表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仲間に裏切られたガチャ中毒の俺、異世界で無限召喚スキルを手に入れ、最強の軍勢で世界を征服する  作者: ジャクロの精霊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/311

黄金の視界

夜明けの光が、黄金の王国の城壁をやさしく包み込んでいた。


リン・カンザキは市場の通りを歩いていた。

市民たちは騒ぐことなく穏やかに物を売買し、

衛兵たちは年寄りの荷物を運び、

子どもたちは恐れることなく笑いながら走り回っていた。


「……こんなの、現実じゃない。」

リンは小さくつぶやいた。


彼女は幼い頃から権力を疑い、

“支配する者”を憎んできた。

だがここで見る権力は、

“押さえつける”のではなく――“導いて”いた。


若い衛兵が近づいてきた。

「旅の方? 何かお探しですか?」

リンは首を横に振る。

「……見てるだけ。」


衛兵は微笑んだ。

「なら、見ていくといいですよ。

――正義が、ちゃんと働いている場所を。」


その言葉に、リンは拳を強く握った。

「正義」――

それは他人の口から聞くたび、空虚に響く言葉だった。

けれど今は……なぜか胸に残った。


***


訓練場では、ユウト・アマミヤが兵士たちの稽古を見守っていた。


掛け声も罵声もない。

代わりにあったのは、整った動き、静かな集中、

そして、強き者が弱き者を導く姿。


自分がずっと夢見ていた――

“理想の軍”がそこにあった。


一人の隊長が彼に声をかける。

「君は……英雄、ユウト・アマミヤか?」


「昔はな。」

ユウトは答える。


「ここでは、“過去形”は必要ない。

力があるなら使い、ないなら学ぶ。それだけです。」


ユウトは困惑しながら尋ねる。

「……失敗しても、罰はないのか?」


「“失敗”そのものが罰ですよ。」

隊長は穏やかに笑った。

「そして、“学ぶ”ことこそがご褒美です。」


ユウトは視線を落とす。

かつての世界では、失敗は死に値した。

成功こそがすべてだった。


彼は、ふと気づく。

ハルトが築いたこの軍こそ――

かつて自分が望んでいた、

だが決して持てなかった未来だったのだ、と。


***


《太陽の神殿》は、静かだった。


豪華な祭壇もなければ、傲慢な神官もいない。

いるのは、治療をする医者と手伝うボランティアたち。

種族も身分も関係なく、等しく手を差し伸べていた。


ミヤビ・アサクラは、小さな少年の傷を包帯で巻いていた。

その様子を見ていた年配の女性がつぶやく。

「昔は、金持ちが先だったんですよ。

でも今は、みんな“太陽の下”で平等です。」


ミヤビはほほえんだ。だが胸の奥では、

微かな“罪悪感”が波のように広がっていた。


――もし彼が、これほどのものを築けたのなら。

果たして自分は、彼を“化け物”と呼ぶ資格があるのか。


その夜、彼女は日記帳にこう書いた。


正義に“白”も“黒”もない。

あるのは、見る者の心によって変わる“光”。


***


錬金術の塔では、カガミ・ヒロトが王国の技術を見つめていた。


研究室は市民に開放されていた。

学んでいるのは農民、女性、孤児たち――

かつて“教育の外”にいた者たちばかりだった。


一人の少年が、彼に魔力で熱を生むタブレットを見せた。

「これで、貧しい家にも暖かさを届けられるんです。

ハルト様は言いました。

“思いやりのない科学は、知恵とは呼ばない”って。」


カガミは目を閉じた。


彼の錬金術は、

氷を操ること――“支配”のために生まれたものだった。

だがここでは、

“命を温めるため”に使われていた。


夜の帳が下りる中、彼はつぶやく。


「……彼が築いているのは“帝国”ではない。

未来だ。」


***


ナオヤ・テンドウは、庭園の中央に立っていた。

そこには、顔のない男が松明を掲げる石像があった。


その台座には、こう刻まれていた。


「忘れられた者が、皆の必要とする炎を灯した。」


ナオヤは長くその場を動けなかった。

風がコートを揺らし、

彼の中にあった誇りと後悔の境界が――揺らぎ始めていた。


遠くから、一人の少年が近づいてきた。


「君、ハルト様の友達?」


「……昔はな。」


少年はにっこりと笑った。


「だったら伝えて。

“ありがとう”って。

光をくれて、ありがとうって。」


ナオヤは動けなかった。


その少年は、笑いながら走り去っていった。

――自分がかつて、見捨てたはずの“救世主”を、今は英雄として慕う民の一人として。


その事実だけが、

彼の心を――静かに、深く、刺した。


***

七日が過ぎた朝――

かつて対峙したあの《エクリプスの間》に、彼らは再び集まっていた。


誰一人、言葉を発さなかった。


リンは弓を握りしめ、

ユウトは視線を床に落とし、

ミヤビは声もなく涙を流し、

カガミはただ、静かに天井を見上げていた。


ハルトは、何も言わずに彼らを見つめていた。

そのまなざしには、勝者の誇りも、赦しの慈悲もない。

ただ、沈黙の真実があった。


最初に口を開いたのは、ナオヤだった。


「……ハルト。

お前が神なのか、それとも“この世界の間違い”なのか……正直、まだ分からない。

でも一つだけ、確かに言えることがある。」


彼は、ゆっくりと言葉を続けた。


「お前が築いたものを――

俺は、もう“壊せない”。」


ハルトは、ゆっくりと玉座から立ち上がった。


「ならば、理解したのだな。

私は征服者ではない。

私は、“修正者”だ。」


誰も否定しなかった。


黄金の王国は、彼らと共に息をしていた。


そして、玉座の背後から差し込む朝日が、

ハルトの影を壁一面に広げる。


その瞬間、誰もが心の奥で、しかし決して口に出すことのない思いを抱いた。


――“止めるべき”と誓ったこの“敵”こそが――

自分たちには決して築けなかった“理想”を、

すでにこの手で実現していたのだ、と。


――つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ