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仲間に裏切られたガチャ中毒の俺、異世界で無限召喚スキルを手に入れ、最強の軍勢で世界を征服する  作者: ジャクロの精霊


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北の反逆者

「氷は忘れぬ。ただ、待ち続けるのみ。」

――北氷の王国の古き諺


北風は、千の刃のような力で吹き荒れていた。

雪は重く降り積もり、忘れ去られた王国――エイルンヴァルトの廃墟を白く染めていく。

かつては魔法と叡智の中心地。

今はただ、過去の残響だけが応える静寂の地。


天宮悠翔は、分厚いマントに身を包み、吹雪の中を一歩一歩進んでいた。

その隣で、鏡大翔は止まることなく回り続ける魔法の羅針盤を手にしている。


「ここで…間違いないのか?」悠翔が問いかける。

「マナの流れが示している。

ここは“召喚の門”だった場所――

俺たちをこの世界に連れてきた、あの儀式と同じ系統の。」


二人が足を止めたのは、氷に閉ざされた古代の神殿。

その中央に、氷の台座の上に立つひとつの影。


白銀の髪。

紅の瞳。

月光のように白く冷たい肌。

手には、淡い光を放つ水晶の槍。


その人物は、ゆっくりと目を開けた。

周囲の空気は一瞬で凍てつき、張りつめる。


「……君たちも、あの世界の者か。」


その声は穏やかでありながら、芯のある鋭さを持っていた。


鏡が一歩前へ出る。

「君も“召喚された”のか?」

「そう。私は“B組”だった。

本儀式の前に分断されて…

でも、全員が生き残れたわけじゃない。」


彼女の視線は、舞い落ちる雪の中へと遠のいていく。


「私を呼び出した王国は、私に“氷の選ばれし者”と名を与えた。

彼らは私を鍛え、利用し…

戦争が終わったら、この地に封印しようとしたの。」


悠翔の拳が震える。

「…ふざけた連中だな…」


「死者を呪うのは意味がないわ」

セイラは淡く笑い、言った。

「彼らは、すでに代償を払った。」


彼女の吐息に合わせるように、雪が舞い、静かに渦を描く。

その言葉ひとつひとつに、女王の威厳と、囚われた者の哀しみが宿っていた。


一瞬、彼女の目に記憶が映る。


――日本の教室。

――笑い合う生徒たち。

――教室の隅に座る少女。

イヤホンを耳に入れたまま、誰とも話さない。


雪永セイラ、17歳。

成績は常に完璧。だが、誰とも関わらなかった。

家でも同じ。

仕事に忙殺される両親は、娘の声すら思い出せなかった。


ある日の放課後。

数人の生徒が、ひとりの少年――ハルトを嘲る声が聞こえた。

だがセイラは、ただ黙って俯いた。

助けなかった。

何も言わなかった。


――その沈黙が、今も彼女を追いかけてくる。


「だから…氷は私を選んだのかもしれないわ」

セイラは囁くように言う。

「痛みを抱えたまま、砕けずに生きることだけは得意だったから。」


***


神殿に戻り、セイラは静かに槍を掲げ、

氷の大地に突き立てた。


地面が振動し、

氷の下から、青白く輝く“地図”が浮かび上がる。


「南の諸国は、もう断片だらけ。

でも、北はまだ力を残している。

魔導士、追放者、傭兵たち…

皆、黄金の王国を憎んでる。」


悠翔は真剣な眼差しで彼女を見つめる。

「…君も、ハルトを倒したいのか?」


「違うわ」

セイラは小さく首を振る。


「私は、生き残ってほしいの。

ハルトが全てを手に入れたら――

この世界は、“完璧な均衡”の名のもとに凍りつく。」


鏡が頷く。

「…目的は一致している。

だが、理想だけでは足りない。

軍が必要だ。」


セイラは微笑む。


「それなら用意できるわ。

氷は――記憶だけでなく、“兵”も保存するの。」


彼女が手をかざすと、

氷の亀裂から人影が次々に現れる。


霜に包まれた戦士たち。

何百年も眠り続けた古の軍勢。

その目に宿るのは、澄んだ氷のような青い光。


氷の王国が、再び息を吹き返した。


***


その頃、黄金の王国。


ハルトは塔の上でマナの流れを見つめていた。

香織が静かに部屋へ入り、不安げな表情を浮かべる。


「…主よ。

北が――目を覚ましました。」


ハルトは目を細める。


「…ならば、均衡は“影”を選んだようだ。」


壁に寄りかかるアウレリアが問いかける。


「…迎え撃つの? それとも…」


「来させればいい。

氷は、火では溶けない。

だが――

“真実”なら砕ける。」

北風は南へと吹き抜けていた。


セイラ、悠翔、鏡の三人は、

地平線の彼方を見つめていた。

雲の隙間から、遥か遠く――

ハルトの王国が、黄金の光を放っていた。


「俺たちは、復讐のために戦うんじゃない」

鏡が静かに言う。

「膝をつく前の“自分たち”を――思い出すために戦うんだ。」


セイラは槍を回し、

地面に突き立てた。


「ならば……

始めましょう。“北の反逆”を。」


氷が、雷のような轟音とともに裂ける。

その下で――

無数の瞳が目を開けた。


――つづく。

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