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仲間に裏切られたガチャ中毒の俺、異世界で無限召喚スキルを手に入れ、最強の軍勢で世界を征服する  作者: ジャクロの精霊


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北方の罠

***


北からの冷たい風が吹きつけ、金属と雨の匂いを運んできた。

半ば空いた酒場には、油ランプの灯りだけが揺れていた。

その片隅で、一人の男が三杯目の酒をゆっくりと飲んでいた。


その手はわずかに震えていたが、寒さのせいではない。

成功の余韻――アドレナリンの高鳴りによるものだった。


男の名は田中涼平。

乱れた黒髪、鋼のように冷たい灰色の瞳、そして滅多に見せない皮肉な笑み。

かつてハルトの仲間の一人だった――異世界に召喚された多くの一人。

だが、勇気で名を残したことはなかった。

唯一際立っていたのは、その特異なスキル:完全隠匿カンゼンイントク

存在を完全に消し、周囲に溶け込むその力で――涼平は多くの死をすり抜け、生き延びてきた。


数ヶ月前、彼を見つけたのは高峰悠人と鏡俊介だった。

彼らの提案に、涼平は迷わず頷いた。


「金と守り、そして目的を与えてやる」

静かな声で悠人は言った。

その隣で、俊介が剣を机に置きながら微笑む。

「欲しいのは情報と混乱だ。それだけでいい」


その言葉を、涼平は今も覚えている。

酒を口に含みながら、ぽつりとつぶやいた。


「混乱を撒け、か……楽な仕事だ」


虚ろな眼差しに浮かぶのは、傲慢と疲労の入り混じった光。

彼が望んだのは責任も命令もない、戦いのない人生――

今、それを手に入れていた。


酒場の主――灰色の前掛けをした老人が声をかけた。


「もうすぐ夜明けですよ、田中さん。そろそろお帰りでは?」

「もう一杯だけ」

涼平は気怠げに返した。

「これが最後って約束するよ」


老人は頷き、酒を取りに奥へと引っ込む。


そのとき、足音。

静かで柔らかなそれが、沈黙を破った。

黒いマントを纏った人物が隣に腰掛けた。

フードの下から、銀色の髪が肩に流れ落ちる。


涼平は横目で彼女を見た。

口元がわずかに歪む。


「ほう……ここらじゃ見ない美人だな」


女は静かに笑った。

その声は甘やかでありながら、不気味な何かを孕んでいた。


「酒の趣味がいいわね。その種類、飲める人は少ない」


「へぇ?」

涼平は瓶を掲げる。

「なら、共に一杯どうだ? 一人酒は好かなくてね」


彼女はゆっくりと頷く。


「もちろん。だって――それがあなたの最後の一杯になるかもしれないから」


涼平は笑った。


「俺の選択って、そんなにひどいか?」


「いいえ」

彼女は彼の耳元に近づき、囁く。


「ただ……あなたが選んだのは、間違った側だっただけ」


空気が変わった。

涼平の身体がこわばる。

北からの冷気が、割れた窓から忍び込む。


「……なんだと?」


彼女はまっすぐ彼を見つめた。

その瞳――氷のような蒼が、月の光を映していた。


「噂をばら撒いていたのは……あなたね」

「お、お前……誰だ……?」


女は微笑む。


「終わらせに来た者よ」


涼平は立ち上がろうとした。

だが、体が動かない。

酒の味が、変わっていた。


カップを見下ろし、そして理解する。


「……お前……毒を……」


女はゆっくりと立ち上がり、フードを脱いだ。


リラ・フロストベイン――氷の魔女。

月光のような髪が揺れ、手には氷晶が静かに形成されていく。


「安心して」

彼女は穏やかに笑う。


「苦しむことはないわ。ただ……永遠に眠るだけ」


氷は涼平の足元から胸へと広がり、

その顔に浮かぶのは、純然たる恐怖。


彼の最後の言葉は、かすかな囁きだった。


「……くそっ……ユウト……カガミ……」


リラは完全に氷に閉ざされた男の姿を見つめた。

それは完璧な彫像。

そして――ひとつの“警告”。


彼女は小さな宝石を取り出し、魔法の印を押して囁いた。


「――噂は消えました、ハルト様」


宝石が短く光り、声は彼へと届く。

そして彼女が指を鳴らすと、氷の彫像は音もなく、塵と化した。

遥か遠く、北方の雪原にて。


高峰悠人は、目の前に広げられた地図を静かに見つめていた。

その隣で、鏡俊介が剣をゆっくりと研いでいる。


「涼平からの連絡は?」と、鏡が尋ねた。

悠人は首を横に振る。

「何もない」


二人は視線を交わした。

沈黙――それが、すべてを物語っていた。


鏡はほろ苦く笑った。

「つまり……ハルトに知られたってことか」


悠人はため息をつく。

「ああ。

つまり、次の一手は……

こちらから仕掛けるしかないということだ」


地図の上、赤いインクで印された「黄金の王国」が不気味に光っていた。

その上には、手書きの矢印が北を指している。


「見えざる戦争が、始まる」


――つづく。


読んでくださり、ありがとうございます。もしよろしければ、コメントや評価、お気に入り登録などで応援していただけると嬉しいです。メキシコよりハグ、ありがとう。

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