人生初の◯◯です
男物の服。
どうしてそんな物が必要なのかと問う前に、嫌な予感はしていました。
そしてそれは、いつも当たってしまうのです。
「…………正直に言いましょう。めちゃくちゃ恥ずかしかったです」
私は不機嫌を隠さず、仏頂面でそう言いました。
男物の服を買う分には良いのです。
店員さんも私の接客をしていた時は『彼氏用に買うんだろうな』という顔をしていましたし、私も途中まではそういう雰囲気を出していました。
でも、真実を話した時の、店員さんの顔。
──私の黒歴史にランクインです。
馬車の中で向かい席に座るのは、アカネさんとミリアさん。
片方は本当に申し訳なさそうに項垂れ、もう片方は腹を抱え、下を向いてプルプルと震えていました。
一応、お菓子も買って来たのですが、なんか無性にムカつくので、これは内緒で私の所有物にしてしまいましょう。
「すまぬ。本当に、すまぬ」
「アカネさんは悪くありません。……ええ、仕方ないと、そう割り切ることはできます」
『……で、でもっ! すっごくカッコよかったよ!』
「ありがとうございます、ウンディーネ。でも、今は言わないでください……」
アカネさんは必要としていた男物の服は、私用の物でした。
詳しく話を聞くと、アカネさんのご両親は格式を重んじる方々らしく、結婚は男と女でするものだと認めないのだとか。
……だから私がアカネさんと婚約をすると言っても、おそらく有無を言わさず門前払いされるだろうということで、私が『男装』をすることになったのです。
なんで? と思ったのは事実です。
でも、前世でも結婚は男女でするのが普通となっていました。最近は男同士、女同士の結婚も認められてきてはいますが、それでも男女がまだ一般的なのです。なので、アカネさんのご両親の気持ちはわかります。
だからって男装することになるとは思いませんでしたが…………。
「もう少し早く言ってくれれば、私も覚悟ができていたのですがね」
「ほんっとうに、すまぬ」
「ぷっ、くふふ……い、いいでは、ないかリーフィア……ふっ! だ、男装、など……する機会はないのだか──ぶふぉっ!」
カッチーン。
「ウンディーネ、ミリアさんを溺れさせなさい」
『ええっ……!? で、できないよ!』
「いいからするのです。あのお調子者に天罰を下さないと、色々な意味で私が死にます」
『え、でも……ごめんね、ミリアちゃん……』
「ちょ、ちょっと待て! おかしいだろ、理不尽だろう! ちょまじで、ゆっくり近づかないで、こっちに手を向けないでくれ! おいリーフィア! お前、余の護衛だろう! こんなことしていいと思っているのか!?」
「………………」
喚くミリアさんをガン無視して、私は外の景色を眺めます。
──あ、牛さんです。
はぁ〜、田舎ってのもいいものですねぇ。
こっちの方が絶対にゆっくり暮らせるでしょう。
私が死んだ時は『スローライフ』というものが流行り始めていましたし、そういうのも有りですよね。私もスローライフしたい──え? もう十分にしてるって? …………そんな馬鹿な。
「リーフィアァアアアアアアア!!!!」
『ごめんねミリアちゃん。ごめんね』
「謝りながらこっちに来──ごばばば!」
っと、なんか知らぬ間に地獄絵図になっていますね。
「リーフィア、そろそろやめてあげてくれ。確かにミリアはふざけているが、今回のことは妾が悪い。じゃから、罰ならば妾に──」
「あー、はいはい。ウンディーネ。やめです、やめ」
『わかった!』
興が逸れました。
今この場でミリアさんに天罰を与えても、私が男装することに変わりはないのです。
だったら、おとなしく現実を受け入れましょう。
「すまぬな、リーフィア」
「この場合は『ありがとう』と言うのです。アカネさんの謝罪を聞きたいわけではありませんから、どちらかといえば協力することに感謝してほしいです」
「……そうじゃな。感謝するぞ、リーフィア」
「でも、男装は流石に恥ずかしいです」
「…………やっぱり、すまぬ」
にしても、女同士の結婚は認めないのに、重婚は有りって……そこは有りなのかい。とツッコミを入れなかった私を誰か褒めてください。
まぁ、重婚有りなのは嬉しいことです。
でなければ、ウンディーネとの結婚ができませんからね。
…………あれ? 精霊との結婚って認められているのでしょうか?
しかも相手は原初の精霊ですが……うん、細かいことを考えるのは無しにしましょう。世の中には種族が違くても結婚はできるのです。私はエルフで、アカネさんは鬼族。それで大丈夫なら、エルフと精霊も問題ないはずです。
「のぅ、リーフィア……お願いがあるのじゃが……」
「はい。なんでしょうか? アカネさんのお願いであれば、特別に聞いてあげましょう」
私がそう返すと、アカネさんは申し訳なさそうに口を開きます。
「妾にも、リーフィアの男装姿を見せてくれないじゃろうか?」
「…………こふっ(吐血)」
なんか、トドメを刺された気分です。




