困った時は逃げちゃえばいいのです
「妾と婚約してほしい」
私とウンディーネは固まります。
それは文字通り、石のように。脳の処理が追いつかず、ピクリとも動かなくなりました。
「リーフィア? ど、どうじゃろう、か……」
顔を赤く染め、もじもじとするアカネさん。
彼女が嘘を言っているようには思えません。というか、アカネさんが冗談を言う時は、もっとお年寄りっぽいこと……例えるなら、親父ギャクみたいなことを言ってくるはず。
私達をここまで困惑させるような冗談を思いつくような、愉快な人ではありません。だって彼女はおばあちゃ──ゲフンゲフン。なんでもありません。
「…………」
私は周囲を見渡します。
ついでに魔力の反応も調べました。
でも、どれだけ入念に調べ尽くしても、この周囲にディアスさんの気配はありませんでした。
……ということは、彼に何かを吹き込まれたわけでもなさそうです。
つまり彼女は、マジのガチで私に求婚してきた?
…………でも……えぇ? 婚約?
この人。婚約の意味を間違えてませんよね?
「そ、その……答えを聞かせてもらっても、いいじゃろうか……」
徐々に言葉が萎んでいくアカネさんは、どうやら本気で恥ずかしがっている様子。なんか、いつも以上に可愛く見えてしまうのは、私の気のせいでありたいです。
にしても、返事を聞かせて欲しいって……そんな、急に婚約を申し込まれても困るというか、私の中にある感情はただ一つ。
──いや、なんで私?
「リーフィアっ! 頼む、そろそろ返事をくれ。……妾も、焦らされるのは慣れていない故……恥ずかしくて、死んでしまいそうじゃ」
「ぐふぅ……!(吐血)」
衝撃の展開が連続しすぎて、思わず吐血してしまいました。
今の私は、過去最高に白目を向いていると思います。
イラストで表したら、昔の漫画のように真っ白な背景で、『ガーンッ!』というエフェクトが出ているほどに──って、自分でも何を言っているのかわからなくなってきました。
とにかく、突然の求婚に私も驚いているのです。
「婚約……そう、婚約、ですか……」
私は思考の渦から帰還して、現実を受け止めようと何度も『婚約』と呟きます。
しかし、何度それを口にしても、やっぱり私の中にあるのは『なんで私なの?』という疑問ばかり。
他に人が沢山いるこの魔王城で、どうしてピンポイントで私のところに?
自覚は無いとしても、普通に嫌がらせレベルです。ようやくエルフの件がひと段落ついたと思ったのに、どうしてこう……私の周りは問題ばかり持ち込んでくるのですかね?
「婚約、ふふっ……婚約、か」
『リーフィア……?』
「お、おい、リーフィア? どうしたのじゃ?」
流石に心配になったのでしょう。
ウンディーネとアカネさんは怪訝そうに眉を垂らし、私に手を伸ばします。
──今の私は、野良猫の気分です。
私に伸ばされる全ての手が、警戒する何かにしか見えません。
「──っ、そぉぃ!」
なんか捕まったらダメな気がする。
そんな曖昧な『完全反応』に従うまま、私は窓を蹴破ってその場を離脱。華麗に着地して逃走を始めます。
私はリーフィア・ウィンド。
本気になれば、風のように走ることもできます。
ですが、寝るためにはこの能力は必要ありません。
──だったら、どうして素早さ極振りにしたのか?
こういう面倒事に巻き込まれそうになった時、颯爽と逃げきるためです!
「待て、リーフィア!」
『リーフィア! 止まって!』
背中に投げかけられる二人の声を聞いても、私の足が止まることはありませんでした。
リーフィア、逃走




