私の嫌いなタイプです
入り込んできた獣人の男……名前はバリツと言うのでしょうか?
それまで怒り心頭だった彼も、お父様の乱入で勢いを失い、タジタジになっていました。
「お義父さん……」
「私は君の父ではない。その呼び方を許しているのは、そこのリフィ君だけだ」
ピシャリと、そう告げられた言葉に、バリツは悔しそうに顔を歪ませました。そして何故かこちらに敵意を向けてきましたが、今のは絶対に私は悪くないと思うのですよ。
「リフィ君。まずは謝罪しよう。折角休んでいたところ、騒がしくしてしまってすまないね」
「…………いえ、私は別に気にしていませんが、それでお義父様? 先程の発言は、どういうことでしょうか?」
先程の発言。決闘を認めるという言葉は、つまりバリツの意見に賛成しているということです。
でも、バリツへの態度は冷たい。
彼を味方しているわけではないように思えますが、だったらなぜ、わざわざ彼のわがままを聞いてあげるのでしょう?
「…………実は、」
お義父様は私のところへ歩み寄り、声を潜めて事情説明をしてくれます。
「この男は昔から融通が利かなくてね。一度信じ込んだことは、絶対に曲げようとはしない」
うっわ、私の大嫌いなタイプです。
「今回も、私が勝手に娘の婚約者をこの男に決めてしまったから、次の当主は自分になるのだと、そう思い込んでしまったらしくてね。急に婚約破棄されて、こうして押しかけて来たというわけだ」
「……え? それだと私が当主になるみたいじゃないですか。嫌ですよ。私とアカネは魔王軍幹部。あそこを離れることはできません」
「それはわかっている。娘からもそう説明されたし、当主を継ぐのは長男と決めている。……だが、どうにもこの男はそこら辺を理解していないようでな」
「ただの馬鹿じゃないですか」
何ですかそれ、怒りと通り越して呆れるやつですよ。
「……うむ。私も困っているのだが、彼は一応歴史ある家の長男でね。プライドはとても高いんだ」
「それとってもわかります。なんか色々と言い掛かりをつけられて迷惑でした」
最初なんて言葉も通じませんでしたからね。
流石の私も困ってしまいましたよ。
「本当にすまない。だから、この場は大人しく決闘してくれないだろうか?」
「何でそうなったのでしょう? 私、あまり戦いたくない平和主義者なのですが……」
と言い訳していますが、ただ面倒なだけです。
何で異国の地に来てまで、決闘しなきゃいけないのですか。
なんです? 私は新天地で決闘を受けやすい体質なのですか?
「ここで無理に断り帰らせても、あれは諦めないだろう。今日のようにまたやって来て、面倒事を起こすだろう。娘の婚約者は決闘にも応じない根性無しだと、周囲に吹聴する可能性だってある」
「傍迷惑な人ですねぇ……」
私としては他人の評価を気にしないので、何と言われようが構わないのですが……今日のようなことが繰り返されるのは御免被りたいです。
「…………なるほど。正々堂々とした決闘の場で勝敗を決め、どちらが婚約者に相応しいかを定めるのですね?」
「そういうことだ。決闘で負ければ、流石にあの男も諦めるだろう」
「それはどうでしょう? それでも自分が正しいのだと諦めなかった馬鹿を、私は何人か知っているのですが」
「そうなった場合はこちらも容赦はしない。今回以上の迷惑は掛けないと約束する」
決闘をして何が変わるかはわからないけれど、今はそれをするしかこの場を穏便に済ませる手段が無い……って感じですね。
ずっと断り続けるのも面倒ですし、居座られるのも邪魔です。
だったら、いっそのこと完膚なきまでに叩きのめした方が、早くて楽でしょう。
「もし、私が負けた場合はどうするのですか?」
「君が負けるのはあり得ないと思っている」
……おぉ? なんか凄い期待されてますね。
「リフィ君の実力は昨夜、娘の方から自慢気に話されたからな」
お、おぉぅ……本人の居ないところで羞恥プレイですか。
これは恥ずかしい。何か変なことを言っていないか、後で問い詰める必要がありますね。
「ちょうどいい機会だ。魔王軍幹部の中でも、最強と名高い君の実力は気になっていたし、私にもそれを見せてくれないだろうか?」
色々とツッコミどころはありますが、それは後回しです。
「…………わかりました。では、そのように」
「感謝する」
お義父様は私から距離を取り、バリツに宣言します。
「リフィ君とバリツの決闘は二日後に執り行う。各自、正々堂々とした決闘を重んじるように」
こうして私は、新天地で決闘を行うことになりました。
負けるとは思っていません。
今更、自分の実力を過小評価しないです。
心配するところがあるといえば、やはり彼を殺してしまわないかですね。
うっかり脳天を貫いて即死させないよう、手加減をする必要があります。
…………にしても、
「はぁ……面倒ですねぇ……」




