失われた絆
西の砂漠の奥深く、風が誰も覚えていない名前を歌う場所に、朽ち果てた古い要塞が疲れ切った者たちの避難所となっていた。
彼らは兵士でも盗賊でもなかった。
彼らはかつての3年B組の最後に召喚された英雄たちだった。
埃まみれの広間では松明がパチパチと音を立てていた。
壊れた鎧と汚れたマントが、もはや彼らの栄光が輝いていないことを物語っていた。
天童ナオヤは地図で覆われた机にもたれながら先頭に立っていた。
かつて整っていた黒髪は、今や影のように目元に垂れている。
「三つの王国が……」彼は低く言った。「半年も経たずに滅ぼされた。
誰も、それが何なのか、誰なのかすら分かっていない。」
グループの弓使い、神崎リンが腕を組んだ。
赤い髪は三つ編みにまとめられ、鋭い眼差しが光っていた。
「“黄金の太陽”。そう呼ばれてる。国も旗も持たない、姿なき軍隊……けれど一つの声を持っている。」
「魔族の仕業だと思うか?」と、剣士の雨宮ユウトが尋ねた。
彼は焦るように剣を磨いていた。
「レイナ、アヤカ、サトル……みんな倒されたか、行方不明になった。」
ナオヤは首を横に振った。
「魔族じゃない。これは……人間だ。冷たく、計算された動き。
奴は俺たちの戦術を知っている。弱点も。」
重苦しい沈黙が場を包んだ。
その沈黙を破ったのは、震える声の癒し手・朝倉ミヤビだった。
「もしかしたら……私たちの中の誰かかもしれない。」
皆が信じられないという目で彼女を見た。
リンが机を叩いた。
「馬鹿なこと言わないで!クラスの誰かがそんなことするわけない!」
だが、ナオヤは何も言わなかった。
彼の脳裏にはあの日の記憶がよみがえっていた……
森、崖、助けを求めるハルトの絶望、そして逃げた自分たち。
罪悪感が胸を刺した。
その夜、皆が眠る中、ナオヤは外へ出た。
砂漠の風が強く吹き抜ける。
遠くには、雲さえ照らすほどの黄金の輝きが見えた――成長を続ける王国の光。
「ハルト……」彼はつぶやいた。「お前じゃないはずだ。」
だが、長年無視してきた内なる声が返した。
「お前は彼を見捨てた。もし彼が生きているなら……それはお前を罰するためだ。」
ナオヤは拳を握りしめた。
だが、砂漠は何も答えなかった。
翌日、英雄たちは広間に集まった。
ナオヤは斥候たちが持ち帰った報告書を広げた――遺跡に残る金色の紋章、浄化された村々、そして目撃者たちが語る、炎のような目を持つ名もなき男の話。
リン:「じゃあ、どうする?待つ?逃げる?」
ナオヤ:「いや。何もしなければ、“執行者”が大陸全土を手に入れる。
残っている仲間を探しに行く。」
ミヤビ:「誰を?」
ナオヤ:「俺、お前、リン、ユウト……それに北の氷山地帯に住む錬金術師、鏡ヒロト。
もし生きていれば、力になってくれるはずだ。」
リンはため息をついた。
「もし全部無駄だったら?」
ナオヤはこれまでとは違う決意の眼で彼女を見た。
「分からない。だが、何もしなければ、あの黄金の炎に焼かれる。」
その夜、出発の準備が進む中、一人の旅人が要塞に現れた。
灰色のマントをまとい、警備兵の間を恐れもせず進んだ。
「伝言を持ってきた。」と彼は言い、金色の封蝋で封じられた封筒を差し出した。
ナオヤがそれを受け取った。
その印は見間違えようがなかった――剣で分断された太陽の紋章。
中には冷たく優雅な筆跡の手紙があった。
「かつての仲間たちへ:
復讐ではない。求めるのは均衡。
俺たちが守ると誓った世界は偽りだった。そして君たちはそれを知っていた。
まだ何か守る価値があると思うなら、逃げるな。
集まれ。
最後に一度だけ、君たちの目を見て、運命を決めたい。
—H.A.」
沈黙が落ちた。それはまるで死の宣告のようだった。
リンは弓を落とし、ミヤビは手で口を覆いながら後ずさった。
ユウトがかすかに呟いた。
「……ハルト。」
ナオヤは手紙を握りしめ、くしゃくしゃにした。
「これで……もう疑いはない。
俺たちの敵は……過去だ。」
翌朝、四人の英雄たちは避難所を後にした。
砂の上に彼らの影が長く伸びていた。
誰も口を開かない。
ただ風だけが、彼らの足を北へと運んでいた。
世界は変わっていた。
王たちは震えていた。
そしてかつて希望の象徴だった英雄たちは、今や仲間だった者との戦いに向かっていた。
黄金の王国の塔で、相沢ハルトは静かに地平線を見つめていた。
「ついに来るか……」と彼はつぶやいた。
その隣で立っていたカオリが微笑んだ。
「昔の仲間たち?」
「そうだ。」
ハルトは金と炎の指輪をくるりと回した。
「ならば――目覚めの遅さがどういうことか、教えてやろう。」
黄金の太陽が砂漠に昇る。
そしてそれと共に、世界の戦争の本当の始まりが告げられた。
――つづく。




