決着、です
「な、なん……その、魔力は……!」
はて? ただ魔力を適当に解放しただけなのに、どうして私はここまで狼狽されているのでしょう?
まだ全力の半分も出していないのですが、ちょっと弱過ぎです。
──ああ、なるほど。
ミリアさんとアカネさんが「やり過ぎるな」と、口を酸っぱくして何度も注意してきた理由が、今になってよぉくわかりました。
私が今まで戦った中で一番弱かったのは、魔王軍の兵士達です……と言ったら彼らからブーイングの嵐が巻き起こりそうですが、事実なので仕方ありません。
でもそんな魔王軍兵士でも、一応エリート中のエリートとして所属しています。
しかも魔族は他種族より発達した強靭な肉体を持っていて、子供でも人間の大人以上の実力を発揮することができるらしいです。本当かは知りませんけどね。
つまり、そんな魔族のエリートを歯牙にも掛けない私にとって、ちょっとだけ力に自慢がある獣人程度、雑魚以下──クソ雑魚ナメクジに等しいということです。
確かに半分程度の魔力でも過剰なのかもしれませんね。
さっきの不意打ちと言い、その後の連打と言い、私には一切のダメージが入っていません。
──蚊に刺されたと思ったわ。
という、カッコいいのかよくわからない台詞がありますが、その言葉さえも蚊に失礼ですね。
「あれれ〜? まさか怖気付いちゃいました?」
挑発すると、バリツさんは顔を真っ赤にさせました。
「そ、それが貴様の全力か! 少し驚いたが、その程度ならば何も問題はない! 降参させようという作戦だったようだが、残念だったな!」
「残念なのはあなたの頭でしょうに……」
「何か言ったか!」
「…………いいえ、なんでも」
武器を出現させた程度で全力だと思われたのは、流石の私も予想していませんでしたが……まぁ、そうやってこちらを侮ってくれるのであれば好都合です。
「では、行きますよ」
ちょっと足に力を入れて、私は地を蹴りま──
「って、あぶな」
適当に振り下ろした刀の刃は、バリツさんの首の皮スレスレのところで止まりました。
「……ちょっと、戦闘中に何を固まっているのですか」
私は文句を言いました。
もう少しで首を斬りとばすところでした。
それをしてしまったら、流石に即死です。
私の回復魔法でも治すことは不可能になってしまいます。
危うく、私は人殺しです。
…………エルフの大量虐殺を手助けした身としては、すっごく今更な気がしてきましたが、流石に婚約者とそのご両親が見ている前で人を殺すのはダメでしょう。
「──ハッ! な、何だ今のは!」
「いやうるさっ」
耳元で叫ばれた私は、反射的にその場から跳び退きました。
「今のは何だと聞いている!」
「何って、ぴょんってして近付いただけですよ。そしたら動かないんですもん。びっくりしました」
「驚いたのはこっちの方──ンンッ! くそっ、油断したところを狙うとは卑怯な!」
「ブーメランぶっ刺さってますけど大丈夫です?」
油断したところを狙うって、一番最初にそれやられた気がするのですが、もしかしてもう忘れてしまったのでしょうか?
うーん、トリ頭かな?
いや、でも彼一歩も動いていませんよね。
……え、トリ頭以下?
「きっと苦労してきたのでしょうね」
「急に何を言い出す貴様!」
「大丈夫です。きっといつか、頭が良くなりますから」
「本当に何を言い出すのだ!?」
「トリ頭以下でも、必要とされる時が来ますよ。知りませんし保証もしませんけど」
「ふざけるのも大概にしろ!」
バリツさんは吠え、私に拳を突き出しました。
でも──
「ふむ。やっぱり弱いですね」
彼の拳は確かに、私の顔面を捉えていました。
しかし、残念ながら痛みはありません。
攻撃を受けた衝撃も感じませんし、本当に何も感じませんでした。
ただゆっくりと、形だけは大きな拳が迫ってくるのが見えて、目の前で止まっただけです。
「なぜ、なぜだ! 魔法で防いでいる様子はない。どんな手を使っている!?」
「魔法なんか使っていませんよ」
「何だと!?」
「私とあなたの間には、それだけの差があるということです」
埃を払うように、私は拳を叩き落としました。
「私に痛みを与えたいのであれば、」
柄を握り、振りかざします。
きっと彼には、この程度の動きも速く見えているのでしょう。
「アカネの角を持ってくることです!」
「本当に意味がわからなぐばぁ!!!」
刃の腹で、横腹をぶん殴られたバリツさんは、何かを言いながら会場の外へ吹き飛んでいきました。
これぞ、ホームランです。
──ふっ。




