お久しぶりの登場です
決闘の場は、お義父さまが用意してくださいました。
魔王城のところにあった訓練場とほぼ変わらない広さで、観客もそれなりに入れる場所のようです。あまり見世物にされるのは好きではないのですが、決まってしまったものは仕方ありません。
「……リフィ、すまぬ。妾が居ながら、お主を面倒事に巻き込んでしまった」
誰も居なくなった部屋で、アカネさんは謝罪の言葉を口にしました。
……別に、彼女は何も悪いことをしていないのに、本当に婚約者想いのいい人ですね。
私はポンッと、アカネさんの頭に手を乗せます。
「気にしていませんよ。どうせ嫌な予感はしていましたし、今回頑張れば、もう変なのに絡まれることもなくなるでしょう。……だから、気にしていません」
今回の決闘でも諦めず、まだ必要以上に突っかかってくるようであれば、こちらも容赦はしないとお義父さまは約束してくださいました。
なら、今回だけは我慢することにします。
「ほら、いつまでも暗い顔をしていないで、笑ってください。婚約者が、妻のために戦おうとしているのですよ? 貴女がそんな悲しそうにしていると、本気を出せなくなります」
「…………むしろ、本気を出されると困るのじゃが……」
──おっと、唐突な正論は勘弁していただきたい。
「わかった。リフィは妾のために頑張ってくれているのじゃから、妾も精一杯、リフィを応援するとしよう!」
「ええ。そうしてください」
どんなに面倒なことだろうと、応援されるとされないのとでは、やる気が違います。
今回のことに一番関わっている人であれば、尚更です。
だから当日は応援してほしい。
アカネさんはその願いに笑って答えてくれました。
彼女にみっともない姿を見せるわけにはいきません。
だって私は、アカネさんの婚約者ですからね。
「…………そういえば、」
「ん? どうしたのじゃ?」
「いえ、こういう時、真っ先に乗り気になる人を最近見ないのですが……ちゃんと生きてますか?」
「……あー、ミリアのことか。あやつはいつも暇そうにしておるよ。たまにウンディーネが出入りしているようじゃが、リフィが居ないとつまらん! と妾に文句を言ってきおった」
うん、相変わらずお元気なようで何よりです。
というかウンディーネ、たまに居なくなると思っていたら、ミリアさんのところに行っていたのですね。彼女もかなり暇なのでしょう。後でめいいっぱい可愛がってあげなきゃ、拗ねられそうですね。
「決闘当日はミリアも来るじゃろうな。暇だろうし」
「まぁ、来ますよね。暇でしょうし」
決闘という面白いイベントを、あの暇暇大魔王が見逃すはずがありません。
「聞いたぞリーフィ──「リフィです」──リフィ!」
と、噂をすればなんとやら。
扉をぶち破る勢いで入って来たのは、ミリアさんです。
「なんでも、決闘をするそうだな!」
「……情報の拡散が早いですね。ウンディーネでしょうか?」
「うむ! 教えてくれたぞ!」
キラキラの笑顔で、情報源をチクるミリアさん。
……本当に、相変わらずですね。
「相手は誰だ?」
「あ、そこは聞いていないのですね。相手は……なんか、獣人の人です。狼っぽいです」
もう名前を忘れてしまいました。
興味がない人の名前って、どうしても忘れちゃうんですよねぇ。
「はぁ?」
ミリアさんは意味がわからないと、首を傾げます。
……うん。そうなりますよね。私もわからないですもん。
今回ばかりはミリアさんの反応が正しいです。
「バリツという男じゃ。以前、親が勝手に婚約者を決めたと話したじゃろう? その男が急な婚約破棄で怒鳴り込んで来て、こうなったのじゃよ」
「なるほど。三角関係だな!」
「「違う」」
見事に、私とアカネさんの言葉がハモりました。
「アカネは私の婚約者です。彼女は誰にも渡しません」
「妾はリフィの婚約者じゃ。他の誰にも目移りはせぬ」
「……お、おう……」
なんだ、息ぴったりではないか……と、ミリアさんは小さく呟きました。
「私は、あの……えっと、バインよりも良い男だと自覚しています。これでアカネがあっちの方が良いとか言いだしたら、ショックで寝込みます」
「リフィ。名前が混ざっておる。バリツじゃよ。……あやつは妾もあまり好かぬ。馴染み深いからと親しく接していたが、最低限の社交辞令じゃ。それを両親が仲が良いと勘違いし、バリツも妾が自分に気があると思い込んでいるのじゃろう」
つまり、勘違い系厄介男ですね。
聞けば聞くほど、私が嫌いなタイプです。
幼馴染で社交辞令を通すのもどうかと思いますが、それで勘違いされるのだから面倒な話です。
「うむ。決闘に至った理由は何となくわかったぞ! ……して、決闘は大丈夫なのか?」
「私が負けると思っているのですか? そんなの大丈夫で──」
「うっかり相手を殺すなよ? 即死とか、目も当てられないからな」
──いや、あんたもそっちを心配するんかい。




