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ぺいどさまーばけーしょん。その2


 意図せず起こった偶然というのは、時に恐ろしい物であると痛感させられた。

 指定してもいないのに同じタイミング、普段の活動圏内から大分離れているのに同じ場所、そしてよりにもよって顔合わせを避けたかった同じ学校の生徒と鉢合わせになることなど出来過ぎている。


 ダリオに続いて、これまた見知った水着の女子三人組がやって来る。

 そうして彼のようにこちらを見つけた途端、それぞれ反応を示した。


「あれぇ! お兄さんじゃん」

「先輩? どうしてこんなところに」

「に、兄さん! 行き先が一緒だったの!?」

「……や、やぁ、皆。此処で会えるなんてびっくりだよ」


 どうしたものか、俺はすぐに頭を巡らせた。

 鈴狐リンコ達と顔合わせをすることは避けられない。というか、後ろにいる。

 彼女達との関係を紹介するには些か悩みどころである。


 特に鈴狐リンコの説明。普段見ている小狐が人型になった姿だよは論外だし、親戚のお姉さんですと言っても全く似通っていないから怪しまれるリスクが高い。質問によってはボロが出かねない。

 やはり、『北斗』の立場でやっている彼女としてが一番か。ただ、それには後々面倒なことになるのは目に見えているが。


 早速、彼はその本題……痛いところを突いてくる。

「でー、お前一人じゃないよな? 仕事付き合いだと言ってまでボッチで浜辺に行くわけないだろうからな。連れは何処にいるんだ? 鈴狐(リンコ)ちゃんは一緒じゃないのか」

「勿論、仕事付き合いなのは間違いないし、鈴狐(リンコ)は潮風が苦手だからお留守番で、えーと……」

 頬を掻いて、言葉を悩み抜いている内に背後から気配がやって来た。


くん、お知り合い?」

 やはりそこに持って行くしかないか。少し息を吸ってその声に応じる。


「そうなんです。すいません、例の学校の生徒達とバッタリ遭遇してしまって」

「あらそう。それは奇遇だねぇ」

 鈴狐リンコが俺を『オーランくん』と呼ぶ時は、『北斗』内での設定を持ちだす合図だ。

 社内でパッとしない下っ端雑用の俺と、高嶺の花であるS級退魔士の天金アマガネとして。


「こんにちは、私のことはもしかして御存知かな」

 認識阻害を掛けているが、その効力は面識のない赤の他人にのみ作用すると言っていた。

 恐らくどの状態であれ鈴狐リンコと良く会っている皆にはそれは当てはまらない。


 つまり、今の人型を目の当たりにすればダリオ達は、

「あ、ああ、ああの天金アマガネッ……本物……!?」

「『北斗』の紅一点が此処にいるなんて驚きー!」

「また会えた……信じられないっお久しぶりです天金アマガネさん」

 アリスが泡を食っている中ダリオとレイチェル、ロベルタは三者三様に喜び驚いている。鈴狐リンコは『ああ、火蜥蜴ヒトカゲの時の子達か、お久しぶり』とウィンクする。


 ダリオはこれでもかと目を見開いて俺に迫った。

「ア~ル~フ~く~んっ!? どういうことだねこれは! なーんで君とあんな凄い人が一緒にいるのかな? かなぁ!?」

「う、うん、言って無かったね。実は俺、『北斗』でバイトしているんだ。その伝手で少しだけ天金アマガネさんと顔見知りだったんだよ」

 とうとう、彼にもその話を打ち明ける。厳密には、設定を話す。


「一応社外秘だったから責めないであげてね。そして今日はお忍び♡」と人差し指を口元に運んでこのことは内緒だとジェスチャーをする。

 するとダリオは背筋をピシッと伸ばす。

「は、初めましてェ! 俺、ダリオ・バードンって言います天金アマガネさんとお会いできて光栄でありまぁす!」

「ああー君が例の、彼から良く話は聞いているよ」

 なんて、見聞どころか普段から直接やり取りしている相手でありながら初対面の振りを通す。


「ちなみに、どんな話を……!」

「とても明るくてオーランくんが学校に来て右も左も分からない頃から良くしてくれたのでしょう? これからも、仲良くしてあげてねダリオくん」

「ダ、ダダダリオ、くん……!」

 鈴狐リンコの微笑みに当てられて、まんまと目をハートにするダリオくん。良い所を見せる気満々なようだが、いつも彼女が見ていることなど露知らずである。



「ある……アル、フ。どうかした?」

「アルフさん、もしやお友達がいらしたのですか?」

 真噛マカミ達もこちらに歩み寄ってくる。彼女が呼称を変えたのも、白鷺ハクロさんと恐らく口裏を合わせたからだろう。


「何だよそっちも女の子ばかりじゃないか。退魔士の企業ってもっとガチガチのオッサンとかイメージしていたんだが。バイトって嘘なのか?」

「いや『北斗』の人達だよ。そういう人もいるけど……」

「初めまして、白鷺ハクロと申します」

「わー、小さくて可愛い女の子だー。よろしくねー、お兄さんこの子ってお兄さんの後輩か何か?」

「いいや、大先輩だよ。たぶんこの中で一番歳上」


 健康的な小麦色の肌と黒い水着姿がマッチするレイチェル。彼女にそう答えた途端、一瞬間が出来た後からどっと笑われた。

 でも以前四英雄の精霊獣の中で一番の年長者だって話を聞いたんだけどなぁ。

「そんな訳ないでしょー、お兄さんも人が悪いなぁ!」

「先輩も冗談を言う時あるんですね」

「レイチェル、ロベルタ。冗談じゃないんだ。白鷺(ハクロ)さんは精霊獣だよ」

「僭越ながら『北斗』の長を、務めさせて頂いています」


 フリル水着を着た少女という外見からは似合わない紹介。

 事実に、レイチェル達は凍り付いた。


「……あははは……嘘デショ?」

「メディア露出を避けているものですから、馴染みの取引先ぐらいにしかあまり知られていないんです」

 本人が明言したのが決め手となって、開いた口が塞がらない女生徒達。ダリオは気にも留めずに鈴狐リンコに釘付けで鼻の下を伸ばしていた。

 

「あ、あたし達、実は退魔士を目指していて!」

「卒業後は『北斗』を志望していたんです!」

「そうなんですか。とても嬉しい限りですね、そんなにお若い時から我が社への入社を希望して頂けるなんて」

「ハッ……!? ということは兄さんの上司ということ……! あ、兄がいつもお世話になっています!」

「アルフさんの妹さんだったんですか。ええ、こちらこそ彼にはいつもお世話になっておりまして……」

 清楚でにこやかなスマイルを讃える白鷺ハクロさんと色めき立った彼女達は挨拶を交わした。もしかするとこれを契機にレイチェル達が本当に将来『北斗』へ入社するのかも。


「そういえば天金(アマガネ)がいるということは相棒のあの人も来てたりするのかな」

「え、あっ、もしかして天朧(アマオボロ)さんもいらして……!」

「あーごめん。彼はこういう場所に顔を出さないよ」

 恥ずかしがり屋さんだから、と鈴狐(リンコ)がこっそり横目で見ながら言う。


「それで、アリスのお兄さん。その子も『北斗』の?」

「あ、うん。彼女も精霊獣の……」

 真噛(マカミ)と言い掛けてダリオがいることを思い出す。

 この狼少女があの時の蒼狼であったことを知らせると、現状の俺との関係にも疑問が迫るだろう。

 特に契約して別れたと明言してしまったのに、何故一緒にいるのかと聞かれたら困るな。


「クオウ」

 帽子を取っ払い、獣の耳を露にさせて彼女はそう名乗る。俺には心当たりの無い偽名だ。



「へぇ! クオウちゃんかよろしくー、お耳可愛いー。ちょっと触って──」

「ダメッ」

 レイチェルが手を伸ばすなり、身構えるようにして後退した。


「頭、触って良いのは三人……四人、いや、五人?」

「ちょくちょく増えるんだね……」

「とにかくダメ」

「チェー」

 再び隠すように帽子を目深に被る真噛(マカミ)。よほど親しくないと撫でられたくないようだ。


「それにしても、こんな方達とお知り合いだなんて先輩凄いですね」

「レイチェルの言う通りさ。人の姿になれる精霊獣って珍しいんでしょ? それも三人と一緒にいるなんて驚きー」

「俺は、別に、凄くなんかないよ。たまたま、この人達と知り合いなだけで、偉い立場というわけでも無いし」

 何故か相対的に株価を上げていく後輩女子達の羨望の眼差しに言葉を濁す。

 

 わいのわいのと会話に盛り上がっている片隅でアリスと鈴孤(リンコ)の内緒話が俺の耳に届いた。

「……このままで大丈夫なんですか? 兄さんチヤホヤされちゃって何処かに行っちゃうかもしれませんよ?」

「ノープロブレム。私としては喜ばしいことだよ。もしも今回がきっかけで誰かとくっつこうものなら歓迎するさ」

「えー……歓迎しちゃうんだ……。やきもちとかそういうのは?」

「だって精霊獣の私達はセットだし、必然的にね。それに人の恋愛と精霊獣の絆はまた違うものだと思っている」

「そんなものでしょうか」

「というかそもそもの話」


 したり顔で顎を親指と人差し指の間に合わせる。

「むしろそうなる子に立ちはだかるハードルが心配だねぇ」

「……そう考えると、貴女と彼女(マカミ)に見合う魅力無いといけないのって相当難易度高いかも」

 この場を振り切って言ってしまいたい。話を勝手に飛躍しないでくれ!


「とりあえず互いに挨拶も済んだことだし、早速ビーチバレーやろうぜ。やる人、は……」

 口火を切ったダリオが挙手するのに合わせてレイチェルとアリスも手を挙げた。眼鏡っ子なロベルタはこの手のスポーツは苦手らしい。


 こちらで手を挙げたのは俺と鈴狐リンコ真噛マカミの三人。白鷺ハクロさんの「わたくしでは迷惑を掛けてしまうので……」という見学宣言によってちょうど数が合う。

 本来公式のルールでは二対二なのだが、そこは遊戯ということで御愛嬌。


「よっしゃ、それじゃあ俺達学生組とアルフ達企業組での試合ってことで」

「アリスぅ、お兄さんがいるからって手加減なしだからねー」

「分かってるってばレイチェル。ダリオ先輩も、良い所見せようとして滑らないでくださいよ」

「任せとけって。天金アマガネさん、よーく見ていてくださいよ」

「ほほう、お手並み拝見させてもらいましょう」


 砂を線引きして簡易ネットを張った出来合いのコートを挟んで俺達は明るい色彩のボールを手に並ぶ。

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