聞き耳継続中です
「いやぁ、そろそろ兵士も相手するのに疲れて来た頃かと思ってな、応援に来てやったぞ」
「まだ喧嘩にはなっていないみたいだな。安心したぜ」
「にしても、随分と無駄な問答をしているようだね。後は私達に任せて、君達は周囲の警備に回ってくれ」
そう言うアカネさんの後に、ディアスさんとヴィエラさんも続きます。
「──ハッ!」
兵士の方々は、幹部三人の突然の襲来に驚いていましたが、敬礼した後すぐに動き出しました。
「どうしましょう。まさかの主要人物勢揃いです」
私とウンディーネ、ミリアさんは隠れていますが、近い空間に全員が集まっているこの現状は、流石の私も予想していませんでした。
にしても、アカネさんも良いタイミングで登場しますね。
エルフと兵士が一触即発になりそうというところで、助っ人です。兵士にとって救いの登場だったのは、彼らの表情を見ればわかることです。
「どうする? 余達も出て行くか?」
「……いえ、それはやめておきましょう。私とエルフが対面したら、もっと面倒なことになります」
「うむ。了解した」
私達は、変わらず傍観することを決めました。
ミリアさんだけ出て行くことになっても、アカネさん達は私とウンディーネが近くに居ることを察するでしょう。
後で「何勝手に見に来ているんだ」と文句を言われるのも面倒ですから、アカネさん達のことを見守ることにします。
「さて、エルフよ。何度も言われていると思うが、貴様とリーフィアを会わせることはできぬ。帰れ」
アカネさんはピシャリと言い放ちました。
ですが、その程度で引き下がるエルフではありません。
むしろ、幹部が三人も現れたことによって敵意を剥き出しにさせ、吠えるように叫びます。
「お前らのせいだ! お前らがリーフィア・ウィンドを隠しているせいで、我らは滅びるのだ!」
「……ふむ、何を言っているのか、よくわからぬな」
「わからないだと!? だったら教えてやる。お前らのせいで我らエルフ族は滅びの危機に瀕しているのだ! リーフィア・ウィンドによって!」
唾を飛ばす勢いで言葉を並べるエルフに、アカネさんは態度を変えず「ふむふむ」と頷きます。
どうやらヴィエラさんとディアスさんはただの付き添いらしく、二人して兵士に出されたお煎餅をバリボリと呑気に食べていました。
「お前達が余計なことをしたせいで──(略)──エルフが──(略)──だいたい──(略)──! ──(略)──(略)──(略)──!」
主張が長すぎて、途中から「略」にしか聞こえなくなりました。ミリアさんは言わずもがな、つまらない話を前にして目を閉じ、こくんこくんと揺れています。寝る直前です。
「……うむ。エルフ側の主張はわかった」
しばらく考え込むようにして頷いていたアカネさんは閉じていた目を開き、「じゃが、やはりわからぬな」と小首を傾げます。
「エルフはリーフィアのせいで滅びそうになっている。じゃから、お前はリーフィアに罰を与えようと来たわけじゃな?」
「ああ、その通りだ!」
「では聞こう。なぜ、リーフィアが罰を受けねばならぬ?」
「…………なんだと?」
「そうじゃろう? お主らの代表、名はなんと言ったか……ああ、そうじゃ、確かダインじゃったか。奴はリーフィアに、もとい、ウンディーネに忠告を受けていたはずじゃ。──『こちらに危害を加えるのであれば、エルフを許さない』とな」
アカネさんは過去の出来事を数えるように、片手の指を一本一本折っていきます。
「まず、リーフィアに襲撃をかけたことで一回。次に人間と協約を結んだことで、エルフは我ら魔王軍にとっての『明確な敵』となった……これも一回。その後、お主らは何度か無断で魔族領に侵入しておったな? これも一回と数えよう。次に、妾と、そこにいるディアスへの襲撃に一回。そして今日、またもや無断で侵入して来た挙句、リーフィアを出せと喚き立てる。…………これで、合計5回じゃな」
次に敵意を漲らせたのは、アカネさんの方でした。
妖艶な笑みを浮かべ、しかし彼女の瞳だけは鋭くエルフを射抜きます。
それを真正面から受けたエルフは、絞り出すように呻きました。
「だ、だからどうした!」
「おや、ここまで言ってまだわからぬか。では、はっきり言ってやろう。
お主らの行いは全て『自業自得』じゃ。本当に滅ぼされたくないのであれば、さっさと我らの領地から立ち去れ」
それは敵意でも殺気でもなく、『覇気』でした。
ただならぬ圧力をその身一つで体現した彼女は、静かに「二度目は無い」と告げ、パチンッと扇子を閉じます。
この迫力に、流石のミリアさんも意識を覚醒させ、「なんだ!?」と周囲を警戒したようにキョロキョロと見渡し、すぐに魔王として相応しい偉そうな顔を浮かべました。
……涎が無ければ、まだ良かったんですけどねぇ。
「……くっ……覚えておけ。エルフを敵にしたこと、必ず後悔させてやる」
そんな捨て台詞を吐いたエルフは、素早い足で逃げるように彼方へと走り去ってしまいました。
……どうして、あそこまで惨めな行動を、彼らは息をするように自然と行えるのでしょうか。本当にエルフってわかりません。私も一応エルフですけど。
「すでに敵なのだがなぁ……」
アカネさんは呆れたように呟き、後ろの二人も同じ気持ちだったのか苦笑しています。
「さて、邪魔者はいなくなったし──そろそろ出て来ても良いぞ?」
そう言ったアカネさんは、クルリとこちらを振り向きました。




