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優太ママ

 優太の家にお邪魔するのははじめてじゃない。

 小学生の頃は何度も遊びに行っていたし、妹ちゃんや優太のママとも仲良くしてもらっていた。

 でも高校生となり、彼女としてお邪魔するのは緊張してしまう。


 両親は留守だって言っていたから優太のママとは会えないのが残念なようでほっとする気持ちもある。


 約束の時間に到着するとマンションの前に優太が待っていてくれた。


「迎えにきてくれたの? ありがと」

「うん」

「なんだか顔色悪いね? どーしたの?」

「いや、それが……妹が部活で今いなくて。そのうち帰ってくると思うけど」

「そうなんだ? 別に大丈夫だよ」

「それと、その……お母さんが家にいるんだ」

「えっ!?」


 それは予想外であたしもドキッとする。


「用事があるって言ってたんだけど日程を間違えたらしくて、さっき帰ってきた」

「マジで? あたしが来ること知らないんでしょ?」

「それは一応伝えておいた。か、彼女が来るって」

「そうなんだ……」


 言ってしまったならば行かないわけにはいかない。


「やっぱり日を改める?」

「ううん。あたしも優太のママに挨拶したいし。いきなりだから緊張するけど」

「そっか。ありがとう」


 優太ママに会うならもう少しおとなしめの服にすればよかったかも。

 そんな後悔をしながら優太について行く。


「いらっしゃい!」


 ドアを開けた途端に優太のママが待ち構えていた。


「と、突然すいません。あの、あたし、優太、さんの彼女のたたた橘美依奈です!」

「あら?」


 あまりに辿々しすぎたからか、それとも優太に似つかわしくない派手な女と思われたのか、優太ママは驚いた顔をしていた。


「もう見たからいいでしょ。ほら、美依奈さん。僕の部屋に行こう」

「お、お邪魔します」

「はい。ごゆっくり」


 優太ママの視線を浴びながら部屋へと向かう。


「へぇ。ここが優太の部屋かぁ」


 小学生の頃と同じように部屋はきちんと片付けられている。


「わ、これ、懐かしい!」


 本棚にあった図鑑を見つけてテンションが上がった。

 それは小学生の頃から優太が持っていたものだ。


「懐かしい?」

「あ、あたしも同じの持ってたなぁって思い出して……あはははは……」


 ヤバい。

 興奮して思わず余計なことを口走ってしまった。

 あくまで優太が思い出してくれるまで幼なじみだったことは隠すつもりだ。


「そ、それはそうと今日は酢豚の作り方教えてくれるんでしょ!」

「そうだよ。美依奈さんのリクエスト通り」

「やった」


 以前お弁当に入れてくれた酢豚があまりにも美味しかったのですっかり魅了されてしまっていた。

 ぶっちゃけお店で食べるよりも美味しいレベルだ。


「いきなりハードル高すぎたかな?」

「そうでもないよ。コツさえ覚えたら簡単だから」

「お肉揚げたり野菜炒めたりタレを作ったり大変そう」

「まあ手間はかかるけどね。あっ!?」


 当然優太は愚を衝かれた顔になる。


「どうしたの?」

「片栗粉切れてるの、忘れてた」

「別にいいよ」

「いいわけないよ! 片栗粉がなければ酢豚なんて作れないんだから!」

「そ、そうなんだ……ごめん」


 なんか見たことないくらい熱くなる優太を見て、思わず引いてしまった。


「買ってくるから待ってて!」

「あたしも行く」

「自転車ですぐだから! ごめん。留守番してて!」


 そう言うなり優太は飛び出してしまった。

 あんな穏やかな性格なのに料理には異常なまでに厳しくて熱い。


 コンコンっととノックされ、ビクッと緊張で震えた。


「ちょっといいかしら?」

「は、はい!」


 優太のママが微笑みながら入ってくる。

 そしてジィーッとあたしを見つめてきた。

 いきなり嫌われてしまったのだろうか?

 冷や汗が流れ、呼吸が乱れる。


「あの、なにか……」

「やっぱり!」

「ひゃうっ!?」


 いきなり手を握ってきて心臓が止まりそうになる。


「あなた、美依奈ちゃんね! 小学生のころ、優太と仲良くしてくれていた橘美依奈ちゃん! 懐かしいわ!」

「ふぇ……!?」


 いきなりのことで変な声が出てしまった。


「お、覚えてくれていたんですか?」

「当たり前じゃない! 可愛らしい顔だし、珍しく優太が仲良くなった女の子だもの! まぁー、きれいになって! 今いくつ? って優太と同い年に決まってるか!」


 ハイテンションで握った手をぶんぶん振られ、リアクションに困る。


「あの子ったら彼女が来るからしか言わなくて。ごめんなさいね。美依奈ちゃんが来るならもっと色々用意したのに!」

「ち、違うんです! それには訳がありまして」

「事情?」


 優太ママは首を傾げる。


「優太は、あたしが幼なじみだって気付いていないんです」

「え……!?」


 事情を説明すると優太ママは驚いた顔になる。


「呆れた! 優太は美依奈ちゃんだって気付いてないの? もう、あの子ったら! ごめんなさいね」

「い、いえいえいえ! 言わないあたしが悪いんです。優太は、あ、いえ、優太くんは引っ越しが多かったから色んな知り合いがいて忘れちゃったんだと思います」

「呼び捨てでいいわよ。それにしても薄情でしょ。ただのクラスメイトならいざ知らず好きな女の子を忘れるなんて。私から厳しく叱っておくから」


 優太ママは眉間にシワを寄せてため息をつく。


「それなんですけど! 優太には内緒にしておいて欲しいんです」

「え? そうなの?」

「はい。すいません。自分で思い出してくれるまで、話さないつもりなんです」

「そう。分かった。美依奈ちゃんがそうしたいなら従うわ」

「ありがとうございます」


 ママが気付くのになんで優太は気付かないのよ!

 そんな恨み言を脳内で呟いてしまった。



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― 新着の感想 ―
[一言] いや、気付いてますよ!って教えてあげたいわw
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