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パーティーです

 古谷さんが鎧を選んだのであれば、もう彼がここに居る理由はありません。

 今はほぼ無害だとしても、彼は勇者なのです。いつまでも敵地に居るというのは、古谷さんとしても心が休まないでしょう。


「今夜はパーティーだ」


 古谷さんが褒美を選び終わった。そう報告した私に言われたのは、そのような言葉でした。


 今夜はパーティー。

 すなわち、古谷さんとの『お別れ会』ですね。


「わかりました。では、彼にはそのように伝えておきます」


「ああ、その必要はない。使用人を向かわせるから、リーフィアはもう休んでいいよ」


 休む? ……休む、ですか。


「それはどのような仕事内容です?」


「疑い深くなってる!?」


「リーフィア。今日の仕事はもう無い。夜食の時まで、ゆっくりしていいのじゃよ」


 と、助言をくれたのはアカネさんでした。

 ……おお、休みとはシエスタのことでしたか。ヴィエラさんの口から「休憩していいよ」と出たことがなかったので、いつもの癖で変に捉えてしまいました。


「皆さんは、ここで仕事をしてから行くんですか?」


「まぁ、そうだね。準備が整うまでここに居るつもりさ」


「……なら、私もここで待機します」


 執務室の隅っこ。いつもの場所にベッドを設置し、私は横になります。


「ウンディーネ。おいで」


『うんっ……』


 ウンディーネがふわふわと浮遊しながら近づいてきて、私にピタリとくっつきます。ひんやりとした感触が直に伝わってきて、とても気持ちがいいです。


「いいなぁ……余も一緒に眠りたい」


「ミリア様は仕事をしてください」


「うぐっ、ま、まぁ……そうだが」


「ちなみにミリア様。夕食までに終わらなかったら、一人残ってやってもらいますからね」


「えっ!?」


 なんかあちらから大変そうな会話が聞こえてきましたが、今日の仕事を終わらせた私には関係のないことです。


「……では、時間になったら起こしてくださいねぇ……」


『おやすみ。リーフィア』


「お休みなさい。ウンディーネ」


 今日は朝からミリアさんに変な起こされ方をしたので、睡眠が中途半端でした。

 そのため、目を閉じれば眠気はすぐにやってきて……私はそれに抗うことなく、夢の世界へ旅立ちました。




          ◆◇◆




 夕食の準備が終わったと起こされた私は、ミリアさんに引き摺られるように食堂まで運ばれました。

 ……どうやら、ミリアさんはギリギリで仕事を終わらせたみたいですね。その表情には、終わってよかったと安堵の色が浮かんでいました。


 というか、なんで私は有無を言わさず引き摺られているのでしょうか?


 起きる時にぐずりはしましたけれど、何も首根っこを掴むことはないでしょう。楽だから別にいいですし、使用人さん達にも見られ慣れたので恥ずかしいとは思わないのですが、今日はいつもと違うところがあります。


「やぁ、リーフィアさん」


 食堂に入った私達を迎えたのは、大勢の使用人さん達と、古谷さんでした。……やはり、彼の方が先に来ていましたか。


「面白い運ばれ方をしているね」


「古谷さんこんばんは。いつものことなので気にしないでください」


「本人が気にしないのはおかしいと思うけれど、まぁリーフィアさんだもんね。そうしておくよ」


 そうです。今日は古谷さんが居るので、彼からはこういった哀れみの目を向けられるのです。やはり恥ずかしいという気持ちはないですけど、こう……思うところはありますよね。って、今更か。


「おおっ! 勇者古谷! 無事に褒美を選んだみたいでよかったよかった! 余の贈り物は満足してくれただろうか?」


「ミリアさん。こんな素晴らしい鎧を頂けるんだから、満足しないわけないよ。本当にありがとう」


「うむっ! 感謝を言うのはこちらも同じだ。余の大切な配下を助けてくれたのだからな!」


 ミリアさんと古谷さんは、互いに感謝の言葉を言い合っています。

 このような社交の場ってものは、なんか居心地が悪くて好きじゃありません。


 面倒なことは他の人に任せて、私は食事でも楽しみましょう。


「ウンディーネ。行きましょう」


『え? う、うん……』


 私はウンディーネを引き連れ、バイキング形式で並ぶ料理を皿に盛っていきます。


「あ、これも美味しそうですね」


『リーフィア! あの果物。うちも食べたい!』


「では、あれも皿に盛り付けてしまいましょう。ウンディーネ、新しい皿を持って来てくれますか?」


『うんっ!』


 ミリアさんが遠くの方から『余も食べたいのに、抜け駆けしやがって!』と言いたげな視線を向けて来ましたが、そんなのに関わっているほど暇ではないので、完全な無視を貫きます。


「で、では勇者古谷! 世間話はこれくらいにして、我らも食べようじゃないか!」


 ──あ、強引に終わらせましたね。


「そうだね。折角作ってくれた料理が冷めちゃうと勿体無いし」


「よしっ! ではパーティーを楽しんでくれ!」


「そうさせてもらうよ。ありがとう」


 最後に握手をして、古谷さんもこちらに歩いて来ます。


「……お疲れ様です」


「ええ、うん。お疲れ様。……いやぁ、にしても凄い量の料理だね。どれを取ったらいいか迷っちゃうな」


「お好きなのをどうぞ。どれも美味しいですよ? ──あ、ウンディーネ〜、そっちのお肉も取ってください〜」


『わかった!』


 客人の前だろうといつもの姿勢を崩さない私に、古谷さんは「あはは」と苦笑いです。


「ん、なんです? 料理を取らなくていいんですか?」


 私はそこまで言ってから、古谷さんが苦笑いをしている理由を思い当たりました。


「毒は入っていないので安心してください」


「いや、そこは心配していないけどね? ……はぁ、耳が痛いな」


 私達がボルゴース王国で頂いた夕食は、ほとんどが毒入りでしたからね。仕返しされるのではないかとビビっているのかと思いましたが、どうやら違うようです。


「今日はあなたのために開かれたパーティーなのですから、あなたが楽しまなくてどうするんですか」


「……リーフィアさん。…………うん。そうだね。俺も楽しむことにするよ」


「はい。そうしてくださ──ウンディーネ〜、そこのオレンジジュース取ってください〜」


『うん! わかった! あっ、リーフィア! この果実すっごく美味しいよ!』


「え、まじですか? ちょっ、私も食べたいです」


 私は古谷さんに「では」と手を振り、ウンディーネに駆け寄ります。

 呆然と立ちすくむ古谷さんに、ディアスさんが肩に手を置いている姿が見られましたが、二人は何をしているのでしょう?


 ……まぁ、私には関係のないことですね。

 どうせ何か難しい話でもしているのでしょう。


「──おお、本当だ。すっごく美味しいですね」


『でしょう? ほら、これも!』


「うん、これも美味しいです。これなんてどうです?」


『ちょっと酸っぱいけど、美味しいね!』


 私は私で、今を楽しむことにします。

明日の更新はお休みします

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