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君を追いかける

 待ち合わせの時間を一時間過ぎても美依奈さんはやってこなかった。

 どうしたのだろう?

 遅れることは多くてもこんなに遅くなることは珍しい。


『忙しいのかな?ずっと待ってるから慌てずに来てね』

 そうメッセージを送ると五分後に返信が届いた。


『ごめん。ムリ。一人で帰って』


 短く、理由も書かれていないメッセージだ。

 それを僕は寂しい気持ちでしばらく眺めていた。


 仕方ない。

 本当の彼氏じゃないんだから、毎日一緒に帰ろうと誘えばウザがられるのも当然だ。


 無理やり笑って一人で駅に向かう。

 美依奈さんのことを考えると胸が痛むので、先ほどの母さんとの電話を思い出す。


 もう転勤はないと言っていた父さんが急に転勤することになった。

 正確には転勤じゃなくて長期出張らしいが、一年以上行かなければならないというんだからほぼ転勤と同じだ。

 ただ僕たちはもちろん一緒に行かなくていいというのは嬉しかった。

 単身赴任というやつだ。


 もっとも引っ越しといわれても僕はついていくつもりはなかった。

 せっかくチバと再会出来たのだからもう離ればなれになりたくない。

 どこにもいかないとも約束もした。

 家族と離れて一人暮らししてでも引っ越しはしないと決めていた。




 翌朝、登校するとすぐに美依奈さんの席に向かう。


「おはよう」

「……おはよ」


 美依奈さんは僕の目も見ず、独り言のように呟いた。

 見ると顔色が悪く、目もなんだか腫れている。

 具合が悪いのだろうか。


「大丈夫?」

「なにが?」

「具合悪そうだよ?」

「関係ないでしょ」

「関係なくないだろ?」

「放っておいて」


 冷たく突き放され、胸の奥が締め付けられる痛みを感じた。

 しばらく美依奈さんの顔を見詰めていたが、僕の視線から逃れるように机に顔を突っ伏して眠い振りでかわされてしまった。




 昼休みになると美依奈さんはすぐに教室から出ていってしまった。

 僕もすぐに教室を出て、彼女の分のお弁当も持って探した。

 二人でよくお弁当を食べたベンチ。

 桧山くんから守ったごみ捨て場。

 告白をされた化学室。

 はじめのころ二人でお弁当食べた使われてない部室(ぶしつ)

 どこにも美依奈さんはいなかった。


 こんなわずかな間でも僕と美依奈さんにはたくさんの思い出の場所が出来たんだと周りながら感じていた。

 時計を見るともう昼休みも終わりかけていた。


 そっか。遂にこのときが来てしまったんだ。


 乾いた笑いが口からこぼれた。


 ウソ告白の終わり。

 ニセ彼氏終了のお知らせだ。


「そっか……そうだった……忘れてたよ……ははは……」


 椅子の背もたれに身を預けて天井を見上げて笑う。


「僕は彼氏じゃなかった。ニセ彼氏だった。すっかり忘れてた」


 なんにもおかしくないのに笑いがこみ上げてくる。

 喉が痙攣し、顔の筋肉が引き攣った。


「バカだなぁ……分かってたことじゃないか……今さらなに嘆いてるんだよ」


 頬に熱い涙が伝い、慌てて目を擦る。

 泣く権利なんて僕にはない。

 僕が引っ越すと言ったあの日、チバは一日中泣いていた。

 あんなひどいことを僕はしたんだ。

 五年の歳月が過ぎ、いま僕はその報いを受けている。

 あのときのチバの、美依奈さんの気持ちを思えば僕の悲しみなんて取るに足らないちっぽけなものだ。


 洗面所で顔を洗ってから教室へと戻る。

 室内はなにやらざわついていた。

 僕が教室に入ると羽衣さんが駆け寄ってきた。


「美依奈と喧嘩したの?」

「え? いや、別に……」

「なんかさっき鞄持って教室から出ていっちゃったの」

「え?」

「早く追いかけてあげて!」

「でも……」


 僕なんかが行けば余計迷惑がられるだけなんじゃないだろうか?


「しっかりして! 優太、彼氏でしょ!」

「う、うん! そうだ。そうだね。ありがとう!」

「センセーには適当に言い訳しとくから!」

「分かった!ありがとう!」


 美依奈さんのあとを追い、僕も教室を飛び出した。


 そうだ。

 ニセモノでも僕は彼氏だ。

 美依奈さんになにがあったのか知らないが、困っているのは間違いない。

 僕が助けなくてどうする!

 迷惑がられてもいい。

 感謝なんてされなくていい。

 美依奈さんのためなら、僕はなんだって出来る!

 だって僕は美依奈さんが好きだから。

 大好きなのだから!



 勢いよく学校を出て駅へと向かう。

 しかし美依奈さんの姿はどこにもない。

 駅前の店を探しても見付からず、スマホに連絡してももちろん応答はなかった。


 もしかしたら家に帰っているのかもしれない。

 そんな望みで美依奈さんの家へと向かった。

 しかしいくらインターフォンを押しても返答はなかった。


 居留守を使っているのか、それとも家にいないのか?

 マンションの窓を見上げ、しばらく観察したがカーテンが動く気配すらなかった。


「あ、もしかして……」


 予感を胸に走り出す。

 普段走り慣れてないから足が縺れて転んでしまう。

 もたもたしている場合じゃない!


 膝が破れて血が滲んでいたけど構わずに走り続けた。

 向かったのは未来を約束した、てんとう虫の遊具があるあの公園だ。


「ハァハァハァハァ……」


 休まずに走ったから、恥ずかしいくらい息が切れている。

 公園に入ると僕の予想通り、美依奈さんはそこにいた。


「美依奈さん……」

「ゆ、優太っ!? なんで……」


 顔を上げた美依奈さんの瞳は涙で濡れていた。


「どうしたの? なにがあったのか、話してくれないか」

「来ないで!」


 美依奈さんはベンチから立ち上がり、逃げようとした。


「待って! 行かないで!」


 カラカラの喉で叫ぶと美依奈さんはビクッと立ち止まった。


「美依奈さん……話をしよう」


 俯いて肩を震わせている美依奈さんにゆっくり近付く。


遂に二人の誤解やすれ違いが解ける時が近づいてきました!


二人は無事真の恋人となれるのでしょうか?



それと本日から新作『マッサージをするとなぜか顔を真っ赤にさせて身悶える美少女に、ものすごく懐かれてます』を公開しました!


こちらは焦れったい勘違い物語ではなく、ストレートなラブコメとなっております!


よろしければそちらの方もよろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かった…見つかった! [一言] 早く、早く誤解を解いてあげて!!(´;ω;`)ウゥゥ
[一言] 最後は、腹を割って話し合わないといけないんですねえ。素直に思いをぶつけられたら、問題なくなるのだから。
感想一覧
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