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仲間に裏切られたガチャ中毒の俺、異世界で無限召喚スキルを手に入れ、最強の軍勢で世界を征服する  作者: ジャクロの精霊


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黄金の心臓

夜の黄金王国は静寂に包まれていた。

何週間ぶりかで、兵士たちの足音も、警鐘の音も聞こえない。

ただ風が塔の間を抜けるささやきだけが響いていた。


ハルトはバルコニーから地平線を見つめていた。

町の灯りが蛍のように瞬いている。

背後では、戦争が遠い記憶のように感じられたが、胸に残る重圧は消えていなかった。


「また眠れないのね?」

柔らかい声がそう言った。


カオリが、髪をほどき、白いケープを肩にかけて静かに近づいてきた。

その金色の瞳には月光が映っている。


「目を閉じれば、失ったものばかりが浮かぶでしょう?」

彼女がささやく。


ハルトは笑みを浮かべたが、それは喜びのない微笑だった。

「そして、まだ失うかもしれないものもな。」


カオリは手すりにもたれ、彼を見つめた。

「あなたは強いけど……内側では崩れてる。」


「違う」

ハルトは静かに答えた。

「もうとっくに壊れた。今動いてるのは……砕けた破片だ。」


カオリは目を伏せた。

その手はわずかに震えていた。

何か言おうとしたとき、アウレリアが現れた。


人の姿をとったアウレリアは、金の鱗を模した黒いドレスをまとっていた。

その存在は温かく、同時に危険でもあった。


「ハルト」

腕を組みながら、彼女は言った。

「そろそろ休んで。明日は新兵の訓練よ。」


「北が動いている間は、眠れない。」


アウレリアは眉をひそめた。

「全部背負う必要はない。」


「いや、ある」

迷いなく、彼は言い切った。

「俺が皆をこの混乱の世界へ連れてきた。最後まで導くのが俺の責任だ。」


カオリはまっすぐ彼を見つめた。

「そこまでして、あなたはどこへ行こうとしてるの?」


「誰も力を――俺自身も含めて――武器として使えない世界まで。」


沈黙が落ちた。


アウレリアが一歩踏み出し、炎の光が彼女の猫のような瞳に反射した。


「その誓いは崇高だけど……あなたを蝕んでいる。」


「力は常に何かを蝕む。違うのは、それを何のために使うかを選べるかどうかだ。」


アウレリアは微笑んだが、その声は少し沈んでいた。

「地獄の王になるつもりなら、せめて一緒にその玉座に座らせて。」


カオリは拳を握りしめた。

「そんなこと言わないで。ハルトは……悪魔なんかじゃない。」


「本当にそう言えるの?」

アウレリアが返す。

「誰かがあの人を傷つけた時に、彼が何をするか……私は見てきた。」


空気が張り詰めた。

二人の女性が見つめ合う。炎と光。


ハルトは目を閉じて、静かに言った。

「やめてくれ。俺に必要なのは、互いに争う守護者じゃない。

同じ太陽を信じる仲間だ。」


カオリが一歩前へ出る。頬が赤らんでいた。


「じゃあ……聞いて。」

「私があなたのそばに残ったのは、贖罪のためじゃない。

あなたに第二のチャンスをもらったからでもない。」


ハルトが驚いて彼女を見る。

カオリは深く息を吸った。


「私がここにいるのは……

みんなが私を道具として使った時、あなたは“人間”として見てくれたから。

そして今……あなたが戦うとき、私はそばにいたい。

召使いとしてでも、兵士としてでもなく。」


そこまで言って、彼女は口を閉じた。

沈黙が、すべてを語っていた。


アウレリアはその様子を静かに見ていた。

怒りではなく、どこか切なげな表情で。


「カオリ……」

「あなたの方が、私より勇敢ね。」


ハルトは目をそらし、深く呼吸した。


「もし今、それを言うなら……俺には何も約束できない。」


カオリは優しく微笑んだ。


「約束なんていらない。ただ……あなたのために戦いたいだけ。」


カオリが去った後、アウレリアがそっと近づいた。

その声は、さっきまでとは違い、穏やかだった。


「人間の彼女は……あなたを愛している。」


「知ってる。」


「あなたは?」


ハルトは横目で彼女を見た。


「俺には……彼女たちが望むような“愛”が、できるのか分からない。」


アウレリアは彼の肩にもたれ、目を閉じた。


「じゃあ……私がその分まで、愛してあげる。」


炎がその瞳に映り、

ほんの一瞬、ハルトは何年も感じていなかった“静けさ”に包まれた。

世界の重さは消えなかった。

だがその一瞬だけは……背負えると思えた。

翌朝、黄金王国中に鐘の音が鳴り響いた。

眩しい太陽の下で、王国の旗がはためいていた。


カオリは新たな訓練兵たちを指導し、

アウレリアは空を舞いながら街を見守り、

サヤカは防衛地図を整理していた。


ハルトは塔の頂から、自らの民を見下ろしていた。

そこにいたのは、兵士でも駒でもなかった。

彼に“信じる”という意志を託す、ひとりひとりの人間だった。


風が吹き、金のマントが旗のようにはためく。


「黄金の心は、俺のものじゃない」

ハルトは静かに呟いた。

「ひざまずくことを拒んだすべての者たちのものだ。」


そしてその言葉と共に、

黄金王国に新たな夜明けが訪れた。


――つづく。

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