駆け付けました
もう少しでディアスさんが居るであろう目的地に着くと思った頃、ウンディーネから念話が入りました。
『リーフィア。こっちは、アカネと合流したよ。……少し怪我しているけど、命は問題なさそう』
『了解です。ウンディーネは警戒を怠らずに魔王城まで彼女を運んでください。私は……もう合流出来るでしょう』
『うんっ、そっちも気を付けてね……』
『ええ、では』
……どうやら、あっちの方は問題なく終わったようです。
まずは一人。アカネさんの安否が確認出来たことに安心しました。
後は、ディアスさんです。
彼はミリアさんと同じくらい無駄にタフな方なので、問題はない……そう思いたいのですが、やはり不安な気持ちは隠しきれません。
「はぁ……はっ……」
息を切らせて走るなんて、いつぶりでしょうか。
……ったく、こんな重労働、それ相応の報酬が無ければ文句を言ってやります。
「そう、私は報酬が欲しいのです。主に休暇が……」
なので──
「ちゃんと生きていてくださいよ……!」
私は自身の体に魔力を流し、更に速度を上げます。
馬車で一週間は掛かるであろう距離を、私は僅か10分で到着しました。それでもウンディーネの方が早かったのですが、彼女は水のある場所ならば何処へでも一瞬で移動出来ます。
……走らなくても遠い距離を自由に行き来出来るなんて羨ましいとは思いますが、流石に私では水になることは出来ません。なのでこうして全力で走っているのですが、案外早く走れるものですね。
でも、そのせいで久しぶりに肩で息をするくらい疲れてしまいました。
「どこ、ディアスさんは、どこに……!」
地図に記された場所へ到着した私は、周囲をぐるりと見渡します。
確かにそこは戦闘の跡と思われるものが、ちらほらと伺えました。襲撃されたであろう馬車からは火が燻っており、まだ新しい痕跡として残っています…………が、人の影は何一つとして残っていません。
「まさか……」
最悪の結末を想像しますが、そう決めつけるのはまだ早いですよね。
「はぁ、はぁ……すぅぅ、はぁぁぁぁ……」
深呼吸して息を整えます。
──落ち着くのです、私。
変に急いで考えが纏まらないのが、一番いけません。
「火薬の臭い。濃厚な魔力の残滓……かなりの激闘が繰り広げられたことが想像されますね」
ですが、これはディアスさんの魔力ではありません。魔力の反応というのは、人によって異なります。そしてこれはディアスさんのような荒々しい魔力ではなく、もっと静かな……それこそあの時に出会ったようなエルフ達に似た魔力を感じます。
襲撃者はエルフ。
ですが、彼らは火器を扱わないでしょう。ということは人間も関わっている。……まぁそれはすでに予想していたことなので、驚きはしませんでした。
でも、ここまで行動が早いとは思いませんでした。
「数は……十は優に超えていますね。あのディアスさんが助けを求めるほどです。それを考慮して20、いや30。それを相手に無事とは思えませんが……」
私は地面を見つめ、必死に痕跡を探します。
激戦の痕跡のせいで地面はぐちゃぐちゃ。道を整備するのは困難と思われるほど、荒れ果てていました。しかし、その中にも人が通ったであろう足跡と魔力の残滓は、微かに残っていました。
「……ふぅ……」
心を落ち着かせ、周りに耳を傾けます。
今まで抑えていた聴力を解放したことで、今の私は半径1キロ先まで鮮明に聴き分けられるようになっています。
………………。
……………………。
「──そこか」
遥か遠くから聞こえる剣戟の音。
それを捉えた瞬間、私はその場から弾けるように駆け出しました。
まだ剣戟の音が聞こえるということは、誰かが抵抗しているということです。
逃走しながら戦闘を繰り広げていたのか、とても遠い場所からの音でしたが…………
「そんなの、私にとっては一瞬です」
言葉の通り一瞬で移動した私は、勢いを殺さぬまま人間の兵士に近づき、『アイテムボックス』から取り出した縄で縛り上げました。
「うわっ!」
「なんだ!?」
「くっ、動けない!」
「気をつけろ、誰かがばっ!?」
「たいちょ、ぐぶっ……!」
刺客の兵士を次々と縛り上げ、地面に転がします。
彼らは風よりも早く動く私の姿を捉えられていないらしく、キョロキョロと忙しなく辺りを見回し、そして気が付いたら地面に転がっていました。
彼らに抵抗していた魔族の兵士は、突然の事態に目を丸くさせ、同じように周囲を見渡します。
姿が見えていないせいで警戒しているようでしたが、安心してください。味方まで巻き込むつもりはありませんよ。
「……あ……縄の在庫不足ですね」
流石に大勢の兵士を縛り上げる量は持っておらず、すぐに在庫切れとなってしまいました。
私のスキル『マジックウェポン』で縄を形作るのもいいのですが、継続して魔力を消費するのは嫌です。
人間側の兵士は全て縛り上げました。
残りはエルフのみ…………
「ならば……仕方ありませんね」
私は諦めたように溜め息を吐き、軽く拳を握り締めました。
「ぶべっ!」
「あが!」
「ぶふっ!?」
「ごはぁ……!」
「へぶしっ!」
エルフ達の背後に立ち、後頭部を思い切り殴って意識を刈り取ります。
魔族の兵士達は、更に困惑しました。
「な、何者だ!?」
ついには恐怖に耐えきれなくなった一人が、声を荒げました。
彼には用事が済むまで我慢をしてもらい、こちらの敵を全て完封した後、私は姿を現しました。
「こんにちは、皆さんの魔王軍配下──リーフィア・ウィンド。ここに参上です」
怯える兵士達を安心させるため、私は冗談交じりに微笑みました。
なのに彼らが浮かべた表情は、私が予想していたものと異なりました。
「「「「「………………」」」」」
彼らは皆同様に呆然としており、中には幻を見ているかのように腕で目をゴシゴシしている人も居ました。
うーむ、私の登場に驚きすぎではないですか?
一応ここは戦場なのですが……まぁ、私が全て片付けてしまったので問題はありませんね。
「はぁ……」
溜め息を一回。
力無く座り込む兵士の一人に手を差し伸べ、私はもう一度微笑みます。
「とりあえずこんにちは。加勢に来ましたが大丈夫ですか?」




