異界の生存者
巻物に記された啓示に、ハルトは胸が詰まった。
エルフの賢者は羊皮紙を巻き上げ、丁寧に片付けた。
「ハルト…もう一つある。
日本の書記官の名前を解析してわかったことがある。」
ハルトは眉をひそめた。
「何だ?」
セリンドラは緊張した表情で前に出た。
「その名前…月原帝…
別の古文書に記されている。
我々の言語に翻訳されたものだ。」
アストラ・ノクスは別の写本を手に取った。
彼女はそれを読みながら、震える声を上げた。
「蝕の子らは三人いた。
一人は放浪の帝。
もう一人は堕ちた戦士。
そして最後は…太陽に選ばれし者。」
ハルトは歯を食いしばった。
「三人…?
つまり…私もその一人?」
アストラは唾を飲み込んだ。
「ええ。」そして残りの二人は…あなたと同じように、日本から連れてこられた人間でした。
部屋は緊張に包まれた。
香織は驚き、唇に手を当てた。
マルガリータは息子を強く抱きしめた。
オーレリアは妊娠していることを気にしながら一歩後ずさりした。
ハルトは前に出た。
「残りの二人は…誰だ?」
エルフの賢者は深呼吸をした。
「石の破片に刻まれた名前も見つかりました。
この世界に属さない人間の名前です。」
死のような沈黙が訪れた。
セリンドラが口を開くまで。
「名前は…葉山克郎と小町麗奈です。」
ハルトは胸が締め付けられるような痛みを感じた。
克郎。
高校時代のライバル。
いつも彼を辱めてきた男。
天賦の才と美貌、そして傲慢さを持つ者。
小町レイナ。
人気者。
彼を無視してきた者。いつも楽々と目立つことを夢見ていた者。
香織は囁いた。
「彼女らは…君の仲間だったのか?」
ハルトはゆっくりと頷いた。
「ええ。
でも…召喚の際に死んだと思っていたんです。
私と一緒に現れたことは一度もありません。」
アストラは続けた。
「巻物には、彼女らが別の場所に現れたと記されています。
でも、あなたとは違って…彼女らは蝕神の契約を自ら受け入れたのです。」
ハルトは怒りに目を閉じた。
「力のため?」
セリンドラは答えた。
「力のため…そして復讐のため。
文書によると、神は彼女らに支配できる世界を与えたそうです。
彼女らは何も疑問を持たずに受け入れたのです。」
香織は身震いした。
「つまり…彼女らは今や敵同士なのですね。」
エルフの賢者は頷いた。
「カツロは新たな『堕ちた戦士』…一種のエクリプスのチャンピオンではないかと疑っている。」そして、クイーン・コマチは影の軍勢を率いる『虚空の預言者』である。
ハルトは深呼吸をした。
「そして、もし彼らがその力を受け入れたなら…遅かれ早かれ、彼らは私を襲うだろう。」
アストラは真剣な面持ちでハルトを見た。
「あなたのためだけではない。
あなたの家族のために。
あなたの子供たちのために。
この世界全体のために。」
ハルトは目を開けた。
もはや疑いはなかった。
もはや恐怖はなかった。
もはや混乱はなかった。
あるのは決意だけだった。
「カツロ…クイーン…
もし彼らがその闇の道を選んだなら…
彼らもまた、その結果に向き合わなければならない。」
オーレリアが近づき、彼の腕を取った。
「ハルト…
彼らを殺さなければならないのか?」
ハルトは悲しげながらも決意に満ちた表情で視線を落とした。
「もし彼らが裏切り者ならば…
もし彼らがエクリプスに加わることを選んだならば…
そして、今や私の故郷となったこの世界を脅かすならば…」
彼は視線を上げた。その瞳には黄金の炎が燃えていた。
「ならば、そうだ。
私は彼らを滅ぼさなければならない。
そして、私はそうする…ためらうことなく。」
ミラージュは誇らしげに微笑んだ。
フロストレインは武器を握りしめた。
香織、マルガリータ、そしてオーレリアは、ハルトを静かに抱きしめた。
ネフェルラが背後から呟いた。
「太陽に選ばれし者よ、これがお前の運命だ。」
アストラ・ノックスは目を閉じた。
「日食はもはや怪物だけを送り込むのではない。
間もなく勇者も送り込むだろう。
そしてその日が来る前に…ハルトはかつての仲間たちと戦う準備をしなければならない。」
ハルトは背を向けた。
「何が起ころうとも、来い。
準備はできている。」




