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到着しました




 それからしばらく馬車で移動し、もう少しで着きそうかなと思っていた頃、それは見えてきました。



『わぁ……!』


 以前に滅ぼしたボルゴース王国にあったものとは比べ物にならない、とても大きな城壁。木々を掻き分けて忽然と姿を表したそれに、ウンディーネは興奮しているのかキラキラと目を輝かせていました。



「うむ。久しぶりに来たが、相変わらず大きいところだな」


「自慢するつもりはないが、これでも最古の国じゃからな。それだけの財力と武力は持ち合わせている」



 アカネさんの故郷『和の国』は、かなり昔に建国されたようです。

 それからは国の代表者と、各地から集められた優秀な人材の手によって、こうして平和を築き、最古の国とも言われるほどの歴史を持つようになったとか。



 この国では喧嘩はご法度。

 どのような種族も共存を約束されているため、人と魔族が何のしがらみも無く、接することができる場所のようです。



 未だ、どこの国にもない制度です。

 これを浸透させるのは、難しかったでしょう。


 でも、この国限定とは言え、根強く『平和』を浸透させた。


 それは上層部の人材だけでは無く、ここに住む人々の意思でもあったのでしょう。そうでなければ、ここまで大きくはならなかった。


 …………改めて、上に立つ者の素材が大切なのだと感じさせられました。どこかの愚王やエルフとは大違いです。




「きっと、この国の王は素晴らしい方なのでしょうね」


 ふと、私はそんな言葉を呟いていました。

 それを聞き、アカネさんは驚いたように目を開き、照れ臭そうに笑います。


「ありがとう。リーフィアにそう言ってもらえると、妾も嬉しく思うぞ」


「……ん? どうしてアカネさんが感謝するのですか?」


「あ、いや……ほれ、今は離れているとしても自分の故郷。そこを褒められるのは嬉しいじゃろう?」


「そういうものですかね」



 ……まぁ、そういうことにしておきましょうか。


 まだ入ってすらいないのに、この国が素晴らしいものだと感じられる。

 そんな場所を誇りに思うのは良いことです。



 ──私の故郷『地球』は、アカネさんのように誇れるでしょうか。



 ふと、私は前世の居場所だった場所を思い出します。

 …………でも不思議と、懐かしさは感じませんでした。それは私は故郷に誇りを持てられていないからなのか、それとも『前世』と『今』を完全に分けてしまっているのか。




 きっと、後者なのでしょう。


 エルフの森から帰って来た時も、私はあの魔王城を懐かしく思いました。

 誇りに思うかと言われたら……確かに、私にとってあそこは誇りなのだと、そう思います。





『リーフィア! 見て、あれ!』


 と、ウンディーネが発した、興奮したような声で現実に戻った私は、彼女が指差す方向に視線を向け────



「おぉ……」


 思わず、感嘆の声が漏れました。



 馬車はちょうど検問を済ませ、進み出したところでした。

 そこから少しだけ見えた景色は、過去に一度だけ旅行に行ったことがある京都の街並みにそっくりで────あれ? 私は今、懐かしいと感じた?



 私はこの景色を見て、あの世界を懐かしいと、そう感じることができたのでしょうか?




『リーフィア……?』


「どうしたリーフィア。何か、変なところでもあったか?」


 何も言わなくなった私を心配してくれたのでしょう。

 ウンディーネが私の手を握り、アカネさんは顔を覗かせます。


「…………なんでもありませんよ。ただ少し……懐かしいなと、そう思っただけです」


「そうか。今回は十分に堪能すると良い。……と言っても、最初は忙しくてそれどころではないかもしれぬが」


「大丈夫ですよ。アカネさんの事情を優先してください。私はそのために来たのですから」


 にこりと微笑むと、アカネさんはサッと顔を逸らしました。



「アカネ、照れてる場合ではな──むごっ!?」



 ニヤニヤと人を小馬鹿にするような表情を浮かべたミリアさんの顔を、アカネさんは両手で押さえつけます。思わず見逃してしまいそうなくらい、凄まじい速さでした。



「ミリア。ちょっと黙ってくれ」


「むごっ! ごごご、ごふっ……!」


 ジタバタと暴れるミリアさんですが、アカネさんは自由にさせることを許しません。

 彼女が魔王以上の怪力の持ち主だったことには驚きましたが、何かあったのでしょうか…………って、今はそれどころではありませんね。



「アカネさん。口と鼻を抑えないであげてください。流石の魔王でも死にます」


「っと、すまぬ」


 ようやく解放されたミリアさんは何度も咳き込み、恨みがましく私を睨みました。…………いや、どうして私?




「うぅ……リーフィアを直視できぬ」


 弱々しくそう呟いたのは、アカネさんです。

 ミリアさんの顔を両手で塞いだと思ったら、次は自分の顔に手を当てています。どうしてか耳が真っ赤ですが、やはり何かあったのでしょうか?



「おかしいぞ、妾は普通じゃと思っていたのに……これは何かの間違いじゃ」


 ぶつぶつと、声が篭っているのもあってよく聞こえません。



「リーフィア!」


「はい?」


 体調でも悪いのかな?

 と、そう思っていたところ、アカネさんは身を乗り出し、私の肩をガシッと掴みました。


 流石の私も驚き、首を傾げます。



「リーフィア……お主は、リーフィアなのじゃな?」


「はぁ?」


 真剣な表情で何を言い出すかと思えば、本当に何を言っているのでしょうかこの人は?



「えっと、偽物ではない……と思いますよ?」


「…………そうか。よし、安心した」


「何を悩んで、何に安心したのかはわかりませんが……良かったですね」


「うむ! ……して、リーフィアよ。折り入って頼みがあるのじゃが」



 アカネさんは姿勢を正し、私の前で正座になりました。



「妾に、その笑顔を向けないでくれ」


「流石に理不尽すぎません?」


「妾……恥ずかしくて孕んでしまいそうじゃ」


「意味不明なのですが?」



 ちょっと本気で具合でも悪いのでしょうか?


 顔を真っ赤に染め、くねくねと身を捩るアカネさん。

 その様子は流石におかしいと思い、私は彼女のことが本気で心配になりました。



「っ、り、リリ、リーフィ──!」



 私はアカネさんに顔を近づかせ、おでこ同士をくっつけました。

 …………ふむ、熱は無いようですね。では他に原因でもあるのでしょうか?



「アカネさん。今回は貴女が一番なのですから、異変があるのであればすぐに、って、アカネさん? アカネさ──え?」



 …………し、死んでる……?






二日ぶりです。

皆様、台風は大丈夫でしたか?

私の方はちょっとの被害で済みました。とりあえず一安心です。

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