球技大会
球技大会当日。
男子のサッカーは早々に敗退し、全員で女子のバレーを応援することとなった。
女子Bチームはあっさり破れたがAチームは健闘して勝ち進んで準決勝に挑んでいた。
「Aチーム、強くね? 優勝するかも」
クラスメイトの男子が呟いた。
懸念されていたましろさんはかなり上達したのだろうが、やはり準決勝まで来ると疲れもあってか動きが鈍い。
それをカバーするように美依奈さんや羽衣さんが走り回っていた。
「おおー、美依奈、胸デカくね?」
「バカ。今ごろ気付いたのかよ」
「うわっ! 跳ねたらボヨンって弾んだぞ」
「可愛い上に胸までデカイとかチートかよ」
男子たちの話し声が聞こえ、なんだかイライラした。
もちろんやらしい目で美依奈さんを見ることに嫉妬してる訳じゃない。真面目な試合をそんな目で見ていることに腹が立っている。
嘘じゃない。
別に美依奈さんがどんな風に男子から思われていようが、僕には関係のないことだ。
バシンッと乾いた音が響き、美依奈さんが上げたレシーブがコートから外れていく。
それを見たましろさんが走り出した。
届かないかと思ったそのとき、ましろさんは躊躇なく飛び込んでボールを上げた。
おおーっ! という歓声が体育館に響く。
すぐに立ち上がったましろさんの膝は擦りむけて血がにじんでいる。
「ましろ! 怪我してる! 無理するな!」
淳之助は立ち上がって声を上げた。ましろさんはチラッと振り向き淳之助くんに大丈夫と目で訴えて笑った。
死闘を繰り広げた試合だったが美依奈さんたちAチームはなんとか勝利を手にし、決勝へと駒を進めた。
ましろさんの怪我もただの擦り傷で問題なさそうだ。
決勝戦の相手はバレー部が四人もいる優勝候補だった。
試合前、美依奈さんたちの周りには人が集まり、激励の声をかけている。
僕は遠慮して遠巻きでその様子を見ていた。
美依奈さんは誰かを探すように辺りを見回し、僕と目が合うとにっこり笑った。
汗で髪が濡れ、熱気で頬が赤くなったその姿は普段とは違う魅力で、思わず胸がドキンっと震えた。
化粧もしておらず、髪は一つに括っている。
爽やかなスポーツ少女といった感じだ。
(頑張れ)
口の動きだけで伝えると美依奈さんはこくんと頷いて笑った。
胸はいつまでもうるさくドクドクと震えていた。
決勝戦が始まると体育館は興奮に包まれた。
各クラスの応援はもちろん、他の学年も見に来て応援合戦が繰り広げられている。
試合はかなり押され気味だった。
さすがの美依奈さんもかなり疲れが見えて苦戦を強いられている。
だけどAチームからは笑顔が消えていなかった。
はじめはややぎくしゃくしたものを感じたチームだったけれど、今は一丸となっている。
ましろさんもみんなとハイタッチをして笑っている。
試合の終盤、相手チームのスマッシュが入り、ましろさんの頭に当たった。
「ましろ、大丈夫?」
チームメイトが集まるがましろさんは笑顔で返していた。
無事怪我はなく、試合は再開される。
だが──
ピピーッとゲームセットの笛がなる。
結果は大敗。Aチームは準優勝に終わった。
「ごめんなさい!」
ましろさんが笛と共にその場にしゃがんで謝った。
「私がトロいからみんなに迷惑かけて」
「そんなことないよ」
バレー部の女子が手を貸して立ち上がらせると他のメンバーも集まる。
その輪に少し離れたとこで美依奈さんは目を細めていた。
嬉しそうに微笑み、だけど自らは輪に加わらない。なんとなく美依奈さんらしくてかっこよかった。
みんなが盛り上がって騒いでいる今なら美依奈さんに声をかけても不自然ではないだろう。
近付こうと一歩踏み出した、そのとき──
「すげぇじゃん、美依奈」
隣のクラスの檜山くんが美依奈さんに声をかけた。
檜山くんはバスケ部所属のイケメンで女子からの人気も高い。
「まぁねー」と美依奈さんはピースサインで応える。
「調子に乗んな」
「えへへ。てかみんなのお陰で準優勝できた」
「へぇ。お前にしては謙虚じゃん?」
「当たり前っしょ? 檜山とは違うの」
「なにそれ、ひでぇ」
盛り上がる二人を見て僕の足は止まった。
二人は息もあっていてお似合いだ。
僕みたいな冴えない奴が入り込む隙間などないように思えた。
もしかすると美依奈さんの本当の彼氏は檜山くんなのかもしれない。
踵を返し、さっさと体育館をあとにした。
興奮冷めやらぬホームルームのあと、僕は一番に教室を出る。
クラスのみんなはこの後打ち上げだと言っていたが、当然僕は不参加だ。
「待ってよ。なに先に帰ってんの?」
靴を履き替えたところで美依奈さんに呼び止められた。
「一緒に帰る約束なんてしたっけ?」
「はあ? あたしの彼氏は予約しなきゃ一緒に帰れないの?」
美依奈さんはなんだか怒っている様子だった。
「声が大きいよ。誰かに聞かれたらどうするの?」
「そんなのいいから。とにかくあたしも一緒に帰るんで」
「打ち上げはどうするの? 参加してきなよ」
「あたしはパス。てかなんなの? あたしと帰りたくないわけ?」
「そうじゃないけど」
さっさと歩き出してしまうので慌ててその後を追った。




