました」
それまでの砕けた雰囲気から少し変わり、真剣な表情でご両親に挨拶するお義兄さん。
「うん。案外早く帰ってきたな」
「おかえりなさい。ちゃんと仕事は終わらせてきたの?」
お二人は食事の手を止め、家族を迎え入れます。
「ええ、もちろん。……あのバリツと決闘したと聞いて、居ても立っても居られず、少し張り切って早めに仕事を終わらせてきました」
くるっと、彼の視線がこちらに向きます。
「あいつは馬鹿で無能だけど、それなりの実力者だったんだ。それを相手に圧勝したんだって? 一体、どんな戦いをしたんだい!?」
決闘という言葉に興奮しているのか、顔がぐいっと近づいてきて、両手を掴まれました。
…………近い。
私は上半身を僅かに逸らします。
そして、再び私の婚約者に助けを求めました。
「兄上、近いぞ」
「……っと、すまんすまん」
このやりとり、あと何回やるのでしょう?
「ごめんなさいね、リフィさん。この子、戦闘好きで……その手の話になるとちょっとうるさくなるのよ」
「いいえ、お義母さま。私は気にしていませんので」
でも、戦闘好きですか。
ディアスさんと仲良くなれそうですね。
「なぁリフィくん。ぜひ、俺とも決闘してくれないか!」
「え、嫌ですけど?」
「即答かっ! いやぁ、本当にはっきりとした性格なのだな。気に入った!」
肩をバシバシと叩かれます。
……熱血系ですね。
本当に、ディアスさんと気が合いそうです。
「もし良ければ、あとで一緒に酒でも飲まないか? 父上も共に、男同士仲良くしようじゃ──」
「兄上。リフィは疲れているので、妾達はこれで失礼する」
「お、おう……そうだったのか? すまないね」
「いいえ、お構いなく。飲みのお話も考えておくので、後でお暇な時間を、っと……」
言葉を言い切る前に、私は手を引っ張られました。
アカネさんは一回も振り向くことなく、食堂を出てしまいます。
「………………」
部屋に戻るまで、彼女は無言でした。
──これは、二人の間に何かあると考えていいでしょうね。
どうにかできるなら、してあげたい。
婚約者の家族がギスギスしているのは、流石に見逃せません。
「はぁ……」
この後はどうしようか。
私はそう考え、憂鬱げに溜め息を吐き出しました。




