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内輪揉めの口論。策謀と道化と暗躍と

※羅角視点になります

 面白れぇことを口にしやがる。というより、コイツは会った頃から面白かった。

 勝機を見出せずにいながらも怯まずに挑んで来たその時、恐らく気に入ったんだろう。

 盛大に鼻白んで、オレは復唱した。


「ハクロと契約する、だ? 冗談だろ? いや、ジョークにしたって行き過ぎてるぜ?」

「冗談なんかではありません」

 恐れ知らずの生意気な目だ。本気で言ってるのは分かるがね。


 さて、とことん意地悪してやるか。

 内心とは裏腹に、獰猛な鬼としての本性を剥き出しにして話を続ける。


「負け犬がその場の勢いで適当なことをほざきやがって……何処まで舐めてんのか、テメェ——はッ」

「ッ!」

「くだらねぇ言葉を無駄に垂れ流すのなら、その顎砕いてやっても良いんだぜ。流動食暮らしも悪かねぇか! ああん!?」

 メンチを切って激しい言動とありったけの敵意を叩きつけた。風もなく小僧の前髪が浮く。

 この気迫で大概の奴は失禁か気絶するんだがな。

 だが、この小僧……アルフ・オーランは微動だにしなかった。毅然とした態度をとり続けやがる。


 本当に面白れぇな。こんな奴、アイツ以来だわ。

 あの頃を思い出すぜ、ジーク。これくらい肝が据わっている奴はお前以外にいなかった。


「俺は舐めてなんていませんよ。今言ったこと全てが本気です」

「はーん。『破軍』と真っ向からやり合うってか? かつて戦争にも参入した名うての一族だぜ」

「はい」

「なら一応聞くが。そこまでしようと言い出すなんて小僧はハクロとどんな仲だよ? たかが一年知り合った程度だったんじゃねーのか? オレからすれば、踏み入れた距離は赤の他人とそう変わらねぇと思うが」


『破軍』は精霊界でも勢力の一角に立つ奴等だ。

 そいつらを敵に回すリスク、よほど大切な人でもないと首を突っ込める訳がない。

 威勢だけの生半可な覚悟じゃアイツの十字架は背負えねぇ。


「確かに、俺は白鷺ハクロさんと出会って一年ほどの関係です。貴方や鈴狐リンコとの旧知の仲を考えたらあまりにも短いでしょう」

「分かってんのなら大人しく引っ込んでろよ。おこがましい。手前独りで何も出来ねぇ癖に、身を弁えろや」


 ま、こう言っても食い下がるだろうな。

 今もそういう面、してやがる。


「でも、それは彼女とグランシャリオとの時間も、そうだった筈です。特に精霊獣の人生を考えれば、ほんの僅かな瞬間だったのでは無いでしょうか」

「で?」

「その人のことを何百年経っても想い続けている。時間じゃないんです」

 天使ハクロの殉教を止めるつもりでいるなら、変えなくちゃならん物がある。

 ゴリ押しは好みだが全部がそういう訳にはいかねぇんだ。


「ようするに新たな契約で忘れさせようってか?」

「忘れさせるんじゃありません。グランシャリオの意思を尊重して、一緒に前へ進むだけ」

「アイツが望むとでも? 生涯喪に服す気でいるのに」

「どうにか説得します。貴方が言う通り俺に出来ることは少ない。だから出来ることを尽くします」


 口論は続いた。小僧は譲らない。

「そもそもテメェはもう2人も精霊獣と契約してんだろうが」

「問題ありません。鈴狐リンコは元から負担を掛けていなかったし、白鷺ハクロさんだって天上位の精霊獣だ。契約で精霊力が戻れば同じように支障は無い筈です」

「そこじゃねぇ。コイツ等の意見を聞かずに決めて何が契約主だって話だ」

 コイツは難なくやったが契約の共有はシビアな問題だ。精霊獣達の相性が良くねぇと、契約が成立しねぇ時だってある。


 それなのに人型を3人に増やす? 普通なら成り立たせる方が難しいってもんだ。だが……

 可能性はゼロでは無い、といったところか。


「大丈夫。私達はハクロを受け入れられるよ。これまで以上に輪になるだけ」

「うん。あるじの決めたことに異論、無い」

 事の行く末を見守っていた小僧の相棒が口出しをする。ハクロともとりわけ仲の良い奴等が。

「外野は黙っていろ、って言っただろうが」

「言ったばかりでしょ、決めるなら私達の意見を聞くべきだって。アルくんが決めたことを後押ししているだけ」


 過保護な連中だ。アイツの問題を率先して取り去っちまう。

 まぁ……確かにコイツ等の世話焼き具合を考えれば、今後のことなんざ大概解決するんだろうな。

 全く、段取りを省いて貰いやがって。どんだけ恵まれていやがんだ。

 もしオレが小僧の胸倉掴んでぶん殴ろうものなら、すぐに飛び入るだろうし。


「生きて帰れるかも分からねぇぞ?」

「そんなリスク承知の上です」

「ああそうかいそうですかい。せっかく此処まで忠告してやったのに、強行するっていうならもう知らね。勝手にやってろ」

 とりあえず、ここいらが引き際かね。味方になる気は更々無い。

 帽子をかぶったオレは最後の確認を投げ掛ける。



「何を勘違いしてるんだか、英雄気取りも大概にしてもらいたいね。お前はアルファロランじゃねぇんだからよ」

 あの英雄の生まれ変わりっていう話も眉唾物だと思っている側からすれば、模倣したがるコイツの志は滑稽だった。

 

 時代はとっくの昔に移り変わっている。大それた偉業を為すきっかけも、誉れる連中だって殆ど無いだろう。

 今更、そんな古臭いもんになろうだなんて余程の物好きだな。


 それを聞くと何故か苦笑した小僧は、こんなことを返した。

「英雄だったら、こんなことにはなっていませんでしたよ。そして、俺はアルファロランにもなれないのは分かりきっています」

「……」

「でも、それに憧れたことが今の俺を作った根本的な動機です。そして、それはこれからもずっと変わらない」

「自分語りに興味はねぇ」

「失礼しました。この身に代えてでも、今度は誓って守ります。だから羅角ラカクさんも安心してください」

「あっそ。ならとっとと行けよ」



 連中は浜辺から精霊界への穴を開き、姿を消した。さざ波の音だけが、取り残される。

 ハァ、と気の抜けた息が出た。どちらに転んでも、これでオレもめんどくさい尻拭いから解放されるだろうな。


「終わりましたか?」

「おお、オルタナ。どうしたその恰好、随分気合入ってんじゃねぇか」

 赤の鮮烈なドレスでバッチリ決めた女教師は、砂浜を歩いてこっちにやって来る。


「マスターが事が済むまで避難していろ、だなんて大袈裟に言う物だから、とても時間を持て余してしまいましたからね」

「除け者にされたからって嫌味はやめろよ。ひとつ間違えればアイツらとやり合いかねなかったんだ。いくら怪力持ちだろうと、戦闘経験のないお前には荷が重すぎる」

 ま、流石に三人がかりの上本気で来られちゃ、ちょいとヤバかったかもな


 ツンと、眼鏡を掛けた目を逸らしてオルタナは邪険な態度を取る。

「別に、構いませんけれど」

「だから拗ねんな。相手してやんなかったからってよぉ」

「ちょっと近くにカジノがありましたので、一発回してきましたから」

「人が大事な話をしている間にスロットやってやがった! 避難はしとけとは言ったが何遊んでんのお前!?」

 いや貴方は鬼でしょう? なんてやかましい合いの手を入れながらオルタナは答える。


「しかし7の絵柄がふたつまで揃ったのに……あとひとつが最後の最後で上か下にズレるんです。信じられます? 二度もですよ二度。あのスロットマシン絶対裏で確率いじってますよアレ。大分散財させられて……ああ忌々しい」

 手をぶらぶらさせてレバーを上下にするジェスチャーを見せた。息抜きでストレス溜めて帰って来たよコイツ。



「もういっそレバーを台ごと縦に引き裂いてやりたいのを我慢したんですけど」

「お前さぁ、たまに野蛮なこと考えるよな」

 教師にあるまじき言動だ。ほんと、誰に似たんだか。



「それより白鷺ハクロ様の件、これでよろしいのでしょうか」

「何を今更。オレはもう丸投げすることに決めたんだ」

「いえそちらではなく、もし鈴狐リンコ様に知られてしまえば半殺しで済むのやら」

「へっ。やれるもんならやってみろってもんだ。それに、ちゃーんとそうならねぇように使い走りに任せたんだろ? 心配いらねぇよ」

「だと良いんですけれども」

 いまいち煮え切らない返事だ。


「お前だって分かっている筈だろ。いずれ、ハクロも戦力になってもらわなきゃならねぇ。いつまでも平和ボケ出来たら苦労しねぇんだ。面倒くせぇけどな」

 仮に失敗しようと、アイツは『破軍』の懐で保護されたままになる。それならそれで構わねぇが。


「荒療治も構いませんが、私を巻き添えにだけはしないでくださいね」

「疑り深いな。良いから電話寄越せ。経過観察を聞きてぇ」


 構わずオレはオルタナに要求する。手渡された携帯端末で連絡をとった。

 複数のコール音の後、繋がる。


「オレだ。こっちが首尾よく運んだということは、そっちの接触は上手くいったようだな」

 相手とは無事通話が出来たのなら、今のところ問題がないというところ。

「……ああ、追って行った……何? おいおいそいつは指示してねぇだろうが。いや、駄目とは言わんが下手に表立ってバレても……おい——ミズ……クソっ、そりゃそっちの領分だが最悪こっちの尻尾掴ませるんじゃねぇぞ。文字通り、蛇足なことしてぇってんならよ」


 許可を貰った向こうの満足そうな感謝の言葉を皮切りに話が終わる。

「……」

「……ほら見たことか、みてぇな顔すんなよ。奴等もそこまで間抜けじゃねぇだろ……多分、な」

 他ならぬアイツの身内だ。余計なことはしねぇとは思わないが。


 さて、どんな結末を迎えるのやら。オレは夜空の水平線を見やり、成り行きを待つ事とする。

 お膳立ては、してやった。


「人間50年、下天のうちを比ぶれば夢幻のごとくなんとやら、てな」

「敦盛、ですか」

「実はオレ様が作ったんだぜ?」

「そんな分かりやすい嘘を仰らないでください」

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