勧誘されました
私達は場所を変え、私とウンディーネの拠点である泉まで来ていました。
魔王、ミリアさんは負けを認め、案内している時はずっと大人しくしてくれていました。
「それで本当はどうしたのですか?」
「……う、うむ。余は魔王だ。余の領域『魔族領』がこの近くにあってな。今日はその周辺にあそ──視察に来たというわけだ」
途中で言い直したのは、あえて突っ込ません。面倒なので。
「この森の近くにそんな場所があったなんて知りませんでした」
「ただでさえこの森は大きいからな。ヴィジルの樹海という名が付いているくらいだ」
「樹海、ですか……」
確かに樹海ですね。
先程、エルフの里を上から見た時、思えば緑以外見えなかったような気がします。
「そこでどこから見ようかと思っていた時だ。突然、森のエルフどもに囲まれてな。余のことを『魔女』だと疑ってうるさかった」
「……あ〜…………」
なんか、私も同じような記憶がありますね。
「なんだ? その様子からして、心当たりがあるようだな」
「えっと、はい……私も前にここのエルフ達に魔女と疑われて、囲まれました」
「──ぷっ、あははっ! なんだ、仲間だったか。お互い大変だな!」
「笑えませんよ。本当に迷惑だったんですから」
「ちなみに、お前はどのような状況だったのだ?」
「綺麗な泉の近くで寝ていたら、いつの間にか囲まれていました。その時は風を巻き起こして全員を吹き飛ばしましたね。その後、誤解だったから私を里に招待すると強引に言ってきて、嫌々付いていくと族長から『お前のためだからこの里に住め』と言われました」
「…………なんだ。本当に迷惑な奴らだな。して、その様子だと断ったらしいな」
「勿論です。私はこの子、ウンディーネと約束しましたから」
ウンディーネはハッとしたように私の顔を見上げます。
面白そうだと顔をにやつかせたミリアさんは、続きを話すように催促してきました。
……別に聞かれても問題ないことなので、話しましょう。
「この子は外の世界に出て、私に楽しくしていてほしいと言いました」
「確かに、お前は感情というもののみが綺麗に抜け落ちているように見える」
……酷い言いようですね。
ですが、それも間違いではないと思います。
「…………私は異世界から来ました。転生者というやつです」
『……え……?』
「ほう?」
……あれ、どうして私はこんなことを話しているのでしょう。
これは別に言わなくてもいいことです。
でも、言っても問題はないと私は思っていました。
この小さな魔王様と話しているのが面白いからなのでしょうか。
それとも、ウンディーネには隠し事をしたくないと思っているからでしょうか。
そんなことを他人事のように思いながら、私はスラスラと言葉を発します。
「私の前世は最悪でした。楽しいことなんて一つもない。ただ、機械のように仕事だらけの生活を繰り返し、いつしか私は笑うことがなくなりました。それも当然です。失敗したら上司には小一時間怒られ、その遅れのせいで残業コース。そんな毎日の中、私は体だけではなく、心も機械のようになっていきました。……最後には暴走して来た車に跳ねられ、呆気なく私は死にました」
私を転生させてくれた神様も、そんな私に同情して、数ある転生者の枠に私を入れてくれたのでしょうか。
そういえば、あの方にも悔いのない人生を、と言われましたね。
……死んでから心配ばかりされている気がします。そんなに私は危なさそうに見えますか?
まぁ、そう見えるからこうして心配されているのでしょうね。
「そんなつまらない人生を送り、縁あって転生した私の願いは──ただ静かに寝ることでした。でも、ウンディーネに言われてからは、その願いに楽しく過ごすというのも追加されました」
出会って間もない精霊に言われた程度で、お前はチョロい奴だな。
そう思われるかもしれません。
──ですが、私は初めてだったのです。
社会に出てから、私のことを心配してくれる人はいませんでした。
親とは遠い場所で、誰も私のことを気にかけてくれず、皆、自分のことで精一杯です。
「死んで初めて、心から優しい方に心配されるとは……なんとも皮肉なものですね」
これでは、私の前世が最悪だったと証明しているのも同じです。
でも、それが覆らない事実なのは確かです。
「ウンディーネと出会っていなかった私ならば、ちょうどいい寝床ができたとエルフの里に住むことを選んでいたでしょう。ですが、今の私には、こんな私を心配してくれる人がいる。その人の願い……無視することはできません」
と、長々と話してしまいました。
……やはり、ダメですね。長く喋ると、あれこれと言葉が出てきてしまい、結局何を言いたかったのかわからなくなります。
そして、いつの間にか愚痴になってしまう。
これでは聞いている方も退屈でしょう。
「申し訳ありません。今のは忘れて──」
「うう、お前……辛い思いしていたのだな」
俯いていた顔を上げると、ミリアさんが鼻水をすすりながら号泣していました。
「…………はい?」
『……リーフィア、大変だったんだね……ぐすん……』
驚くことにウンディーネも大粒の涙をボロボロと流し、下に水溜りを作っていました。
「うん?」
…………何故でしょう?
「あの、どうしたのですか?」
「どうしたこうしたもあるか、馬鹿たれ!」
「えぇ……?」
理由がわからないのであれば、直接聞いてしまえばいい。
そう思って声をかけたら、理不尽に怒られてしまいました。
「お前、名はリーフィアとか言ったな!」
「あ、はい」
「よしっ、リーフィアよ。余の配下となれ!」
「嫌です」
「即答!?」
だって面倒ですもの。
魔王の配下? いやいや、面倒な予感しかしません。
面倒ごとが降り積もってくる未来しか見えません。
よって、絶対にブラックです。真っ黒です。私のブラックセンサーがうるさく警報を発しています。
「配下と言っても、ほとんど何もすることはないぞ! 大方は元から居る余の配下がやってくれるからな。お前は余の護衛をすればそれでよい!」
「それって私いります?」
見た目はちっこいですけど、ミリアは魔王ですよね?
襲撃者とか余裕で撃退出来ますよね?
「それに、魔族領には楽しいことが沢山あるぞ! なんなら、お前のために遊戯施設を造ってもいい!」
「いらないです」
「いい土地沢山あるぞ!」
「不動産屋のような言い方ですね」
「余といると楽しいぞ!」
「凄い自信ですね」
「他の配下達も面白いぞ!」
「キャラが濃そうですね」
「……面白いぞ!」
「言うことなくなりましたね?」
ぐぬぬ……と唸りながら押し黙るミリアさん。
そして、ハッと何かに気付いたようで、途端に表情を明るくさせました。
「三食豪華なご飯も出てくるぞ! おやつも沢山あるし、今なら昼寝付きだ! 余が使っている素材と同じベッドも用意しよう。ふわふわするぞ!」
「──あなたの配下になりましょう」
『リーフィア!?』




