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姫を起こすためには〇〇が必要です




 気が付いたらアカネさんが死んでいました。

 ……いや、流石に本当に死んでいたら大事なのですが、そう思えるほどの安らかな顔がそこにはありました。


 どうしてこうなったのかはわかりません。

 なぜか急に尊死したみたいな顔になって、気絶してしまったのですから。



「ミリアさん。アカネさんはどうしたのでしょう?」


「…………まぁ、そのうち目を覚ますだろう」


「煮え切らない言葉ですね。……この人、永遠に目を覚ましそうにない顔で眠っているのですが?」


「キスでも落としてみれば目を覚ますのではないか?」


「……なるほど」



 とある物語に、目を覚まさないお姫様を王子がキスで起こすというものがありました。

 確証はありませんが、今の私は男装していて、アカネさんの婚約者という設定になっています。



 ──やってみる価値はありますね。



「って、おい。本当にやるのか?」


「これからアカネさんのご両親と会うのでしょう? そこで自分達の娘が眠ったままとか、色々と問題があります」


 だったら、少しでも早く起こすために手を打つべきです。



「…………アカネさん」


 私はゆっくりと、安らかに眠り続ける婚約者へと顔を近づかせます。


 もう少しで二人の唇が接触するところまできました。


 アカネさんの微かな吐息。

 シミ一つ無い美しく整った顔。


「起きてください、アカネさん」


『……、……だ──ダメェエエエッ!』



 瞬間、至近距離にあった瞳が、カッ、と見開かれ──




「ぐふっ……!」


「──ったぁ!?」




 ゴンッと、とても大きな鈍い音が馬車に響きました。



「「〜〜〜〜っ!!」」



 私達は、頭を抑えて蹲ります。

 アカネさんは鬼族で、もちろん角が生えています。それが思いっきり私の額にぶっ刺さったのですから、もうそれは物理無効を超えた何かが来ました。



「あの、アカネさん……大丈夫、ですか……」


「お、おぉぅ……妾は、大丈夫じゃ……リーフィアの方こそ、角、すまぬ」


「いえ、私には回復魔法があるので、お気になさらず……」



 額に回復魔法をかけ、ついでにアカネさんにも魔法を投げておきます。

 そこでようやく復活したアカネさんは、私に小さくお礼を言い、若干ふらつきながら座席に座り直しました。


 本当に大丈夫でしょうか? と心配になりながらも、私も同じようにフラフラしているのですから、人のことは言えませんね。



「びっくりした。目を覚ませば目の前にリーフィアが居たのだから」


「ええ、それについては申し訳ありません。キスすれば起こせると聞いたので」


 そう言い訳をすれば、アカネさんは胡散臭そうに眉を顰めました。


「誰じゃ、そんな根も歯もない虚言を言う馬鹿は……ああ、なるほど」


 チラッと、視線を隣に移せば、それだけで全てを納得してくれるのがアカネさんです。



「後でミリアには仕置きじゃ」


「なんでだ!」


「覚悟しておいてください」


「ひぃっ!」



 二人から凄まれ、ミリアさんは震え上がります。

 ……全く、何でもかんでも面白がってちょっかいを出すから、こうして自分に返ってくるのです。


 まぁ、その馬鹿みたいな発言に乗った私も、同罪ですが……。



「ところでアカネさん。どうして急に気絶したのです? やっぱり、体調が優れないのですか?」


「ぐっ……そ、それはぁ……」



 急に視線を彷徨わせるアカネさん。

 上手く誤魔化そうと思っているのでしょうけれど、そうはいきません。



「アカネさん」


「ひ、ひゃい」


 私はアカネさんの手を取り、真剣な表情で彼女を見つめます。


「心配かけまいと我慢するのは、やめてください。それでまた倒れては元も子もありません。厳しかったら遠慮せず、私に言ってください。…………迷惑だなんて思いません」



 ──だって私達は、婚約者ではありませんか。

 最後にそう付け足し、私は微笑みます。



 アカネさんは耳まで真っ赤にさせ、顔を両手で覆い隠してしまいました。

 自分が無理していると見破られて、恥ずかしいと思っているのでしょうか? そんなの気にするわけがないのに、本当に考えすぎなんですよ。


 アカネさんの脳内では、常に様々な思考が渦巻いています。

 それは全て、私達『魔王軍』のために頑張ってくれているので、頑張るなとも言えないのが辛いところです。



 ──だからせめて、今回の旅ではゆっくりさせてあげたい。

 折角、こうして戻ってきた故郷なのですから、休めないのは可哀想です。




「あ、あの……リーフィア……?」


「はい、何でしょう?」


「妾、どうやらおかしいみたいなのじゃ。体が熱くて、仕方ない……回復魔法、お願いできるじゃろうか?」


「お安い御用です。──アカネさんを癒してあげてください」



 気休めかもしれませんが、それでも彼女が少しでも楽になるようにと思い、私は回復魔法を掛けます。


 …………心なしか、表情の疲れが取れたように見えます。



「ありがとう、リーフィア。とても楽になった。……そして、妾自身の気持ちも理解した」


「はい。また辛くなったようでしたら、言ってくださいね」



 もう大丈夫だと言うアカネさんに安心して、私は自然と表情が綻びました。


 …………あ、そういえば彼女から『笑顔を向けるな』と言われたのでした。

 でも、了承した覚えはありませんし、問題はありませんよね。






「ウンディーネ。あそこにやり手がいるぞ」


『でも、あれ絶対に無自覚だよ……だって気付いてないって顔、してるもん』


「あれを、世では『プレイボーイ』と言うのだったか?」


『リーフィアは女の子だけど……あ、でも……今は男装してるから、合ってる、のかな……?』


「…………恐ろしい奴じゃな、プレイボーイ」


『…………ミリアちゃんに同感。あれはやろうと思っても、簡単にはできない』




 …………さっきから、二人でコソコソと何を言っているのでしょう?




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