その後、です
「──ってことがあったんですよ」
泉の側で寝転がりながら、私はその時のことを語っていました。
話し相手は泉から顔をひょっこりと覗かせ、私の他愛ない話に何度も相槌を打ってくれます。
『へぇ〜、大変だったんだね……それでっ? その後はどうなったの?』
その話し相手は私の契約精霊であり、この世界で誰よりも信頼している数少ない友人、ウンディーネです。
「ミリアさんが馬鹿して自爆。なんとも締まらない決着となりました」
埒があかないと思ったミリアさんは、あの火球とは比べ物にならない……訓練場を埋め尽くすような火球を作り出しました。
流石の私もどうやって対処しようかなと思った時、それは起こったのです。
特大の魔法を撃つには詠唱が必要となります。
ミリアさんは長ったらしい詠唱を続け、最後の方で思いっきり噛みました。
それによって魔法が暴走──ミリアさんはその爆発に巻き込まれてしまい、断末魔の叫びを上げながら遥か彼方まで吹き飛んだのでした。
……あれはまるで、特撮の戦隊モノでよくありそうな『悪役が盛大に吹き飛ぶシーン』に酷似しており、私は「スタントマンって大変なお仕事だったんですねぇ……」と少しズレた感想を抱きました。
その後はちゃんと回収しましたし、汚い花火にもなっていないのでご安心を。
──ということがあって私は無事に『二週間の休暇』を手に入れ、こうしてウンディーネの泉まで遊びに来た。というわけです。
『ミリアちゃんが無事で良かったよ……』
「まぁ、あの人は無駄に頑丈ですからね。次の日にはピンピンしてましたよ」
今回のこともあってちょっとは大人しくなるかと思っていたのですが、そんなのはただの幻想でした。
一日程度で全回復するゴキブリ並のしぶとさには驚きました。それに加え、丸一日何も出来なかった鬱憤が溜まっていたのもあって、いつも以上にうるさかったです。
……ここに来たのは避難が目的でもあるのですが、やはりこの泉の雰囲気は心が和みますね。
『でも、お城から離れちゃっていいの……?』
「問題はないと思います」
エルフ達は人間側と共闘をするつもりらしいので、エルフだけで魔族領に侵入してくることは無いでしょう。
それに、エルフと人間が手を取ったという噂はすでに城下でも広まっており、魔族のエルフに対するヘイトは急上昇です。
……そのせいで私のことを知らない人が、街中で問答無用に襲いかかって来ましたが、その時は私の正体を知っている人が仲裁に入り、こちらがドン引きするくらい土下座されるという事件が何度か起こりました。
急に鋭利な物で斬られることに思うところはありますが、それに対して怒っていたら面倒です。
むしろその後のミリアさんの怒りを収める方が大変だったので、襲われたことなんて気にしている暇は無かった。というのが本音でもあります。
「まぁ、すぐに帰るつもりではありますが……」
今はディアスさんもアカネさんも遠出してしまっているので、魔王城は手薄です。
ミリアさんとヴィエラさん。兵士の方々がいると言っても、やはり側近の二人が不在だと不安が残るのは当然のこと。今は休暇中だとしても魔王城で待機していた方が良いでしょう。
『そっか……すぐ、帰っちゃうんだね……』
ウンディーネはそのことに寂しさを覚えたのか、どこか弱々しく微笑みました。
……そんな顔をされると、帰りづらくなるじゃないですか。
「ウンディーネも、いつだって遊びに来ても良いのですよ?」
エルフの目的は把握しました。
今更ウンディーネの泉を襲撃することは無いでしょう。
なので、彼女もずっとここで待機している必要はありません。
そのことをウンディーネに伝えると、途端に花が咲いたかのように明るい笑みを浮かべました。
『良いの……!?』
「ええ、勿論です。最近は寂しい思いをさせてしまいましたから……これからは好きなだけ甘えてください」
『っ……うん! そうする!』
ウンディーネは泉から飛び出し、私に飛び付きました。
ヒヤリとした感触と、ぷにぷにの肌触り……はぁぁ、癒されますねぇ……。
『え、ちょ……り、リーフィア?』
「はぁ……たまらん……」
『リーフィ、っ──んっ』
「っと、失礼」
怪しい吐息が聞こえたところで、私は慌ててウンディーネから離れます。
感触が気持ち良すぎて色々なところを触りすぎました……いくら契約精霊と言っても無礼でしたね。反省です。
『い、いや……もっと触ってほしか…………んんっ! 何でもないよ!』
「…………? はい。そうですか」
急に全身を赤く染めて、体をくねくねさせているのは気になりますが……彼女が何でもないと言うのであれば、私がこれ以上踏み込むのは迷惑でしょう。
「…………んしょっと、それでは私はそろそろ帰るので、また暇な時にでも来てください」
『うんっ! 絶対に遊びに行、く…………』
急に言葉の後ろが萎んで行くウンディーネは、どこか恥ずかしそうです。
『あ、あの、ね? これから行っても、良い……?』
もじもじさせながら上目遣いでそう言う彼女は、もう私のドストライクでした。
勿論、私が「ダメだ」と言うわけがなく、静かに親指をサムズアップ。
「オーケイ、カモーン」




