カラオケ
「カラオケ、ですか?」
ましろは目をぱちぱちとさせ、驚いている。
「そんなに驚かないでよ。ただカラオケ行くだけじゃん」
「そーそー。うちと美依奈はしょっちゅう行ってるよ」
羽衣と二人で畳み掛ける。
「でも私、あまり最近の流行歌知りませんし、そもそも下手くそなので」
「上手い下手関係ないし。盛り上がれたらいいの」
「私なんかと行って盛り上がるものでしょうか?」
「当たり前じゃん。てかうちらがましろと行きたいの!」
「そ、そうなんですか? ありがとうございます」
ましろは照れたように顔を赤らめる。
やっぱましろは可愛い。淳之助が好きになるのも頷ける気がした。
派手さはないけどしっとりとほんわかとした可愛さがある。
「よし、じゃあ決まりね! 優太と淳之助も来るから」
「えっ!? だ、男子も来るんですか?」
「男子って言ってもあたしの彼氏と淳之助だよ? 平気でしょ?」
「そ、そうですね。淳之助くんならまあ、恥ずかしくないか」
喜んでいいのか、悪いのか、微妙なリアクションだ。
少なくとも異性として全く意識されていないのは間違いなさそうだ。
今日の放課後に行くと告げたが、学校帰りに寄り道をするのは校則違反だとましろが譲らなかったので仕方なく週末となった。
ちなみに美依奈は校則なんてどこに書かれているのかさえも知らない。
「まぁ断られなくてよかったじゃん」と羽衣が微笑む。
「だねー。ましろは大人しいから人前で歌うとか苦手そうだし」
真面目なましろのことだ。
きっと当日までに歌の練習とかしちゃいそう。
想像して口許が緩んだ。
「あとは淳之助だね。せっかくましろが来てくれるんだから進展させて欲しいよね」
「なに上から目線で語ってるの」
「ひゃわっ!?」
羽衣に脇腹にツンツンと突っつかれ想わず変な声を上げる。
「美依奈もおんなじだよ。今回のカラオケでもっと優太と距離縮めてよね。うちも毎回毎回優太ともっと親密になりたいとか、態度が冷たいとか泣き言聞かされるのイヤだし」
「そ、それは……優太に言ってよ」
「優太はそんなベタベタしてくるチャラい男じゃないって美依奈が言ってるんでしょ。それが物足りないなら美依奈が積極的に行くしかないっしょ?」
「うー……そうだけど……」
それが出来たら苦労してない。
甘えようと思ったら強がってしまい、優しくしようと思ったらきつい口調になってしまう。
そんな性格だからなかなか気持ちがうまく伝わらない。
「最近の美依奈は可愛いよ」
「そういうのいいってば」
「見た目じゃないよ? お弁当作りに忙しくてメイクが手抜きだったり、優太を横目で見てニヤニヤしてたり、優太にバカだと思われたくなくて勉強頑張ったり。そういうのが可愛いって言ってんの」
「ぜ、全部バレてたんだ」
「当たり前でしょ。うちと美依奈はマジ親友なんだから」
「ありがとー!」
ひしっと抱きつくと羽衣は頭を撫でてよしよししてくれる。
「実はうち、美依奈が優太に更に好かれる作戦考えてあるんだ」
「え? ウソ、マジで!? 教えて!」
やっぱ羽衣は頼りになる最高の友達だ。
カラオケ当日。
ましろが制服でやって来るのではとヒヤヒヤしたが、ちゃんと私服を着てきてくれた。
長めのエアリースカートとふわふわっとしたニット、色合いは淡いけど華やかな色というのがいかにもましろらしい。
他のみんなも普段と変わらないスタイルなのだが、淳之助だけは違った。
髪を無造作ヘアに決めて、透け感のあるシャツを羽織って決めちゃっていた。
普段の淳之助のイメージとほど遠くてなんだか違和感しかない。
「あー、淳之助くん、寝坊したでしょ? 髪の毛、ぐちゃぐちゃだよ」
ましろはにこにこと笑いながら手鏡を取り出して淳之助に向ける。
先制鈍感を食らった淳之助は「ほんとだ」と涙目で分け目のついてない髪を整えていた。
「大丈夫かな?」
心配そうに優太は私の耳元で囁く。
「大丈夫。ああいう子なんだって、ましろは」
私も耳打ちで返した。
カラオケは駅前の大型店にした。
部屋に入るなり羽衣はタッチパネルで曲を選び始める。
当初の予定など忘れたかのように一人歌う気満々だ。
意外だったのは淳之助も歌う気満々だったことだ。
しかも結構上手い。
ただ選曲が『昔から好きだった』とか『あの頃から僕は君に惹かれていた』的なものばかりなのが鼻につく。『匂わせ』というより『臭い過ぎ』だ。
ただ残念なことにましろには全く響いてないようで「上手だねー」と朗らかに拍手をするだけだ。
「優太も歌いなよ」
「僕はいいから。美依奈さん歌って」
「じゃああたしのあとに歌ってよ?」
そう言いながら勝負曲を入れる。
羽衣のアドバイスを受け、今日のために練習してきた曲だ。
「あれ、これって……」
イントロが流れ出すと優太は驚いて顔を上げる。
そう。これは深夜アニメのオープニング曲だ。
以前チラッと優太が語っていたので見ているに違いない。
『優太はきっと深夜アニメとか観てるからその曲を歌いなよ』というのが羽衣のアドバイスだ。
確かに自分が興味あるものを好きな人も興味を持ってくれると嬉しいものだ。
サビの部分になると優太も笑いながら一緒に口ずさんでくれる。
練習してよかった。
調子に乗って少し肩を寄り添わせながら歌って、そんなことを思っていた。




