崩壊前夜
***
三日間、雨は止まなかった。
エルセアス城の上空に、雷鳴が裁きの太鼓のように轟き続けていた。
かつて希望の象徴だった王国は、今や崖っぷちに立たされている。
二人の英雄が、すでに倒れた。
緋の騎士・レンジは、いまだ謎の残る戦死を遂げ――
そして、光の継承者・カイトは、跡形もなく姿を消した。
今残されているのは、三人だけだった。
レイナ・月城。星川サトル。そして藤森アヤカ。
そして彼らと共にあるのは、王国の最後の防衛線。
■ 王の評議
大広間は、香と恐れの香りに包まれていた。
老いた顔とかすれた声を持つ王アルドレン四世は、臣下たちの叫びに耳を傾けていた。
「陛下!民は答えを求めております!英雄が二人も失われたのです!」
「軍の中では、神々が我らを見放したとの噂が広がっております!」
「寺院すら、陛下ではなく“黄金の太陽”に祈っているのです!」
王は立ち上がり、震える手で王冠を握りしめた。
「“黄金の太陽”など存在しない!」
彼は怒りの声で叫んだ。
「反逆者が作り出した冒涜だ!」
誰も返答できなかった。
ただ一人、年老いた側近が震える声で言った。
「陛下…その名が広まれば、軍でも信仰でも抑えることはできませぬ…」
王は目を閉じた。
それが真実であることを、知っていた。
■ 三人の邂逅
戦略の間には、もはや三人しか残っていなかった。
王国地図の前に立つ、三つの影。
青黒い法衣と紅玉の首飾りをまとうレイナ・月城は、片手に宝珠を握っていた。
星川サトル――聖職者の彼は、視線を地面に落とし、自らの罪に耐えられぬようだった。
そして藤森アヤカ。アイドルの彼女は、緊張感などないかのように水晶のマイクをくるくると回していた。
「最初にレンジが死に、次にカイトが消えた。」
冷たい声で、レイナが言った。
「そして今、我々はまるで罪人のように呼び出されている。」
「もしかすると…我々は、罪人なのかもしれません…」
サトルがささやいた。
「神の裁きは、もう始まっているのかも…」
レイナはその言葉に軽蔑の眼差しを向けた。
「神の裁きなんてものはない。ただ…勝者と、死体があるだけ。」
アヤカはからっぽの笑い声をもらした。
「詩的ね。けど、こんな口論を続けてたら、次の死体は私たちよ。」
レイナが指を鳴らすと、宝珠が金色の映像を空中に映し出した。
王国の各地に現れた、黄金の光を放つ印――
“黄金の太陽”の印だった。
「これが現れたのは、カイトが消えたその日よ。」
「この印を操る者…英雄ひとりを消し去るほどの力を持っている。」
サトルが震えながら言った。
「まさか…ハルト・藍沢…?」
レイナは頷いた。
「その通り。“黄金の魔導士”。三年前、評議会が裏切った男。
生きているなら、救いなど求めていない。彼が求めているのは――裁き。」
■ 王と失われた信仰
その頃、城の別の部屋では、王が空の寺院を窓から見つめていた。
祈りの声は夜ごとに薄れていき、今や僧たちでさえ王の力を信じていなかった。
一人の女神官が王の前に跪く。
「陛下…人々は金の印、教会に属さぬ奇跡について語っています。」
王は拳を握りしめた。
「ならば嘘をつけ!それは悪魔だ、偽りの神だ、何でもいい!
だが…奴らには“私”を信じさせろ!」
神官は悲しげに王を見つめた。
「信仰は命令ではございません、陛下。得るものであって、強いるものでは…」
彼女が去ったあと、王は玉座に崩れ落ちた。
王冠が頭から滑り落ち、鈍い音を立てて床に転がった。
「レンジ…カイト…
なぜだ…なぜ私を見捨てた…?」
■ 見えざる亀裂
その夜、北の塔で再び三人は集まっていた。
だが今や空気は、息が詰まるほどに重かった。
「ハルトを討つべきよ。」
レイナが言う。
「全力を結集して、始末するしかない。」
「でも…ハルトが破壊ではなく、救いを求めていたら…?」
サトルが震える声で言った。
「もしかしたら、彼は我々を“救おう”としているのかもしれない…」
レイナが冷たく睨んだ。
「英雄は救われるんじゃない。“犠牲”になるのよ。忘れないで。」
壁に寄りかかっていたアヤカが、皮肉めいた笑いをこぼす。
「私は歌うだけよ。客席が死人でも、幽霊たちに歌うまで。」
そのとき、レイナの宝珠が青く光り出した。
その中に、炎の野原に立つ黄金の影――ハルトの姿が映った。
彼は何も語らなかった。
だが、その目は――彼らをまっすぐに見つめていた。
宝珠にひびが入り、一つの言葉が彼らの心に響いた。
「――すぐに。」
■ 終章 ― 崩れゆく王国
寺院では、僧たちが香を焚きながら赦しを乞い、
街では兵士たちが“黄金の太陽”の名を囁き合い――
そして城では、王が叶わぬ奇跡を祈っていた。
遠く雪の積もる山頂で、藍沢ハルトは王国の灯を見つめていた。
その隣には、カオリとアウレリアが控えていた。
「王座は揺らぎ、民は疑い、英雄たちは裂け始めている。」
ハルトは静かに言った。
「あと一押しで――すべてが崩れる。」
カオリがほほ笑む。
「最初に落ちるのは、誰ですか? 師匠。」
ハルトは空を見上げた。
その瞳に映る金の輝きが、闇を裂いた。
「恐怖で服従を買おうとする者だ。
――レイナ・月城だ。」
――つづく。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
二人の勇者の死と失踪により、王国は完全な崩壊の縁に立っています。
次章では、「第二の審判」が始まり、レイナ・ツキシロがハルトの策略によって裁かれます。
物語はいよいよ最大の転換点に突入します。
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