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編入して早々生き別れた妹との再会。感動?歓喜?いえカンカン!

 長期間に渡る天朧アマオボロ天金アマガネの指名依頼の取り下げを表明して活動数を減らし、アルフ・オーランとその小狐精霊獣鈴狐リンコとして学園を訪れる。


 ブレザー姿で校門をくぐり、生徒達の中に入り混じった。初めて見る顔に彼らは俺を物珍しそうに見ていた。

「私、学校生活って初めてだから新鮮だなー。といってもこの姿でいるつもりだけど」

「確かに懐かしいよ、こういうの。小さい時に少し通って以来だから」

「飛び級だったもんねぇアルくん」


 目を惹く大きな理由には、肩に乗っている小狐がいるからかもしれない。精霊獣は誰もが持っている訳ではないのだ。

 貴族や富豪は経済の余裕なりで召喚出来たりするが、現代にいる精霊獣と契約する機会は少ない。そういう意味でも大概の退魔士学科は人気だ。精霊獣の相棒欲しさに、進路とは別に入りたがる者もいる。


 具体的には此処の目玉の一つに、志望者の精霊獣の召喚を行う授業がある。俺の場合は家が裕福だったから個人で鈴狐リンコを呼び出せたけど。


「失礼しまー……あれ」

 校長室に向かうと、席は空席だった。部屋の主がいない。依頼の張本人は何処に?


「校長はただいま一週間ほどの長期不在となっております。偶然急用が重なってしまいまして」

 眼鏡の女教師が編入手続きを代わりに受け持つ。肩の相棒が不服を唱える。


「えーなにそれー、人を呼びつけておいて勝手なぁ!」

鈴狐リンコ失礼だよ」

「いえ、まさにその通りです天金アマガネ様。此度の無礼、お許しを」

 諫めるつもりが逆に同調する教員。しかも事情は御存知のようだった。そういえば校長も狐巫女とは知り合いの人らしいから辻褄が合うか。


「貴方には生徒となって周辺での調査をお願いしたいのです。アルフ・オーランとして」

「調査、ですか。こちらも都合が良かったから指名をお受けしましたが、そうなると適任者は他にもいたと思いますよ?」

荒魂あらみたまの発生は、学生達の活動圏内にて頻度が高まっている統計が取れています。まだ伏せられている情報ですが、迅速な解決の為に校長はお二人をこちらにお呼びしました」

「それって……いや、人為的な発生なんて聞いた事ありませんが」

「可能性の話です。それで潔白を証明する為にもご依頼しました」


 学生に、荒魂あらみたまの多発と何らかの因果関係があるのではないか。そんな言外の意を理解した。

 潜入調査というのはそういう意味。学生達に混ざって怪しい人物をピックアップしろと。

「……善処します」

「いいよー。私とアルくんに任せて」

 何にせよ、やるだけだ。


 ノックの音に会話は中断される。此処からはいち生徒として振る舞うことに努めた。

「どうぞ」

「失礼します。オルタナ先生、編入生の案内を任されましたので」

「的確な頃合いですね。アルフ・オーラン。こちらは3年のベル・カーデナルです」

 教師が紹介したのは男子制服を着たとても綺麗な人だった。


 短く淡い銀髪のショートボブにターコイズカラーの瞳。細い顎に優美な表情を彩った生徒は中性的で浮世離れした儚さを彷彿させる。

「初めまして。アルフ君と言ったね、ボクはベル。よろしく」

「よろしくお願いします」

 綺麗な白い手が差し伸べられたので、俺も応える。



 校内で前を歩くベル先輩についていく。ズボンを通した脚は細く、その足取りがモデルみたいで絵になっていた。

「あのぉ先輩はもしかして」

「女だよ。制服で戸惑ったかい? 家のしきたりで男としての振る舞いを義務付けられているのさ」

 そう言ってヒラヒラと背中から手を振る。やおら動かすその手つきは優美さに満ちていた。


「そうでしたか。すいません、野暮なことを聞いてしまって」

「いや、気にする事はない。誰も最初はボクを見て同じような関心を寄せるんだ。理解して貰えればそれで構わないよ」

 食堂、別棟など施設を回りながら俺は先輩と話した。


 カーデナル家って、確か有名どころの家柄の名だった気がする。あまり覚えていないけど、気品のある雰囲気とか立ち振る舞いを見ていると先輩は身分の高い人なんだろう。

「せんぱーい転入生の案内ですかー!?」

「ああ、そうだよ」

「お疲れ様です先輩! 私達今日の放課後カラオケやるんですけど一緒に行きませんか」

「嬉しいけどボクは歌うのが苦手でね、謹んで遠慮するよ」


 授業の始まる前もあってか、すれ違う女生徒にベル先輩は声を掛けられていた。人気があるらしい。

 そして後続に続く俺にも興味が集う。ひそひそと話が聞こえた。


「噂の転校生? 何あの肩に乗っているの、小さくて可愛いー」

「精霊獣と契約してんのに此処に来るなんて物好きな」

「てことは退魔士志望? 大人しそうなツラしてる割に大丈夫か」

「俺聞いたんだけどさ、アイツって……」

 人という生き物は新しいことに過敏だ。話題が人を呼ぶ。



 そして、その瞬間が訪れる。

「見つけたァあああああああああああ!」

 怒声は周囲を一瞬で黙らせ、俺達を否応なしに振り返らせる。


 人だかりはモーゼの十戒のように左右に分かれ、一人が廊下の中央に立っていた。仁王立ちで。

 ずんずんとした足取りで、俺とベル先輩のところへその人物はやってくる。


「まさかこんな所で会えるとはねェ」

「や、やぁアリス。凄く久しぶり、背も随分伸びて……」

 内心動揺が波紋を広げる。知らなかった。まさか、実の妹が此処の学生だったなんて。


 燃えるように赤いポニーテール。勝気な同じ瞳。背丈は俺より少し低いがその迫力で充分に補っていた。

 6年前、勘当されて家からいなくなった俺はアリス・シェークリアとはこれまで全くの音信不通である。しかし、感動の再会とは程遠かった。

「アリス君、君達は知り合いなのかい?」

「こんにちはベル先輩。後はコイツを教室に送るだけなんですよね」

 ニコリと明らかに目が笑っていないのに微笑みを繕い、俺の袖をガッシリと掴んで続ける。


「この兄に御用があるので少しお借りしてよろしいでしょうか」

「あ、ああ。そうか兄妹だったのか」

 麗美な顔に苦笑いを含め、先輩は一歩退いた。俺も此処までありがとうという意思表示に微かに頷いた。


「あははでは失礼しますね! さぁて少しお話をしましょうか、『兄さん』!」

「……はい」

 物を言わさず引きずられながら、周囲から離れた場所に俺は連行される。



 机椅子も端に寄せられていた人気のない空き教室に引き込まれ、そこでようやくアリスは解放した。

「ね、ねぇアリス」

「そこに座って」

 指をさしたのはピカピカの床である。敷く物はない。


「いや、せっかく椅子があ──」

「座れ」その一言には、とても逆らえない覇気を伴った。兄としての面目はもう名残も無い。


 反抗できずに俺はその場で正座することになった。鈴狐リンコはどう反応すべきか悩んだ挙句、俺の考えを察して肩から降りた。事の行く末を見守る気でいるらしい。助かる、ややこしくならない。


 両腕を組んだ妹は険しい顔で見降ろした。尋問が始まる。

「今まで何やっていたの」

「えっとぉ、俗世から離れて修業していました」

「何処で? 誰と?」

「それは言えない」

「そう。じゃ何で学校に今更来ているの? アンタ飛び級で既に卒業したよね?」


 俺の記憶では9歳だった時の妹はもっと甘えん坊で気弱でこんなに相手へ圧迫を掛けるような性格じゃなかった。

 環境と年月が人を変えるのか。それとも俺に対してだけなのか。嫌な汗が全身に伝う。


「きちんとした退魔士になるには……専門の学科を修了しないといけないから」

「保証人は? 戸籍は? 学費は? 住所は登録してるのよね? でないと学校には入れないものね。それはどうしたの? オーランって偽名まで良く使えたわね」

「うぅ……」

「まぁ、大方『北斗』の力で何とかして貰ってるんでしょうけど」

「えっ?!」

「知ってるわ、アンタがどうやったか知らないけど入社している事は。C級見習いで、大方昇級の為に此処に通えって言われたんでしょう?」

「ちょ、それ企業秘密! 何でアリスが知ってるの!?」

「話す必要はない」

 一言で深入りを切り捨てられた。確かに、俺はもうシェークリアの家とは無縁の輩だ。


「退魔士になりたいって昔から言っていたけど、よもやまだ資格すら持ってなかったって? 啖呵きってこの体たらく! ここまで顔向け出来ない有り様だとは思わなかった! ほんと信じらんない! 家がどれだけ大騒ぎになったことやら! お父さんはカンカンで! アンタは行方不明! 何の音沙汰無し!」

「……」

 もしかして、と察する。こんなお説教にまで至る現状。アリスと俺の考えはすれ違っている。


「一度私の顔を立てて父のところに謝りに行きましょう。それで……」

「駄目だよアリス」

「どうしてよ!?」

「それはありえない。俺はあの人には会わない」

「答えになってない!」

「アイツも俺もそんな事は望んでいない。それだけで充分だろ」

「この……! ……まぁいいわ。此処に通うなら幾らでも機会がある」

 予鈴を契機に話を中断したアリスは扉を開け、言い捨てる。


「アンタをウチに連れ戻す。それまでは父の耳には入れないであげるけど、いつまでも意地なんて張らせないから。何処の教室に入るかは、さっき通ったなら分かるでしょうから後は独りで戻りなさい」

 ピシャリ、と勢い良く締めて立ち去った。知らない教室が静かになる。


「嵐みたいな子だったねぇ。でもどういうこと? 何でアルくんが勝手に家を出た話になってるの?」

 一部終始を見ていた鈴狐リンコが戻ってきた。


「多分、あの男が『アイツのことは忘れろ』とか『あの一族の恥晒し』みたいなことだけ言って勘当した話を伏せたんだろう。アリスは昔から俺が退魔士にもなりたいって話をしてから、それも相まって俺が家を飛び出したと思い込んでいると」

「それ、ちゃんと話した方が良かったんじゃ」

「余計な騒ぎは起こしたくない。アリスは黙ってくれるみたいだし、下手にそんな事情が広まったら任務どころじゃなくなる」


 家そのものに恨みはない。例え自分を追い出した家であっても、アリスの居場所を滅茶苦茶にしたいと思わない。

 まぁ、彼女が元気だったという事が分かっただけ良しとしよう。当分、まともに口も効いてくれそうにないけどなぁ。


 早々から、波乱万丈なスクールライフが危惧される。

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