表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/186

襲撃の後のアクシデント。発覚と告白


 周囲を警戒しながら、俺達は一箇所に集まる。


虎土コドは大丈夫ですか?」

 アリスは心底不安そうに、自分の相棒を診療している鈴狐リンコに訊ねた。

 真噛マカミと違って防御出来ずにモロに攻撃を受けた虎は、意識が戻っていない。


 その間に、俺は他の護衛との連絡を再度試みる。

 状況は、終息しつつあった。無線に連絡が次々と入ってくるようになり、鬼の精霊獣たちの鎮圧及び捕縛に向かっているようだった。


 だが、殆どの個体が荒魂あらみたまとして沈黙した後も瘴気を放ち始める異変が報告され、現場の判断でただちに調伏された。夜兎ヨトが瘴気を含んだ精霊石を用いた影響が遅れて反映されたと見て良いだろう。火蜥蜴の時と同じだ。


 それにアレは召喚とは言えない。人が召喚台を通じて契約という釣り糸を精霊界の水面に垂らすのとは些か本質が異なる。推測であるが、あの兎童女はただ精霊界とこちら側を開いただけで、待機していた鬼達を招き寄せたのだ。


 厄介な相手だ。今回のように内側から呼び寄せられては、対応が後手に回るのは明瞭。



 そんな思案を続けている内に時間が経ち、

「うん。打ち身程度で命に別状はない。治癒術を使ったから、ちょっと休めばすぐに元気になるよ」

「ああ……良かった。ありがとうございます、ありがとう」

 毛皮を撫でる少女は心底安堵した声で、狐巫女に礼を繰り返した。


 そして俺の方にもやって来てアリスは頭を下げる。

天朧アマオボロさんもありがとうございました。学校で二人を助けてくれただけでなく、私の虎土コドまで救ってくださって」

「いや、俺が直接何かした訳でもない。別に良いんだ。蝶姫、貴女もご無事ですか? あの荒魂あらみたまの少女に連れ去られそうになりましたが」

「……あ、はい。怪我も特には」


 虎土コドの治療中に近くで休んでいたパピリアも、呼び掛けに答えられる程には余力が残っていた。

「彼女、一体何者なのでしょうか。何故私を」

「誰かと間違えた、と見て良いでしょう。荒魂あらみたまの妄言をお気になさらず」


 やはりパピリア自身にも心当たりがない。

 不安を煽らないように言ってはみたが、何か因果関係がありそうではある。

 ともあれ、事情聴取を受けて貰おうと俺は避難場所への移動を提案する。アリスも治療した虎土コドを引っ込めればこの場を離れられそうだ。


 此処もまだ完全に安全だとは限らない。夜兎ヨトが戻ってくるとは思えないが、鬼の残党が残っている可能性もある。


 そんな中で、俺の顔から嫌な音を立てていくのを耳にする。

 パキパキ、といった感じの、木々が割れるような異音だった。


 次の瞬間には、密閉された肌が外の空気に解放される感覚を味わう。視界が明るくなった。

 夜兎ヨトに受けた一撃が、こんなところで尾を引くとは。


 あっけなく俺の素顔を隠していた面が、砕け落ちた。

 アリスや蝶姫が、その異様な物音に視線を動かす。

 不味い、見られる。その場から……でも置き去りには……


 躊躇の内に、手で顔を隠そうとした俺の耳に声が聞こえる。


「うそ、でしょ?」

「っ……」

 開口一番はアリスだった。

「何で、そんな恰好しているの? ねぇ」


 妹の顔を見れば、表情の色を失っている。

 俺がアルフであると認知した反応だった。


「C級の筈なのに……S級の天朧アマオボロさんは……? どういうことなの?」

「それは……」

 声帯も仮面の効果を失い、元に戻った。


「つまり、それって、『北斗』の一翼を担ってる、ってこと?」

「そう。アルくんは、貴女のお兄さんは立派な退魔士としてやってきた」

 鈴狐リンコがもう隠し立ては出来ないと踏んで、注釈を入れた。


「隠していた理由は色々あるけどねぇ、一番の理由は」

鈴孤リンコ

 俺は遮った。知らなくて良い事だってある。


「えっ、何で、どうして黙ってたのよ。何か言ってはならない事情があるの? もしかして肩に乗ってた狐の精霊獣が天金アマガネだったってこと? 隠してたの? 妹の私……あっ」

 尻すぼみに言葉が消えた。アリスは墓穴を掘ったことに気付く。

 俺の前で言い放ってしまったのだ。兄とも何とも思ってはいないと。


 修羅場は、更に荒れる要素を呼び寄せた。

「言うに言えないのだよ、アリス」

 やって来たのは、くすんだ赤髪の中年男性。


 最悪なタイミングでやってきやがった。俺とアリスの父親が。

 避難場所からゼムナス・シェークリアは彼女を追って此処に来たらしい。そして、この場を見て冷静に状況を把握したようだ。


「元気そうだな」

「…………ああ、ほんとうに久しぶりだよ御父上」

「お父さん! アルフ兄さんが戻ってきた! あの天朧アマオボロとして活躍してたの!」

 妹はゼムナスに早口で報告した。彼女にとっての陣営はあちら側。


 俺の素顔を見て男は、特に面持ちを崩さず小さく息を吐いた。

「薄々予想は出来ていたが、やはりお前か」

 何が予想出来ていた、だ。男の言葉に、こみ上げてきた葛藤を押し殺す。



「見限っておいて、天朧アマオボロの正体が俺だと察していただと? 笑わせてくれる」

「やめて兄さん! せっかくお父さんと顔合わせ出来たのに、まだ仲違いを続け……えっ、ちょっと何? 放してよ!」

「アリスちゃん、少し大人しくしていて」

 事情を知らぬ彼女が仲介に入ろうとするのを、狐巫女が背後から肩を持って止める。

 

「ゼムナス、数年ぶりの再会に何か言いたいことはあるか?」

「そう、だな。随分大きくなった。立派にやれているようだな」

「……その程度か」


 ことの行く末を見ていた真噛マカミと蝶姫。俺は父親から離れ、パピリアのもとへ向かう。

「申し訳ありません。俺の素顔を見てしまった貴女にお願いがあります」

「は、はい」

「このことは、どうか他言無用に出来ないでしょうか? 色々世間に広がると不都合があるので」

「構いませんが、あの」

「感謝します。では、避難場所への移動を」

「ま、待って。よろしいのですか? 他人の私が言うのも何ですが、大事な家族とのお話の途中のようでは……」

「問題ありません。行きましょう」

 キッパリと言って、俺はパピリアを連れ出そうとする。


「逃げるのか?」

 背後から、挑発が飛んできた。


「そうだ。俺の意志でアンタの前から消える」

「なるほど。それも父への反撃というわけだな」

 分かっているじゃないか。有効利用の価値があることを知らしめた上で、喪失させるのを実感させる。

 家族としての縁があったのなら、俺を使えば社会的地位を目覚ましく向上させる可能性があったと後悔させてやれるのだ。


「だからついでに教えてやる。あの時召喚していた鈴狐リンコは、英雄アルファロランの相棒だったんだよ。見る目が無かったな」

 話を聞いていたアリスが、背で自身を遮る金髪の彼女に振り返る。


「シェークリア家が欲していたかつての栄光は二度と戻らない。当主が自らが台無しにしたって知った気分はどうだ?」

「いや、元よりアルファロランの伝承などあてにはしていない。むしろ、そこから抜け出す方向性に私が転換していた。今更その精霊獣が現れたとて、関係あるまいよ」

「やせ我慢にしか聞こえないな」

「何だ、離れる気ではなかったのか? 聞く気はあるようだが」


 せっかく遠ざかる気でいたのに、話に乗せられている。

 ムキになりかけていた自分に気付き、会話を打ち切ろうとした。


「私なら大丈夫」蝶姫は言った。

「しかし」

「大事なお話でしょう? こちらは後回しにして構いませんから、続けてください」

 促され、もう一度ゼムナスと向き直る。


「言うことがあるならさっさと言え」

「ああ、教えてやろう。お前があの日この私に理由を」


 周囲が凍り付くようだった。

 まさか、あろうことか、秘匿としていた忌まわしき過去を、ゼムナス本人が暴露したのだ。

 しかも、アリスの前で。当然、彼女は反応する。


「追い出、された? 兄さんが? 出て行ったのではなくて?」

「そう、言葉通り追い出した。召喚の儀で出来損ないと判断し、勘当を言い渡してシェークリア家から放逐した」

「ち、ちょっと待って、お父さん、言ってる意味が分からない……。何で追い出すことになるの? 確か兄さんがいなくなったのは10歳の時よ!? 『北斗』に住み込む為だとか思っていたのに、それじゃ育児放棄じゃない!」

「ああ、育児放棄だ。法も個人の情報も権力で封殺した上で、捨てたんだ」


 告白するように何の躊躇いなく所業を並べ、肯定する。気でも触れたのか? と疑う程に殊勝な態度だった。

 自分から、家族関係を壊す程の禁忌を語るゼムナス。俺も、その行為に理解が出来ずに戸惑う。

 秘密が漏れないように一方的にあらぬことを喚き立てるか、知らんふりを貫く方がまだ分かる。


「何がしたいんだよアンタ」

「懺悔に決まっている。私は」

 何と、父はかつて不要と見なした自分の前で膝をついた。跪いた。


「処遇をお前に任せる為に、全てを話す。だから語ろう、知り得なかったであろう私の感情を」

 そうしてゼムナス・シェークリアは胸の内にあった言葉を紡ぐ。




「私はお前を憎んでいた。その黒髪を見る度に、英雄という忌まわしき血を受け継いだと判断し、産まれた時からずっと忌避していたのだ」


 それは、呪いの言葉であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ