自慢の彼氏
あー、もうヤバイ!
優太、カッコよすぎ!
恥ずかしくて顔が見られないし!
優太の胸に顔を押し付けて息をすると、優太の香りがする。
その匂いが好きすぎてスーハースーハーしてしまう。
ヤバイ、あたし、変態っぽい……
だいすきだよ、優太……
「もう心配ないから。安心してね」
優太は耳許で囁いて頭を撫でてくれた。
全身がびくんっと震える。
これ、ヤバイ……
すごく気持ちいいかも……
って浸ってる場合じゃない!
「ていうか優太ヤバいんじゃない? 檜山のやつが仕返しに来るかも! そんなことしたらあたし、絶対許さないから!」
「大丈夫だよ」
「ううん。あいつしつこいし、ヤバめな仲間とかいるし」
「心配ないと思うよ」
「なんで?」
「美依奈さんにフラれて直後に僕に痛い目に遭わされたんだよ? そんなこと人に言えるわけないだろ。僕の経験上、こういう状況で仕返しとか仲間を連れてくるってことはまずしないよ」
「なるほど」
確かにあの自意識過剰でカッコつけた檜山がそんなことするとは思えない。
「それにもし仕返しに来ても返り討ちにするよ」
「そんなのダメ! 危ないもん!」
慌てて顔を上げると目の前に優太の顔があった。
もうちょっと勢いよくいってたら唇同士がぶつかっちゃってた。
惜しい。
「あいつの逆恨みが僕に向くならそれでいいよ。美依奈さんを危険に晒すよりよっぽどいいでしょ」
「優太……」
せっかく唇が近かったのに優太はプイっと顔を逸らしてしまう。
今のってキスするタイミングだったんじゃないのかな?
あー、失敗した!
「ごめんね」
「だからもういいってば」
「そうじゃなくて……優太があたしの彼氏だってはっきりと名前言わなかったから、気にしてるかなって」
そう言うと優太はピクッと反応した。
やはりそれを気にしているみたいだった。
「優太の名前を出さなかったのも、学校で仲良くしないって言ったのも、優太に危害を及ばせないためなんだ」
「どういうこと?」
「なんか……あたしにコクってくる男がたまにいるから……その人たちが優太に逆恨みしたらイヤだから。それで隠してたの」
正直に伝えると急に優太は怖い顔になった。
今まであたしに向けたことがないくらい怖い顔だった。
「なにそれ? 僕を助けるつもりとか? そんなに頼りなく見えた?」
「そ、そうじゃないけど……」
「そんな理由で隠す必要なんてない。むしろ彼氏がいるって分かったらさっきみたいなこともなくなるんだし」
「うん……そうだね。ごめん。変な気を回して」
素直に謝ると優太はまた優しい顔に戻ってくれた。
「立てる? 制服しわになっちゃうよ」
「無理かも。起こして」
本当は余裕で立てるけど無理な振りして立ち上がらせてもらう。
ぎゅっとしがみつくと優太も背中に手を回してゆっくりと起こしてくれた。
「じゃあ先に教室戻るね」
「ちょっと!」
立ち去ろうとする優太の手を握る。
「……一緒に教室に戻ろ? もう隠さなくていいんだから」
「え? あ、そ、そうか……」
さっきの勇ましさや強さはどこへいったのか、急におろおろする。
そんな照れ屋なところも好き。
二人で並んで歩いているといろんな人に見られた。
手を繋ごうとしたら「さすがにそこまでは恥ずかしいから」と拒否られてしまう。
それも優太らしくていい感じ。
あたしたちはあたしたちの速度で絆を強くしていけばいい。
いきなりキスとか、それよりもっととか……そういうのは優太もあたしも得意じゃないから。
あたしへの愛が足りないんじゃないかと落ち込んでいたけど、今日の一件ですっかり立ち直った。
優太はやっぱり世界一の彼氏だ。
教室に入る瞬間、油断した優太の手を握る。
「え?」
戸惑う優太の手を引っ張って教室に入る。
「優太はあたしの彼氏だから! みんな取らないでよね!」
教室内がシーンとし、全員の視線が集中する。
そして次の瞬間、爆発した。
驚きの声、祝福の声、冷やかす声。
唖然とする優太の腕にしがみつく。
「これでいいんだよね」
あたしらはみんな公認のカップルだ。
だけどなぜか優太は魂が抜けたような顔をしていた。
いきなり過ぎて驚いたのかな?
みんなの冷やかしを受けつつ、放課後になった。
一緒に帰ろうと思っていたが、優太は淳之助と帰っていってしまった。
優太も結構みんなに冷やかされていたし、照れちゃったのかな。
シャイなところもあるけど、ここぞというところでは頼りになる。
優太は小学生の頃から変わらず、やっぱり優太だ。
ブブッとスマホが震える。
見ると麗美さんからのメッセージだった。
『こないだ保留した彼氏くんの私なりの分析を送ります。私の主観だから当たってるとも限らないので気にしないでね』
おお!
ついに来た!
連れていってすぐに「どうでした?」と訊いたけど教えてくれなかったやつだ。
ドキドキしながら先を読む。
『優しく穏やかで人に気を遣うタイプ。自分を押し殺してでも人を優先するのでちょっと生きづらい面も。その辺は彼女である美依奈ちゃんがうまくフォローすること』
さすがマスターだ。
あれだけしか接してないのに当たってる。
『溜め込むタイプなので時にはガス抜きも必要。でも構いすぎると嫌がる可能性もあるから自然に。
それとこれは本当に私の勝手な印象だけど、なにか思い悩んでいるかもしれない。やけに周囲を気にしているし、時おり落ち着かない。
なにかを警戒している感じがします。とりあえずはこんなところです』
なるほど。
言われてみれば優太は時おりキョロキョロ視線を泳がせている。
あれは周囲を警戒していたのか。
まさか正義のヒーローで悪の組織に狙われてるとか?
そんなわけないか。
どんな不安があるのか分からないが、あたしが味方だから心配ないよ。
優太が守ってくれるように、あたしも優太を守る。
私を守ってくれた優太を思い出し、またにやけてしまっていた。




