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仲間に裏切られたガチャ中毒の俺、異世界で無限召喚スキルを手に入れ、最強の軍勢で世界を征服する  作者: ジャクロの精霊


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闇の中の響き

夜が南方王国を重く覆った。

その中心、宮殿の大舞台にて、藤森アヤカは人生最大の“リハーサル”に備えていた。

それは拍手を求める公演ではない——精神を崩壊させる、完璧な“作戦”だった。


カーテンの裏、舞台袖では幻術師リラ・ヴァルティエンヌが待っていた。

燭台の灯りに反射して、彼女の衣装がきらめき、マゼンタの瞳には——

不可能な奇術に挑む者特有の、緊張と歓喜が宿っていた。


—「群衆は音楽に導かれて外へ出る。慰めを求めるようにね。」

リラは杖の宝石を調律しながら囁く。

—「私は幕を引く。あなたは歌う。そして“恐れ”に形を与える。」


アヤカの唇に、冷たく計算された笑みが浮かぶ。

—「これは“神罰”。

 世界が壊れる音を、彼らに“信じさせて”あげましょう。」


その頃、首都を囲む森では——

ハルトが計画の最終調整を行っていた。

カオリは感覚を研ぎ澄まし、モモチは侵入経路を確認していた。


アヤカが使うのは“歌”だけではない。

リラ・ヴァルティエンヌの幻術は、演出を超えて“現実”をねじ曲げる力を持つ。


幻術の開幕。


第一音が響く前から、リラの仕事は始まっていた。

広場を囲むように浮遊する、小さなプリズム型の魔導鏡。

誰も気づかない——まるで装飾灯のように見える。


だが、それぞれが密かに幻影を投射していた。

仮面の群衆、ありえない場所に現れる人影、二重に見える影。

現実に溶け込んだ“狂い”が、人々の感覚を徐々に侵していく。


そしてアヤカの歌声が始まった瞬間——

その旋律は、感情を操るだけでなく、

記憶そのものに干渉し始める。


リラの宝石が特定の波動を増幅させ、

聴衆の中に眠っていた歪んだ記憶を浮上させる。

——子供が消えたと嘆く母。

——崩壊した家族を見たと語る男。

それが夢だったのか、現実だったのか、誰にも分からない。


—「顔は見せないように」

リラがささやく。

—「記憶には“仮面”をかぶせる。

 人々の目は幽霊を追い、実在を疑うようになる。」


追撃として、屋根やバルコニーを光る霧が覆う。

それにより攻撃者は“存在しない”ものとなり、

監視用の魔法鏡には、ぼやけた影しか映らない。


——誰が、どこから来たのか。

分からない。

分からせない。


その夜、人々はこの事件をこう名付けることになる。

《亡霊のナイト・オブ・ファントム


街は壊れ始めた。


最初は、一斉に起きた“慟哭”。

次に、突然の沈黙。

そして、抑圧された“集団ヒステリー”が、秒単位でパニックへと変わった。


商人たちは屋台を閉じ、

家族は家へと駆け込み、

兵士たちは命令を聞きながらも、

——“耳の奥”にリラの幻聴を聞いていた。

「……守れないよ……」


アヤカの歌声は転調する。

癒しの調べから、

破壊の旋律へ。


冷たく、鋭く、

人々の心に「世界が壊れる感覚」を直接注ぎ込む。


レイナの精神支配網が反応し、修復を試みる。

だがそのたびに、新たな疑念が発生する。

青い糸が、確かに“きしんで”いた。


その裏で動いていたのは、モモチとカオリ。


街が混乱し、霧と恐怖で覆われたその瞬間。

モモチは音もなく動いた。


彼女の標的は、王国に張り巡らされた《制御ルーン》。

庭、柱、ステンドグラス——

その全てに魔力の“結節点”がある。


モモチはそれを破壊するのではなく、

外す。

“構造”をあえて露出させ、民衆の心に届くようにする。


一方で、カオリは“目覚めた者たち”と触れ合っていた。

老人の手を握り、

共鳴を通して“自己”の感覚を返していく。

そのわずかな時間——

その人は、“なぜ自分が笑っていたのか”に疑問を抱く。


モモチが構造を見せ、

カオリが“心”に響かせる。

そしてリラが幻想を揺らす。


三者の連携が、「支配」にヒビを入れていく。


夜明けと共に現れた、

“可視化された真実”。


霧が晴れ、歌が止んだ後、

街のあちこちに白い布が貼られていた。

そこには、赤い墨で書かれた“言葉”があった。


—「その幸福は、お前のものか?」

—「感情は、誰の手にある?」

—「私たちは、人形ではない。」


誰が書いたのか分からない。

だが、人々は声に出して読み上げた。

それは、自分の胸に眠っていた疑念そのものだった。


宮殿。

レイナは鏡の前に立ち尽くしていた。

彼女の目に映るのは、もはや従順ではなかった。


侍女たちは目を伏せ、

衛兵たちは言い争い、

そして、広場にいた老婦人が、まっすぐ見上げてこう言った。


—「なぜ……私は夫のことを、忘れさせられたの?」


その問いが、鏡にぶつかる。

答えは、なかった。


アヤカとリラが成し遂げたのは、

勝利ではない。

**“脆さの顕現”**だった。


遠く山の洞窟。

ハルトは静かに目を閉じていた。

そのマナは、確実に強くなっていた。


恐怖の崩壊。

真実の芽生え。

記憶の解放。

——それらすべてが、王のガチャの核を震わせていた。


—「……効いている。」

彼は呟いた。

—「疑念一つで、支配の糸は崩れていく。」


アウレリアが崖の上から状況を見守りながら言う。

—「……あの女王、軽くは済まさないわ。」


—「分かってる。だが……もう彼女は感じている。

 それだけで、世界は変わる。」


数日後。

都市では会話が戻っていた。

市場での小さな言い争い。

酒場での議論。

神殿での“沈黙”。


それらすべてが——

支配ではなく、思考の兆し。


リラは森の中から最後の幻を送り、

ハルトに囁いた。


—「剣で倒すのではなく、

 人々に“見る力”を教えるのよ。

 それが……彼らを壊す一番の方法。」


ハルトは頷く。

—「なら、俺たちは“その目”を灯し続けよう。」


戦いはもはや、剣だけのものではない。

それは——

一人ひとりの心にある“真実”との戦いだった。


――つづく。

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