予感が的中しました
久しぶりに話が通じない人と出会いました。
しかも、歓迎されているはずの、アカネさんの故郷で……。
第一、この獣人は誰なのでしょう?
ドカドカと人の部屋に入り込んで、いきなり決闘しろと言い出す。
戦闘の避けられないこのご時世、血気盛んなのは良いことですが……限度というものがあります。
正直に言ってしまえば、とても面倒臭いです。
……何で、みんなして私に関わってくるかなぁ?
「決闘しろとのことですが、お断りさせていただきます」
「俺様の決闘を断るというのか!」
「俺様も何も、私はあなたのことを存じ上げません。なので、そんな偉そうに言われても困ります」
「無礼者が!」
「──無礼者、ですって?」
そろそろ、うるさいですね。
「あなたは無礼者と仰いました。でも、人の部屋に強引に入り込み、名乗りもせず、私の言葉も聞かず、一方的に決闘しろというあなたこそ、無礼者なのでは? ……いえ、私の領域に不法侵入しているのですから、無礼者以下の『無法者』ですね」
「っ、貴様ぁ!」
「ここがどこだかお分かりですか? 和の国当主が住む場所です。そこで無礼を無礼とも思わず、勝手に人様の縄張りを荒らすなんて──裁かれたいのですか?」
「部外者が……!」
「部外者? あなたは知らないでしょうから教えてあげますが、私はアカネさんの婚約者。彼女の夫になるものです。部外者と言われる筋合いは」
「──ふざけるな!」
今までで一番の怒鳴り声。
とてつもない敵意を向けられた私は、訳が分からず首を傾げました。
一体、何がどうして彼をここまで突き動かしているのでしょう。
原因は私にあると考えられますが、何が何だかさっぱりです。
「お前には、相応しくない」
「……何がです?」
「アカネの婚約者になるのは、この俺様だ!」
……………………はぁ?
「婚約者、ですか」
「俺様の婚約者を横取りしやがって、お前は絶対に許さない!」
ビシッと指を向けられます。
「──ん?」
すると、遠くの方から、再び慌ただしい足音が聞こえてきました。
それは案の定、徐々に私のいる部屋へと近づいてきて──
「リフィ! 無事か!」
入ってきたのは、アカネさんでした。
相当焦っていたのでしょう。
髪はボサボサで、額には汗が浮かび上がっています。
「アカネ。助けてください。なんか知らない人に敵対されました」
「おいバリツ! 妾の婚約者に迷惑をかけるでない!」
「婚約者だと!? お前の婚約者は俺で、このエルフではない!」
「貴様の方が婚約者ではない! この、たわけ!」
ああ、なんか……面倒なことになってきました。
始まった二人の言い争い。
私は傍観に徹することを決めました。
「アカネの婚約者は俺という話だっただろう!」
「バリツとの婚約の話は、父上が勘違いして勝手に決めたことじゃ! 今はもう、リフィが正式な婚約者として認められている。そのように言われたはずじゃろう!」
「よりにもよってこんな弱そうな奴に婚約者を奪われるなど、我が一族の恥だ! だから、どちらがアカネの婚約者に相応しいか、決闘で決めるのだ!」
ほんと、酷い言われようですね。
「リフィが弱いじゃと? しかも、決闘で全てを委ねるとは、お前死にたいのか!」
こっちも酷いですね。
私、そこまで凶暴じゃありませんよ?
「とにかく、もうバリツは関係ないのじゃ。わかったら立ち去れ!」
「納得できる訳がないだろう! 婚約者を奪われたのだ。このまま黙って頷けば、弱小者だと笑われてしまう!」
「奪われるも何も、最初から妾はリフィのものじゃ! バリツの婚約者になった覚えなどない!」
アカネさんも興奮しているのでしょう。
いつもだったら赤面してしまう言葉を、普通に言っちゃってます。
──最初から妾はリフィのものじゃ。
なんか、いい響きですね。
「貴様、何を笑っている!」
と、怒られてしまいました。
「いえ、私の婚約者が可愛いなと。……別にあなたの無知を笑っていたわけではありませんよ?」
「なっ!? り、リフィ! 今はそれを言っている場合では……!」
「貴様ふざけているのか? 俺様の前で、俺様の婚約者とイチャイチャするなど……恥を知れ!」
「恥も何も、アカネは私の婚約者です。意中の相手に見向きもされない。しかも、それを理解していない無能は黙って右回りでお帰りください」
シッシッ、と手を払うと、男は怒り心頭で顔が真っ赤になりました。
「なんでお主は、そう人を怒らせるのが得意なのじゃ……」
「いやぁ、なんか癖で」
度重なる『話聞かない系男子』との出会いで、つい本音を言ってしまう癖が付いています。
だから相手を余計に怒らせちゃうのでしょうけれど、そんなことを言われても、言葉が通じないのだから本音をぶつけるしかないでしょう。
「ここまでコケにされたのは、初めてだ」
……なんでしょう。彼の背後に『ゴゴゴ』と何かのエフェクトが蠢いているように錯覚します。
「もう一度言う。どちらがアカネの婚約者に相応しいか、この俺様と決闘しろ!」
「嫌です」
…………。
……………………。
………………………………。
あれ? なぜ二人して黙ったのです?
「即答で拒否するところ、流石はリフィじゃな」
「本当に貴様はふざけているのか!?」
アカネさんには呆れられ、男には怒られました。
こっちだって真面目に受け答えしているつもりなのですが……その反応はちょっと不思議です。
「──面白い」
なんとも言えない空気になった場に、新たに入り込んできた男性の声。
……すっごく、嫌な予感がします。
部屋の入り口を振り向くと、予想通りそこにはアカネさんの父上が立っていました。
「その決闘、私が認めよう」
──まさかのお義父様乱入です。




