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仲間に裏切られたガチャ中毒の俺、異世界で無限召喚スキルを手に入れ、最強の軍勢で世界を征服する  作者: ジャクロの精霊


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影の刃

北の空気は、鉄と雪の匂いがした。

風は凍てついた粒子を運び、刃のように肌を裂いていく。


フレイガルドの砦の影を縫うように、三つの影が沈黙の中を進んでいた。


モモチ――魔法迷彩の灰色のマントをまとい、

カオリ――審判の騎士団の聖職者になりすまし、

リラ――半透明の姿で揺れる煙のような不可視の魔術を身にまとう。


「……あと二分で見張りが交代するわ」

リラのささやき。


「了解」

モモチは短く返し、顔を覆う仮面をきつく締め直す。


任務は明確だった――

ロセンの聖域へ侵入し、“神聖結界”の構造を探る。


出発前、ハルトが残したのはたった一言。


「信仰がある場所には、必ず“綻び”がある。……それを見つけろ」


氷が足元で砕ける音。

聖域の塔は、月光の下で水晶の槍のようにそびえ立っていた。


内部は青白い蝋燭の光に照らされており、

壁には神聖な紋章――天秤と、白き太陽を貫く剣が描かれている。


カオリは祈りの演技をしながら祭壇へ近づいた。


「強い魔力の集束を感じる……ただの防御魔法じゃないわ」

小声で囁く。


「これは“召喚封鎖”の結界……」


リラが頷く。


「……やっぱり。

 この結界が発動すれば、ハルト様の“ガチャ”すら遮断される」


その時、金属音。


通路の奥から、硬く響く足音が近づいてくる。


そして、現れたのは白銀の鎧を纏う一人の女騎士。

赤い焔のような瞳、黒髪を長く編み込んだ髪型。


その声は鋭く、冷たく空気を裂いた。


「来ると思っていたわ」


モモチは即座に反応し、霧を纏ったクナイを放つ。

だが、女は光を帯びた聖なる槍でそれを弾き返した。


「……何者?」

カオリが魔法の詠唱を始める。


女は冷ややかに微笑む。


「沢渡リナ。

 あなたたちと同じ日に召喚された――

 そして、全員に“忘れられた”者よ」


モモチの目が細まる。


「……また“過去の亡霊”か」


リナが槍を回転させると、空気が凍結する。


「違うわ、モモチ。

 私は“今”を守る者。

 そして高峰悠人の命により――

 あなたたちを、この聖域から一人も生かして帰さない」


衝突は、瞬間だった。


モモチは氷柱の間を駆け抜け、煙のように姿を消す。

リナは目を閉じ、集中。

聖なる波動が広がり、錯覚と幻術を打ち破る。


背後から現れたモモチの短剣が、首筋を狙う――


「……遅いわ」


だが、リナの槍は超人的な速度で回転し、

モモチを壁へと叩きつける。


血が、床にこぼれた。


リラはすかさず氷の壁を生成して距離を取る。


「今よ、カオリ!」


カオリが力を集中させる。

足元に金の魔法陣が浮かび上がった。


「《共鳴・癒光陣!》」


暖かな癒しの光が広がり、

モモチの傷が徐々に塞がれていく。


リナが苦笑する。


「……あの回復魔法、以前よりも強力ね。

 だけど、治ったところで……お前が何者かは変わらない」


モモチは無言で立ち上がった。

黒い軌跡を残しながら疾走する。

その瞳には、揺るがぬ覚悟が宿っていた。


「――ハルト様のために……影が光を喰らう」


彼女はリナの背後に出現。

だが、今回は首ではなく――槍を狙った。


正確無比な一撃が、槍の根元にある魔術刻印を破壊。


閃光が走る。


二人の身体が同時に地に崩れる。

激しい呼吸の音だけが響く。


リナは血を流しながら、うつむいて呟いた。


「……やるじゃない……

 なるほど、ハルトが君を選んだ理由が少し分かったわ」


モモチは冷静に返す。


「そしてあなたは――

 “誰が本当の敵か”、忘れていただけ」


そのまま、静かな音と共に短剣が振るわれた。


聖なる槍が――

真っ二つに折れて、床に転がった。

夜明け――

三人は、沈黙のうちに北方の国境へと戻ってきた。


空は深い蒼に染まり、

風が凍えるような冷気を運んでいた。


リラは跪き、ハルトへ小さな破片を差し出す。


「確認済みです。“神聖結界”はまだ未完成ですが、

 小規模ながら既に作動しています。

 フレイガルド全域に展開されれば、

 我々の召喚――“ガチャ”は封じられるでしょう」


ハルトは言葉を返さず、ただ静かに彼女の報告を聞いていた。


その隣で、カオリが目を伏せる。


「リナ……あの子は、私たちと同じクラスだった」


「知っている」

ハルトの声は、冷静だった。


「……そして、彼女が最後ではない」


その瞬間、冷たい風が城壁をなぞるように吹きつけた。


城の塔の上――セリス・ノワールが空を見下ろしていた。

その黒き翼は、まだ広げられていない。

だが、それはまるで“その時”を見極めているかのようだった。


「生者が生者を殺す時、

  私の仕事はますます容易になる……」


“死”の名を持つ者が、北の空を見つめながらささやいた。


ハルトはゆっくりと目を閉じ、そして口を開く。


「ならば備えよ、セリス。

 ――今回は、すべての死が“自らの選択”になる。」


――つづく。

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