北方の誓い
Traductor Español - Japones dijo:
太陽の光はかろうじて北方の雲を貫き、
霜に覆われた山々が静かにそびえ立っていた。
息が凍って結晶となるほど、空気は冷たかった。
その古き砦の一角で、二つの影が地平線を見つめていた。
――高峰悠人と鏡俊介。
黄金の王国の外で、いまだ活動を続ける最後の“英雄”たち。
石の台座に広げられた地図には、
ハルトが征服した領土が赤いインクで記されていた。
それはまるで、大陸に刻まれた無数の傷跡だった。
俊介は暗い髪を揺らし、険しい表情で拳を振り下ろした。
「もう見て見ぬふりはできない。
ハルトは疫病のように広がってる」
悠人は静かに彼を見た。
高校時代から変わらない、まるで仮面のような穏やかさ。
争いの仲裁は得意でも、自ら血に染まることはなかった。
「考えなしに動けば、次に死ぬのは俺たちだ。
必要なのは――仲間、情報、そして時間だ」
「時間だと?」俊介は鼻で笑った。
「奴はもう、召喚獣すら使っていない。
今や“概念”を呼び出して戦ってる」
悠人は数秒の沈黙のあと、低い声で答えた。
「ならば、同じ手を使うまでだ。
神を操る者には――信仰で対抗する」
砦の地下、薄暗いカタコンベでは
新たな軍が訓練を重ねていた。
紺碧の背景に、白い太陽と天秤をあしらった旗――
それは「永劫審判の騎士団」の紋章。
悠人と俊介が創設した勢力。
“ガチャという悪”から大陸を浄化すると誓った軍。
騎士、神官、元貴族たちが集う中、
彼らとは異なる存在もいた。
――他の“召喚者たち”。
死をくぐり抜け、生き延びた者。
あるいは、死を装ってきた者。
その一人、明浅ミナ。
薄緑の髪を持つ少女で、
“真実の鎖”という支援系スキルを持っていた。
半径10メートル以内の「嘘」を検出する能力。
彼女は、彼らの背を見つめながら問うた。
「悠人さん……本当に、ハルトを止められると思うのですか?」
悠人は悲しげに微笑んだ。
「思っていない。だが、誰かがやらなきゃならない」
俊介が静かに口を挟んだ。
「ハルトはもう人間じゃない。
だから俺たちも、人としての線を越える」
ミナは黙って二人を見つめた。
そして、スキルが自動で発動した――
「人間性」という言葉が、
“嘘”として光った。
***
二人の英雄は砦の中庭へと向かった。
雪がその足元で音を立てる。
俊介が剣を抜いた。
刃から放たれた青黒いオーラが、四つに分裂する。
それぞれが空中に浮かび、宙を舞った。
「俺のスキル――『百腕刃』。
一振りごとが俺の意思そのもの。
どの角度からでも、命令一つで斬れる」
悠人は無言でそれを見つめ、そして手を上げた。
空間に白い光が集まり、金色の魔法陣が現れる。
「俺のスキルは……『反転領域』。
この中のあらゆる攻撃エネルギーは、
そのまま“攻撃者”に跳ね返る。
――魔法すらも」
二つのスキルが共鳴し、空気に震えが走った。
悠人は手を下ろし、静かに言った。
「これだけの力があっても――奴には届かない」
俊介は冷たくうなずく。
「だからこそ……正攻法は、もう捨てる」
その夜、二人は自らの紋章の前に跪いた。
祭壇に灯る蒼き炎が彼らを照らし、
石壁に長く、深い影を落としていた。
悠人が手を差し出す。
「約束しよう、俊介。
王国のためでも、神のためでもない。
――俺たちを信じる者たちのために」
俊介はわずかに笑い、その手の上に自分の手を重ねた。
「倒れるなら、“英雄”として倒れる。
勝ち残ったら――この世界を、“怪物のいない世界”に創り変える」
二人は声を揃えて、言葉を捧げた。
「永氷の正義に、誓って」
蒼き炎が、一瞬、純白に変わる。
契約は、刻まれた。
そのとき――
夜空をひとつの星が裂いた。
南へ、まっすぐに。
その軌道は、黄金の王国を貫いていた。
――つづく。




