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ご挨拶?です




 和風な建物が立ち並ぶ道を通り、馬車は中央にある一際大きな建物まで辿り着きました。


 鈍い私でもわかります。

 ここは国を統括している方が住んでいる建物。人間の国では『王城』と言い、魔族の国では『魔王城』を言われている場所と同じところです。



「あの、アカネさん……? ここって国の一番偉い人が居るところでは?」


「──ぷっ!」


 疑問を口にした私に、ミリアさんが突然吹き出しました。



「な、何だお前。ここまで来ても、まだ気付かないのか?」


「気付くって…………まさか……」


 馬車はどこにも寄らず、真っ直ぐにここまで来ました。

 アカネさんは「まずは両親と会わせる」と言っていたので、寄り道なんてしないでしょう。



 つまり、アカネさんのご両親はここに居る。

 …………ここに居る。ここに、住んでいる。



「帰りたいです」


「観念しろ」


 願いを口にしたら、バッサリと切り捨てられました。



「何で、一国のお偉いさんのご息女が、魔王軍幹部なんてやっているのですか」


 代わりに避難するような視線を向けると、アカネさんには気不味そうに視線を逸らされました。



「こいつは家出したのだ。適当に放浪していたところで、余と出会った……というわけだ」


「ミリア……! それは内緒だと、」


「今更隠してどうする。夫婦というのは、隠し事をしないものだろう?」


「……っ、それ、は…………そうじゃが……」


 ニヤニヤと、弄ぶような笑みを浮かべるミリアさんでしたが、彼女の言っていることは一理ありました。


 どうせ隠していても、その内わかること。

 それなら今言ってしまっても問題はなく、仮にも夫婦となる私達の間に、隠し事があってはなりません。



「本当は、そのうち妾から言いたかったのじゃ……」


 しょぼんと落ち込んだ様子でそう呟くアカネさん。


 一国のお姫様が家出したと知られるのは、恥ずかしかったのでしょう。

 いつかは言おうと思ってくれていたみたいですし、その程度の隠し事はまだ可愛いものです。


「あまり私の婚約者を虐めないであげてください。私が知ろうとしなかったのもありますから、アカネさんは悪くありません」


「…………ちぇっ、わかったわかった。……つまらん」


 ミリアさんは面白くなさそうに唇を尖らせました。



 ──と、そこでちょうど馬車が止まり、ひとりでに扉が開きました。


 まずは私が馬車を降り、次に降りようとしたアカネさんに手を差し伸べます。



「な、何じゃ……」


「エスコートです。麗しい婚約者に、少しでもかっこいいところを見せようかと思いまして」


 その言葉にアカネさんは顔を赤く染め、おずおずと手を握ってきました。

 私のエスコートなんて必要ないでしょうけれど、私の意図を察してくれたのか、大人しく従ってくれたのは嬉しいですね。



「リ──」


「リフィです。ここではそうお呼びください」


 名前を呼ぼうとしたミリアさんの言葉を遮り、私は先に釘を刺します。



 偽名は事前に話し合って決めたことです。


 本名を使えば、いつかは性別を偽っていたことがバレてしまう。魔王軍に所属している私のことをアカネさんのご両親が調べようと思えば、すぐに『リーフィア・ウィンド』という人物は出てくるでしょう。


 だから偽名を使おうとなったのですが、ミリアさんは完全に忘れているだろうなと思い、本名を言われる前に釘を刺したのです。



「リフィ! 余も、余もエスコートが欲しいぞ!」


「貴女は自分で降りられるでしょう。私はアカネさ……アカネの婚約者として、他の女性をエスコートするわけにはいきません」


 ちなみに『アカネ』と呼び捨てしているのも、話し合いで決めたことです。

 


「むぅ……つまらん!」


「そう言わずに、ミリアさんは仮にも魔王。相応しい心構えをお願いします」


 幹部二人の式を行うため、来客としてミリアさんは来ています。

 つまり、魔王として来ているのですから、それなりの態度でいてもらわないと困ります。



 ──ちゃんと理解しているけれど、つまらない。

 という顔をしていますね、あれ。



「それでアカネ。あちらに居るお二人が、まさか?」


 私達の到着を待っていた大勢の兵士らしき人達。

 そんな彼らの前にいる男女の額には、どちらも立派な角が伸びていました。



「ああ、紹介する。こちらが妾の父上と母上じゃ。父上、母上。この男が妾の、」


「初めまして、リフィと申します。聞けばお二人はこの国の代表とのこと……こうしてお目に掛かれたことを光栄に思います」



 一歩前に進み、アカネさんのご両親に頭を下げます。

 すると、上の方で息を飲む音が聞こえました。



「頭を上げてくれ、リフィ殿」


「……はい」



 近くでよく見ると、確かにお二人はアカネさんのご両親なのだと理解できました。

 それぞれの良いところを見事に引き継いだのがアカネさんで、どちらも美形です。見た目は40代前後に見えますが、本当はもっと長い年月を生きているのでしょう。



「アカネに婚約者がいると知った時は驚いたが、まさか、こんな……」


「ええ、あなた。…………アカネ、良いお方を見つけたのですね」


 お父様の方は難しい顔で唸っていますが、お母様の方はやんわりと、アカネさんに笑みを向けました。振り返って私の婚約者を見れば、下を向いて顔が伺えませんでした。……耳は赤くなっているので、恥ずかしがっているのでしょう。



「あらあら、男っ気が一切無かったアカネが……」


「父親としては複雑な気持ちだ」


「ふふっ、内心は嬉しいくせに」


「う、うるさいぞ! ──ンンッ! リフィ殿。娘と婚約していると聞いたが、その……娘のどこを好きになった?」


「──父上! 今それを聞かなくてもっ!」




「彼女の好きなところを述べろと言うのであれば、半日ほど頂きますが?」


「リフィ!? それをここで言うのは──」



 珍しく振り回されているアカネさんでしたが、彼女が最後まで文句を言うことはありませんでした。


 それを遮り、お父様が笑い出したのです。


 突如として響いたその声に、後ろに控えている護衛の兵士も、アカネさんも私も、皆が反応できずにポカーンとしています。ただ一人、お母様だけはやんわりと微笑んでいましたが、その表情が何を考えているのかは、わかりませんでした。



「いやぁ、すまない。……そうか、娘のことで半日と申すか。気に入った!」


「へ? ち、父上……?」


「リフィ殿! 貴殿を娘の婚約者として歓迎する!」


「父上!」


「式は国中を挙げて祝ってやる! 期待しておくことだ!」


「父上!?」


「長旅で疲れているだろう。後で話を聞くとして、今はゆっくり休んでくれ。……なに、ここが我が家だと思って寛いでくれて構わないぞ」



 はーはっはっはっ! と高笑いしながら、お父様は兵士を引き連れて中へ入って行きました。



 残されたのは、私とアカネさん、そしてミリアさんだけです。


 ──ピュゥゥと、そよ風が虚しく吹きます。




「…………愉快な人でしたね」


 私は一言、アカネさんは膝から崩れ落ちました。





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