黄金の再生
エルタリア王国は、もはや過去の姿ではなかった。
かつて廃墟と恐怖に覆われていた地には、今や槌の音、車輪の軋み、そして人々の声が満ちていた。
黄金の太陽の旗が城壁に掲げられていたが、それは征服の印ではなく──約束の象徴として。
ハルトは護衛もつけず、民の中を歩いていた。
黒いマントの縁に金の刺繍。腰には飾り気のない剣一本。
彼の傍には、カオリ、アウレリア、マルガリータが並び、民が恐れではなく敬意を持って頭を垂れるのを見守っていた。
一人の老婆が杖をつきながら、ゆっくりと彼に近づいた。
「あなたが…新しい王なのかい?」
かすれた声で尋ねた。
ハルトはわずかに微笑んだ。
「いいえ。私は王の嘘を清める者です。」
老婆は静かに頭を下げた。
「ならば、すべての嘘を拭っておくれ。
もう、偽りの約束はたくさんだよ。」
ハルトは跪き、老婆の目を見つめて言った。
「約束はしません。結果を見せます。
今日から──この王国の子供は、誰一人として飢えさせない。
そして民から盗む者は……金以上の代償を払うことになる。」
民衆の間にざわめきが広がった。
耳にしたのは演説ではない──決断だった。
***
数日後、ハルトは王宮の大広間にて、特別な集会を開いた。
貴族たちは震えながら席に着かされた。
その隣には、商人、職人、兵士たち。
身分を問わぬ席順だった。
「今日より──」
ハルトはすべての前で宣言した。
「力は継がれない。証明されるものだ。
各地区は代表者を選出し、
お前たちが民から奪った金は──
宮殿ではなく、“学校”を建てるために使う。」
一人の貴族が激昂し、立ち上がった。
「こんなのは専制政治だ!
我々から“正当な”財産を奪うのか!」
ハルトは動かず、静かにその男を見つめた。
「違う。
私は“お前が本来持つべきでなかったもの”を取り上げているだけだ。」
カオリが一歩前に出て、巻物を広げた。
「偽装された税記録と賄賂の証拠を調査済み。
すべての加害者は、公開の場で裁かれます。
民が──その運命を決めるのです。」
アウレリアは冷たい笑みを浮かべて言った。
「もし逃げようとする者がいれば……
空に祈っても無駄よ。」
貴族はその場に崩れ落ち、
他の者たちは沈黙した。
***
その後の数ヶ月で、王国は変貌した。
荒れた畑は再び耕され、
孤児たちは再建された神殿に迎え入れられ、
目的を失った兵たちは、民を守る者となった。
人々は“黄金の王国”について語り始めた。
恐怖の帝国ではなく──
“正義”が機能する地として。
ある日、一人の子供がハルトに花を差し出して言った。
「お母さんが言ってた。
あなたが“春”を運んできたって。」
ハルトは花を受け取り、穏やかに答えた。
「春を運んだのではない。
“冬”を取り除いただけだ。」
***
その夜、宮殿の塔で、
カオリは地図の上に筆を走らせるハルトを見つめていた。
「あなたは、本当にこの世界を変えたいの?
それとも…ただ“支配”したいだけ?」
ハルトは顔を上げた。
火の光に映るその瞳は、静かで、どこか疲れていた。
「支配は結果にすぎない。
“変革”こそが、私の目的だ。」
カオリは静かに微笑んだ。
「ならば…これから来る者たちは、あなたを理解できないわ。」
ハルトは答えた。
「理解される必要はない。
私が開いた道を──“歩む”だけでいい。」
外の空には、金色の雲がゆっくりと広がっていた。
まるで、世界そのものが“新たな何か”の誕生を認めているかのように。
だが──
遠き国境では、噂が渦巻いていた。
エルタリアの変貌を恐れ、
他国は震え、
ある者はハルトを“暴君”と呼び、
またある者は“預言者”と呼んだ。
そして、砂漠の大地──
灰色の瞳を持つ男、天道ナオヤは、北を見つめていた。
その瞳には、憎しみと…疑念が入り混じっていた。
「もしアイツが本当に世界を変えたのなら……
俺は…何なんだ……?」
黄金の太陽はなおも輝いていた。
そしてその光と共に──
第二幕が始まる。
──拡張。
――つづく。
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