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仲間に裏切られたガチャ中毒の俺、異世界で無限召喚スキルを手に入れ、最強の軍勢で世界を征服する  作者: ジャクロの精霊


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過去の残響

夜明けの光が、黄金の王宮をやさしく包んでいた。

中庭からは僧たちの詠唱が風に乗り、静かに響く。

ハルトはひとり、最も高いテラスに座り、遥かなる地平を見つめていた。


世界は彼の秩序のもとで眠っていたが、

彼の心は眠らなかった。

過去が、痛みとともに、あまりにも鮮明に戻ってくる。


カオリが静かに近づく。

「眠っていないのね?」

「……ああ」

視線を外さずに、ハルトは答える。

「彼らをどう“試す”か、考えていた。」


「戦いで?」とカオリ。

ハルトはゆっくり首を振る。

「力は剣で測れる。

だが、魂は……選択でしか測れない。」


目を閉じると、かつての声が脳裏に蘇る。


「なあ、ハルト。無視しとけよ。」


――17歳のナオヤ。人気者で、廊下ではいつも笑顔だった。

残酷ではなかった。ただ、卑怯だった。

いじめられていたハルトを見て見ぬふりをし、

「面倒ごとは嫌だ」と笑っていた。


《お前は、俺を助けたんじゃない。

ただ、自分の靴が汚れるのを避けただけだ。》


今、そのナオヤは罪悪感と尊敬の狭間で揺れている。

かつて見下していた男が、

築き上げた世界を否定できずにいる。


リンは悪人ではなかった。

頭の良い、明るく快活な少女だった。

でも、弱者をからかい、笑い、無関心でいた。

「冗談だよ」と言いながら。


《その笑い声は、俺にとって罰だった。

笑うたび、俺の尊厳は削られていった。》


今、彼女は畏れと敬意を混ぜた目でハルトを見る。

沈黙の中に、かつて見落とした力を見ている。


ユウトは剣道部の典型だった。

誇り高く、強者に従い、

弱者には見て見ぬふり。

「世の中はそういうものだ」と平然と言っていた。


《お前は強かったんじゃない。

ただ、強い奴の影に隠れていただけだ。》


今、彼は貧しい兵士たちを鍛えながら、

かつて見下していた者たちの姿を、

そこに見ている。


ミヤビは――

決してハルトを傷つけなかった。

だが、何も言わなかった。

すべてを見て、すべてを理解しながら、黙っていた。


《その沈黙が、一番痛かった。

“価値がない”と、黙って告げられたようで。》


それでもハルトは、彼女にはわずかな優しさを覚えていた。

彼女の“試練”は、罰ではない。贖いだ。

――かつて口にできなかった言葉と向き合う機会。


カガミは天才だった。

傍観者。分析者。

“いじめ”を社会構造と捉え、感情を持たずに語る。

ハルトが崖から落ちたとき――

彼は押さなかったが、止めもしなかった。


《お前は、俺を「実験」として見ていた。

「友」としてではなく。》


今、その彼は、冷静な論理でもってハルトを止めようとしている。

かつて、沈黙で破壊を正当化したように。


ハルトは目を開けた。

その瞳に、昇る太陽が映る。


カオリが、静かに問う。

「……彼らに、何をするつもり?」


ハルトはゆっくりと立ち上がった。

「彼らを、自分自身と向き合わせる。

剣ではなく――

彼らが否定してきた“真実”で。」


カオリが微笑む。

「もし、彼らがそれに負けたら?」


ハルトの声は静かだった。

「そのときは分かる。

彼らは変わってなどいなかったと。

そして――光を照らさぬ太陽は、消えるしかない。」



***


その夜。

月のない空の下、ハルトは静かに「しょくの間」に現れた。


大理石の長机の上に、五通の手紙を置く。

それぞれに刻まれた紋章は異なり、封蝋ふうろうはすべて黄金の光で封じられていた。


彼は一つひとつに、何かを語りかけるように視線を落とす。


「力では測れないものがある。

それは過去だ。」


「そして――その重さを背負える者だけが、未来を選べる。」


ハルトは最後の手紙に触れ、指先に魔力を灯す。


それは剣ではなく、問い。

裁きではなく、映し鏡。


火が静かに揺れ、やがて部屋は闇に包まれた。


その中で、彼の声だけが残る。


「過去は死なない。

ただ、裁かれる時を待っている。」


窓の外、南の風が吹く。

その風には、遠い記憶のざわめきが混じっていた。


そして、

再び世界は問われる。


――つづく。

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