炎と鋼の咆哮
コロシアム全体が震えていた。
雪は降り続けていたが、大地に触れた瞬間、そのすべてが溶けて蒸発していく。
それほどまでに、闘技場には圧倒的なエネルギーが満ちていた。
伝令官の声が轟く。だが、観客の叫びにかき消されそうだった。
「本日最後の戦い――!
“黄金の竜姫”オーレリア、黄金の召喚士の代表!
対するは――
北の王国が誇る千戦無敗の英雄、将軍クロガネ!」
松明が激しく燃え上がる。
観客の熱気は最高潮に達し、将軍の名が何度も叫ばれた。
彼は、人間でありながら戦場で神をも打ち砕くと讃えられる男。
その将軍に、オーレリアがゆっくりと歩み寄る。
その一歩一歩に、金色の輝きと熱が残る。
彼女の髪はまるで太陽の糸のように輝き、歩くだけで空気が焼けるようだった。
クロガネは兜をつけず、堂々と立っていた。
黒と銀の混ざった髪、無数の傷を刻んだ顔。
重厚な黒鋼の鎧には、赤いルーンの刻印が光っている。
その手には、神すら砕くという伝説の大剣――“アポロ・ブレイカー”。
沈黙。
二人が互いの眼差しを交差させる。
そして――
ゴングが鳴った。
クロガネが猛然と突進する。
巨体とは思えぬ速さ。
剣が稲妻のように振り下ろされる。
オーレリアは光の盾で受け止めた。
衝撃で地面が揺れ、壁の氷が砕け散る。
「見事ね……」
オーレリアが微笑む。
「竜を前にしても、恐れを知らないのね」
「血が流れるなら、恐れる理由はない」
クロガネが剣を持ち直し、再び構える。
二人は再び激突した。
そのたびに、音の衝撃波が空間を切り裂き、氷の壁が崩れ落ちる。
観客は息を飲む。
自国の英雄か――神を思わせる召喚体か。
――「発動:ドラゴン・フォース・リリース」
オーレリアが宙へ舞い上がり、金色の鱗が全身を覆う。
目は太陽の双子のように燃え、背からは炎の翼が生え広がる。
声は、雷鳴のように響く。
「神々の火に、貴様の鋼がどこまで耐えられるか――試してやる!」
口を開き、黄金の神炎を吐き出す。
空までもが金色に染まり、観客は思わず目を覆った。
だが――
炎の中に、なお立ち続ける影があった。
クロガネだ。
全身に火傷を負いながらも、立っていた。
――「奥義:ソーラーアーマー・イグニッション」
その鎧が光を放ち始める。
アポロ・ブレイカーが白く輝き、剣から放たれる力が炎を跳ね返す。
オーレリアが地上に降下。
クロガネが突進。
神と人間。
空と地。
その衝突は、金属音ではなく――雷鳴の如き響きを生んだ。
オーレリアが尾を振るう。炎を纏った一撃。
クロガネがそれをかわし、剣を地に突き立てる。
純粋なエネルギーの波が放たれ、オーレリアの翼を引き裂いた。
彼女は地面に落ちかけたが、すぐに体勢を整え、笑った。
「見事だ、人間。
貴様の魂は、千の太陽よりも熱い!」
クロガネは血を拭い、口元にわずかな笑みを浮かべる。
「そしてお前の魂は……この世界には眩しすぎる」
再び、二人は同時に叫ぶ。
「――ドラゴンズ・ヘヴン・ブレス!」
「――ソーラー・アルマゲドン・ストライク!」
金の光柱と白の光柱が交差し、
闘技場の中心で激突する。
世界が一瞬、音を失った。
そして、天までもが揺れる大爆発。
……
………
粉塵が晴れたとき、二人は立っていた。
オーレリアの肩からは血が流れ、鎧にはひびが入っていた。
クロガネは肩で息をし、剣は折れていた。
鎧の輝きも失われ、膝がかすかに震えていた。
彼は、最後の力を振り絞って笑う。
「神も……血を流すんだな」
オーレリアは深く頷いた。
「そして人も……空へ手が届く」
クロガネは膝をつき、折れた剣を支えに地に伏す。
観客全員が立ち上がった。
ブーイングなどない。
ただ――
轟音のような拍手がコロシアムを包み込んだ。
伝令官が、感極まった声で杖を掲げる。
「勝者――黄金の召喚士のドラゴン、オーレリア!」
オーレリアはクロガネのもとへと歩き、静かに膝をつく。
「あなたの炎は、私のそれに劣らなかった。
誇りを持って、休むといい――英雄よ」
Traductor Español - Japones dijo:
医務室の静けさの中、ハルトが歩み寄る。
ベッドには将軍クロガネ――重傷を負いながらも、まだ命の灯を宿していた。
彼はかすかに目を開け、疲れた笑みを浮かべる。
「……お前が、あの“化け物”の主か」
ハルトは首を横に振った。
「いや。私は“主”ではない。
――彼女の“仲間”だ」
クロガネは、微かに声を漏らして笑った。
「……そうか。
なら、世界もまだ……悪くない」
彼は静かに目を閉じる。
ハルトが胸に手を当てると、その顔には穏やかな安堵が浮かんでいた。
「――人間であることの意味を……思い出させてくれて、ありがとう」
その言葉は、敬意と感謝の中に消えていく。
外では、オーレリアが北の空を見上げていた。
嵐は去り、澄み渡る光が空に差していた。
竜の咆哮と鋼の響き――
その余韻は、戦いが終わった後も、長くこの世界に残り続けるだろう。
――つづく。




