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二人の帰り道

 昼休み終了間際の教室は気だるさと喧騒が入り乱れていた。

 淳之助が体育館へ行ってしまったので僕は一人きり、午後一番の授業の準備をする。

 聞くともなしに女子たちの噂話も聞こえてきた。


「てか美依奈たち毎日体育館で練習してるんでしょ?」

「そうそう。私らへの当て付けかな? ウザくない?」

「普段好き勝手してるのにこういう時突然いい子ぶるのやめて欲しいよね」


 どうやらましろさんの一件で面白く思ってない人もいるみたいだ。

 美依奈さんらへの悪口を聞いてなぜか無性に腹が立った。

 別に美依奈さんの肩を持つ気はないけれど、いつもは普通に接しておきながら陰口を叩く人は好きになれない。


「あー、暑い」

「疲れたぁ」


 美依奈さんたちが教室に戻ってくると女子たちは慌てて陰口をやめた。

 しかし少し離れた僕のところまで聞こえてきたくらいだから美依奈さんたちにも聞こえていたに違いない。

 現にましろさんは気まずそうに顔を伏せて小走りで席へと戻っていった。


 でも美依奈さんと羽衣さんはまったく気にした様子もなくケラケラ笑っていた。

 なんか、強い。

 そのたくましさが羨ましくて、そしてなぜか誇らしかった。


 とはいえ下になにか穿いてるとしてもスカートをパタパタさせるのはやめた方がいい。

 ニセとはいえ彼氏の僕はあきれて顔をしかめた。


 少し遅れて淳之助も戻ってきた。

 あれだけ勢いよく行った割にやけに静かなのが気になる。

 まさか返り討ちにされてひどい目に遭わされたのだろうか?


「大丈夫?」

「うん? あ、ああ。なんにも問題ないよ」


 ……なんだか様子がおかしい。

 さっきの勢いはどこへ行ってしまったのだろう?


「なんかされたの?」

「いや。むしろ僕が怒鳴っちゃたら勘違いだって諭されたよ」

「そ、そうなんだ。僕のせいでごめん」

「優太のせいじゃないよ」


 淳之助だけじゃなく美依奈さんや、羽衣さん、ましろさんにまで迷惑をかけてしまった。

 ウソ告白の件とこの件は別問題だ。ちゃんと謝った方がいい。




「優太から帰りを誘ってくるの、久し振りじゃない?」


 美依奈さんは僕と目も遭わさずにさっさと歩き始める。

 それにしても下校を誘ったのに二つ離れた駅で待ち合わせとはあり得ない。よほど同じ学校の生徒に見られたくないのだろう。


「ごめん、迷惑だった?」

「め、迷惑なんかじゃ、ないけどさ。最近あたしバレーの練習でお昼も一緒に食べてないから、たまにはこうやって一緒に帰るのも悪くないし」


 並んで歩くのは嫌らしく、僕が近付こうとすると美依奈さんは更に歩を速める。

 僕なんかに隣を歩かれたら恥ずかしいんだろう。


「バレーの練習、頑張ってるね」

「まぁね。てかあたしらよりましろがスゴい頑張ってる」

「へぇ。意外だね」

「でしょー? あたしらも驚いてる。いきなりバレー教えてとか言ってきて、一日だけかと思ったら毎日だよ? しかもスゴい必死なの。かなり上達してるし」


 バレー特訓の話になると美依奈さんは目を輝かせる。

 よほど楽しんでいるのだろう。

 なんだかちょっと微笑ましい。


「まぁクラスの女子は面白くないみたいだけど、本番でましろが活躍できたらいいしね」

「えっ……やっぱり知ってたんだ」

「まーね。でもそんなの関係ないし。あたしらはやりたいようにするだけ。ましろの悪口は言ってないみたいだし」


 分かった上でシレッと生活してるなんてなかなか凄い。

 もしかすると自分らに非難が向くことでましろさんを庇っている可能性さえある。

 美依奈さんの強さを改めて感じた。


「そういえばごめん。昨日淳之助が美依奈さんたちに文句を言いに行ったでしょ?」

「あー、うん。来たよ」

「あれは僕が『ましろさん大丈夫かな?』って言ったからなんだ。ホント、ごめん」

「そーなんだ。全然いいよ。てか誤解だって分かってもらえたからむしろラッキーだったし」


 そう言ってから美依奈さんはニヤリと笑った。


「てか淳之助ってましろのこと好きだよね?」

「そ、それは……分からないけど、やっぱりそう思う?」

「えー? 聞いてないの? 親友なのに恋の相談とかしないわけ?」

「し、しないよ、そんなこと」

「なにそれ? じゃああたしのことも淳之助に話してないわけ?」


 ぐいっと顔を近付けられて焦る。

 黒目がちな目をつけまつ毛がさらに大きく見せている。白目はまるで濁りがなく、宝石のように美しかった。


「み、美依奈さんのことは、少し話してるけど」

「ふぅん。少しなんだ」


 少しがっかりした顔をされる。

 もっと僕が浮かれていると思っていたのだろう。

 あいにくウソ告白で有頂天になるほど僕はおめでたい人間ではない。


「それはそうとあたしらであの二人を接近させようよ。キューピッドってやつ?」

「うーん。余計なお世話なんじゃないかなぁ」

「なんでよ! 親友が幸せになるのみたくないわけ?」

「頼まれた訳じゃないし」


 やはり美依奈さんは人の色恋沙汰をエンターテイメントとして楽しんでいる。

 油断ならない相手だ。

 見直しかけて損した。

 僕の気持ちも弄んで楽しんでるんだろう。


 そう決めつけて心の中で片付けようとしたが、なんだか心がざわついていた。


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