黄金の継承
朝日の光が、城のステンドグラスを通して差し込み、
床を紅と金の色に染め上げていた。
広間の中央。
新たに集められた者たち――若き戦士、魔導士、探索者、
かつて敵であった者すらも、いまは跪いていた。
ハルトは玉座に腰を下ろし、穏やかな表情を浮かべていた。
「北は戦の備えを進めている」
その声は静かで、しかし芯があった。
「すべての嵐を、私ひとりで止めることはできない。
ゆえに…
“黄金の意志”を継ぐ者が必要だ。」
その傍らに立つのは、アウレリア、カオリ、マルガリータ、モモチ、リラ。
五人の指導者たちは目を交わし合い、
その沈黙を破ったのはカオリだった。
「では、それぞれが“継承者”を選ぶ時です。」
***
アウレリアが列の間をゆっくりと歩く。
金の髪が炎のように揺れ、銀の瞳は威厳に満ちていた。
彼女が立ち止まったのは、褐色の肌に静かな目を持つ少女の前。
「名を」
「セリナ。カエル王国の元騎士です。」
アウレリアは微笑んだ。
「君の炎は消えていない。ただ、形を変えただけ。
今日から君は、私の“小さき鱗”――
魂で呼吸し、気品で戦う術を学ぶ者。」
二人が手を伸ばすと、
その間に**“龍の印”**が燃え上がった。
***
カオリは柔らかな笑みを浮かべながら、
真剣な眼差しで候補者たちを見渡した。
彼女が選んだのは、短髪で蜂蜜色の瞳を持つ少女。
顔には確かな意志が刻まれていた。
「なぜここに?」
「癒やしたいんです。
…壊すためじゃなく。」
カオリはそっと頷いた。
「ならば、敵すら癒せる者になりなさい。
君の力は“黄金の太陽”を保つための均衡となる。
その名は――ナナ。共感の使者。」
二人の間に忠誠の印が輝き、温かな光が広がった。
***
マルガリータは鞭を肩にかけ、いたずらっぽく笑った。
「さあ、誰が“手を汚す”覚悟あるの?」
その問いに応えたのは、灰色の髪と深紅の目を持つ少女。
「私。血は怖くない。忘れられる方が怖い。」
マルガリータは愉快そうに笑った。
「気に入った。
今日から君は“リナ”。私の弟子。
影の中にも、誇りは宿るって教えてあげる。」
リナは挑戦的に笑った。
「じゃあ私は、“影にも牙がある”って教えてあげる。」
「いい子ね」とマルガリータは笑った。
***
モモチ。
仮面をつけた静かな忍。
彼女の前に現れたのは、小柄で紫の髪をした少女。
俯いたままのその子に、モモチは問いかける。
「存在を消す術、知ってる?」
「…誰も気づかない。私が何を言っても。」
モモチは仮面の下で笑った。
「ならば、最高の後継者。
世界が無視する者こそ、最強の武器。」
彼女は黒い帯をその腕に結んだ。
「名はカヨ。**静かなる刃**よ。」
***
弓の名手、リラ・フロストベイン。
彼女は濃紺の髪をした少女を見つめていた。
その手には、美しく調整された弓。
「狙いは悪くない」
リラが言う。
「でも…見えていないわ。」
「え?」
「君は“的”しか見ていない。
その奥にある“魂”を、まだ見ていない。」
リラは少女の弓を返しながら、こう続けた。
「それを学べば、私を超えられる。
君の名は――ミラ。
その“眼差し”が未来を決める。」
***
全員の継承が終わると、ハルトが立ち上がる。
その声が、城の広間に響いた。
「この日より、
君たちは“第二の夜明け”の継承者だ。
太陽は、戦う者だけのものではない。
それを継ぐ者こそ、真に守る者となる。
覚えておけ。
忠誠とは命令ではなく、育まれるものだ。」
五人の師たちは静かに頭を下げた。
「――はい、我が主。」
そしてハルトは、弟子たちを見渡す。
「君たちは学ぶことになる。
復讐は“形”を変えると、使命になるのだと。」
その瞬間――
広間は金色の光で満たされ、
天井へと昇っていく。
光はひとつの紋章となり、
**“新たなる黄金の誓い”**の象徴として刻まれた。
その夜――
五人の師たちは、塔の上から夜空を見上げていた。
リナは月光の下で鞭の軌道を描き、
ナナは誰にも気づかれぬように傷を癒やしていた。
カヨは影の中に溶け込み、
ミラは遠くの地平線に矢を構えていた。
セリナは掌に小さな炎を灯し、それを見つめて微笑んでいた。
カオリが、静かに口を開いた。
「きっと…すべてはこうして始まるのね。
ひとつの火花が、大きな太陽になる。」
アウレリアはゆっくりと頷いた。
「そして今度は――決して、消えはしない。」
黄金の王国は眠っていた。
だが、未来はもう――生まれていた。
――つづく。




